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第65修 思いがけない想いが解せない?



 ハザックがユースティを担ぎ、先導する中。霧を抜けて開けた場所に出る。


 ……まるで別の場所に来たかのように、明るく爽やかな空気。そこは影の者たちが居た集落の場所に環境がそっくりである。

 鬱蒼としていた筈の木々の隙間から太陽の光がきらきらと降り注ぎ、空気が澄んでいて居るだけで癒やされるようなその場所。白い小石が散らばる川のせせらぎが心地よい。



「ほら、ここなら他の気配もない。……ちょっとは落ち着いたかよ」



 ハザックの視線の先で、ソルリアは縦に首を振った。



「ハザックは、こういう場所がどこにあるか、わかるのか」


「絶対じゃない。大抵こういう場所に近づくと感覚がスッとするんだよ。緩むというか、切り換わる」


「たしかに……? ……意識しないと気付けないな」



 ソルリアが自身の救急セットから小さめの敷物を出せば、その上に人間を寝かせる。あとは勝手にしろ、というように二人から離れるハザックを見送って。

 ユースティの近くに座り、他にも怪我がないか確認する。



「__あれ、治ってる…………?」



 ひと目だけで明らかなその様子。先程の怪我のほとんどが、跡形もなく治癒していた。早すぎる回復に違和を感じたものの、とにかく休養を優先する必要がある。

 ソルリアが複雑な表情で見守りしばらくすると、改めて人間の瞼が開いた。



「……ん……」



 意識の混濁。ぼんやりとしていた人間だったが、ソルリアの顔を見た途端に固まってしまう。

 すぐに上体を起こし、向き直って一言。



「ごめん」


「謝るってことは、ちゃんと心当たりがあるんだよな」 



 ユースティが落とした、黒く丸い塊がいくつか入った袋を見せる。明らかに心当たりがあるといった表情で俯いてから、ぽつりと告げた。



「Mada、さ」 



 ……ああ、当たってほしくもない予測が当たってしまった。共に脅威を目の当たりにした筈のユースティが、その薬を持っていた。そして使用した形跡もあるのである。



「どこで手に入れたんだよ」


「この森で。あの時と同じ商人に会った」


「無理矢理飲まされたとか?」


「いいや、……」



 そこからはうってかわって明らかに言いづらそうで、話が進まない。それもそうだ。ユースティは敵から貰う、毒とわかりきったものを自分から服用したことになる。



「どうしてそんなことしたんだ」



 困惑と怒りが滲んでしまう声。勿論ユースティの返事はない。ソルリアは一度咳払いすると、いつものようにふわりと言ってみせた。



「おしえて、研修生?」


「…………」



 ずっと下にある目線が時折ソルリアのそれと合い、また逸れていく。



「飲むことを何かの交換条件にされた?」



 尋ねれば、一拍も置かず首を振り話し出す。

 


「自分から飲んだよ。意図しないタイミングで副作用が出ること、知ってたのに。おれ、そこまで考えられなかったんだ。

 君を不安にさせたら、意味がないのにな」



 返事にもならないその言葉に、ソルリアの表情が険しくなる。



「俺は、お前がどうしてこれを飲んだのか聞きたいんだけど」


「居ないほうがマシなくらい、おれが弱かったから……どちらにしろ、もう今更だけど。

 こんなふうに誰も助けられないなら、足を引っ張ることしか出来ないなら。せめて代わりに死ねたらどれだけ__」

 


 ぺちん。


 ソルリアが咄嗟にミトンの手をその頬に叩きつける。……と言っても、ろくに力の入っていない、むしろ叩けば反動のほうが痛いであろう細い手を添えただけ。


 沈黙の後、震えるシアン色と虚ろな常磐色の目線が合う。



「それ以上は、言うなよ。

 でなきゃ魔法で、お前を燃やしちゃうぞ」



 たどたどしく喉から絞り出したのは、脅しにもならない言葉。人間は静かに、ゆっくりと笑った。



「いいよ。でも、君の手を汚すのは嫌だな」


「………………っ、ちがう……っ」



 ソルリアは一転して歯痒そうに顔を歪める。しかし、唸り声をあげながら一度飲み込んで。大きくため息をついてから改めて人間へと向き合う。

 対してユースティはそんな少年を不安そうに、様子を窺うように見つめるばかりだった。



「ソルリア……」


「あのなユースティ! もっと俺を頼って。お前のことをおしえて、伝えてっ!」



 真っ直ぐに叫ばれて肩を跳ねさせる。……縮まりきっていない二人の距離に何を思ったのか、今まで離れて傍観していた狼男が聞こえる声で呟いた。



「__まあそいつ、追っ手から逃げまくった結果、オレサマがいなきゃ捕まってたがな」


「うるさいハザック、お前もなんとか言えよなっ」


「お節介野郎が死にたがりなんざ今更だし、オレサマには関係ねぇ」


「お前ー!!!!」



 少年が一転してハザックヘ飛びつき、ぽこぽこと叩く真似をする。それを許容されている辺り、彼もすっかり親しく馴染んでいるのだろう。……人間はふと自分の手を見つめて。広げ、握って、再び広げを繰り返す。



「おれは、おれだけど……」



 ソルリアは頬を膨らませ、じとりとした目線を向ける。



「ばか。まずはお前の名前をおしえて貰うぞ」


「? ……ユースティ、さ」


「それは師匠につけられたあだ名なんだろ」


「!」



 ウォロスでのアルムとの会話でちらりとこぼした内容を、ソルリアはきちんと覚えていた。



「まあ今の様子を見るに、お前はユースティって呼んでほしいんだろうし、俺もそう呼ぶつもりだけどさ。知ってるのと知らないとでは違うんだよ」


「そうなのかい?」



 ユースティはソルリアとハザックを見てから、その言葉に改めて納得したように口を開く。



「おれの名前はね、ショウさんと同じ形式なんだ」



 二人の視線を浴びながら、魔法の呪文を淡々と唱えるように告げた。

 


「みえにし、むく」



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