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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第61修 ほうまつ



 少年の真っ直ぐな言葉を聞き届けたプセマ。彼女は偽物の空を仰ぎ、大きく息を吸った。



「あは、あはははははっ」



 そうして吐き出されたのは乾いた笑い声。吐き出しきったあと、プセマは自身の目元を指で拭った。



「__ごめんなさい!」


「っ」



 ソルリアがすっかり崩れた表情で振り返る。うるんだ視界の先の彼女は、見事に吹っ切れた笑顔を浮かべていた。これには思わず少年も、会話の内容とは似合わない笑みを返してしまう。

 ユースティはそれを見てから、怪物を見据えた。



「盛大に振られたな、ソルリア」


「いっ、ちいち言うなってのユースっっ」


「……さあ、相手がくるよ!」



 これ以上は待ってはくれないのだろう、怪物は走り突進して来る。同時に三人はそれぞれの方向へと避けた。怪物は巨体でありながら小回りもきくようで、前にいる場合は突進や鼻息で、背後にいれば大きな尻尾で。その特徴を存分に活かし、全てをなぎ払おうとしてくる。このままでは近付けもしないと悟ったプセマは改めてばあどの姿を探すが、既にどこにもいなかった。



「自分は高みの見物、といったところなのね」


「逆に邪魔がなくてよかったよ。今でさえも埒が明かなそうだ!」


「なら、わたくしがあれの足を引っ掛けますわ。一本で巨体は動かせなくとも、何十も重ねれば……!」



 器用に動き、あっという間に重なった糸。それは怪物の足を捕らえ、バランスを崩させる。



「今ですわ、二人とも!」



 その声とともに飛び出したユースティとソルリアは、それぞれ風船斧と炎弾を叩き込んだ。怪物からは叫ぶような音が辺りに響き渡り、全員が耳を抑えながら後退し態勢を整える。なんとその声で、ウォロスを包む膜の複数箇所が破れてしまう。そこからは外側の海水が大きな音を立てて、滝のように流れ込んできた。



「っわ……っ、揺れるっっ」


「膜の強化さえ途切れましたわ……ウォロスの崩壊も本格的に始まった。お二人には安全に逃げる方法があるのでしょう? これが最後のチャンスですわよ」


「大丈夫。今出たところで意味がないさ!」


「君をおいて逃げるつもりなんて、ないっ」



 起こった揺れにふらつきはするものの、意志を曲げないユースティとソルリア。プセマもそこからは二人を窺うことなく、起き上がった怪物を見据える。再び糸を使うも、流石に何度も同じ手はきかない。怪物に糸を絡めるところまではできるが、その瞬間に全身で暴れ、引き千切られていく。しばらく様子を見ていたユースティがプセマの横へ並んだ。



「プセマ、そのままでよろしく頼むよ!」


「何かお考えで?」


「うん。時間がないなら一気に決めないと!」



 糸に警戒を向けつつ、こちらへ威嚇してくる怪物へ走っていく。その足元で浸水してきた水がばしゃばしゃと跳ねる。



「ソルリア、一緒に来てくれるかい。あれの隙を作るために視界に入って意識を逸らしたい! 全員で違う動きをするんだ!」


「わかったっ」



 風船斧を膨らませて、肉球を持つ手のなれない感覚にそれを取り落としかける。ユースティはふと思い出したように風船斧のサイズを縮め、再びブーメランのようにして投げた。怪物の巨体は器用に避けたが、風船斧を撃ち落としたりする余裕まではないようだ。



「こっちだぞ、でっかいのっ」



 ソルリアも大きく声を出し、怪物の意識を乱す。踏みつけるように持ち上げられた怪物の足にも、慌てながら避けていく。プセマは糸で。ユースティは道具を使って。パターンにならないように三人で同時に、何度も、何度も怪物への攻撃を繰り返していった。

 水位が上がり、お互いの動きも鈍くなっていく。しかしユースティは見極めて、その時をただひたすらに待って…………



「プセマ、今なら行けそうだ! ソルリアも魔法を撃って!」



 ふらふらになってきた巨体の様子を見逃すことなく、叫んだ。



「わかりましたわ!」


「は……っ、いくぞ……っ」



 ソルリアが詠唱し終わる直前、プセマの糸がしっかりと相手の足を絡める。……バランスを崩した怪物。呪文で生み出された高火力の炎の柱が、その巨体をまるごと包みこんだ。

 巨体のコードがちぎれバチバチと音を立てたあと、唸り声とともにズシン……と大きく、鈍く響き。怪物は動かなくなった。


 その頃には既にユースティの膝の辺りまで浸水し、ソルリアに至ってはなるべく高所に立たなければ沈んでしまいそうであった。その中でも、怪物が同じように水に足をとられていたということが成功に繋がったといえる。



「……こんなに、簡単に、……」



 プセマからこぼれた声。ソルリアも少し疲れた様子で倒れた巨体を見つめながら口を開く。



「そうだよ。ひとりじゃない。みんなで力を合わせたら、こんな未知数なやつも、倒しちゃえたりするんだ」


「__ふふ、もし、そうだとしたなら……」



 プセマの呟きを遮り、どこからかぱちぱち、と手を叩きながら現れるばあど。やはりどこからかずっと見ていたようで、上機嫌で軽い足取りを見せる。



「うん、うん! 三人で寄ってたかって文句なしの作戦勝ち! いいものが見られたな〜!」


「見世物じゃ、ないんだけどね」



 事実ではあるものの、その言い方にはユースティも苦笑するしかない。プセマが睨み、その者へと尋ねる。



「これで、約束は守ってくれるのですよね?」


「勿論さ。あなた達の成果に免じて、これ以上ウォロスへの手出しはやめておこう」



 サラリと告げて。またね、と意味ありげに笑んだ声色で、その者の姿は掻き消えていった。……それを見届けたソルリアが全身に込めていた力を抜き、へたり込もうとする。



「終わった……って、うぶっ」 


「ソルリア」



 水位が上がった今、ソルリアが気を抜けば簡単に溺れてしまう。咄嗟に駆け寄ったプセマが支え、なんとか水面で止まる。



「あ、ありひゃとうございます……?!」



 今までと何も変わらないまま、真っ赤になって動揺するソルリア。プセマはすっかり複雑になってしまった、けれど素直な笑顔をこぼした。



「ふふ……。まだ安心するには早過ぎましてよ」



 その時倒れた怪物の巨体が、突如不気味な音を立てながら光りだした。__爆発が起こる。そう誰もが理解する。しかし足をとられるほど上がっている水位のせいで、すぐ逃げには転じられない。

 このまま巻き込まれてしまう。……そんな時、ユースティとソルリアの背中が思い切り引っ張られ、体ごと浮かされた。



「な、」



 それは透明な糸で、直に引く力も勢いをつけていく。糸の使い手であるプセマ自身はその場に立ったまま、ウォロスを囲む膜の外側の方向へ体を引かれた二人とすれ違う。


 彼女がその場から逃げられるような時間は、もうない。



「ユースティ、ソルリア!」



 ソルリアは彼女とすれ違う直前、咄嗟に手を伸ばした。しかしその手は一瞥されただけで掴まれることはない。ゆっくりと時が流れているような感覚で過ぎていく一瞬の時間の中、めいっぱいの明るい笑顔を浮かべて叫んだ彼女の唇が動く。



「     」


「プセマっ……!」



 間もなくウォロスの膜へ叩き付けられたものの、糸が二人を導く強さは変わらない。とうとう二人の体は膜を突き破ることに成功してしまった。声が遮られる。水中では得体のしれない魔法で、全身も動かなくなる。ただ押し出された時の勢いをそのままに、ウォロスから引き離されていく体。


 やがて、視界がまばゆい光とともに歪む。広がって響いていく大きな衝撃波。水流が発生し、爆風に押し飛ばされるようにして、ウォロスからさらに遠ざかっていく。水中のため声を上げたくとも上げられず、動くこともできないまま。沢山の白い泡に包まれていく。 

  


 二人の意識はそのまま、ゆっくりと。暗い海の中へと溶けていった____



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