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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第50修 くんれん


 ──……草を踏みしめる音と共に、距離を縮めたユースティ、ノルムの二者。


 ヌンチャクと風船斧が弾きあい、間一髪を繰り返す。狙いはお互いの左胸……ヒトの急所についているたった一つの風船だ。近距離戦でありながらも武器の使いどころが難しい。お互いに疲労が見えているが、狙いの風船は案外脆いものである。触れられた時点で負けが確定するため、一瞬たりとも隙を見せないように努めなくてはならない。



「そろそろ決着をつけたいところだね、ノルムっ」


「ああ……御仁はなかなかに元気じゃのぅ」


「正直限界。そろそろ君も手加減出来なくなってくるころじゃないかい?」


「ああ……しかしまだ後も控えている。手段は選びたい……がっ」



 そういってノルムが体を内側へ勢いよく捻り、ヌンチャクの攻撃に一気に威力をつける。



「……っわ、?!」



 右外側へ風船斧が勢いよく圧され、ユースティは後ろへ体勢を崩し、腕を上に引き戻そうとした反動のままその柄を離してしまう。

 がら空きになったその体へ、捻った体の勢いを活かしたままのノルムの左腕が伸ばされ──風船を掴む。


 そうしてほぼ同時に響く、二つの破裂音。



「……な、」


「──……遅かった、かぁ……!」



 人間の苦しく悔しそうな笑顔の先には、……同じように割れた、ノルムの風船。


 視界の端でぽすっ、……と、小さな風船斧が草むらに落ちる。


 どうやらユースティは風船斧を手放す際にサイズをこれでもかと縮め、ブーメランのようにして投げたらしい。……それはやがてノルムの背を回って脇下を通る形で、風船を割ることが出来たのだ。

 これを狙うのは、かなりのコントロール能力と咄嗟の判断力が必要となる。ノルムの目が珍しく見開かれると同時に、観戦していたアルムの声が届く。



「僅差だな。だが、少し早かったノルムの勝ちだ!」




──────────



「はー……、悔しー……」



 ユースティはコップの水を飲み干し、大の字で地面に倒れ、脱力する。その隣で一口飲む仕草をしながらノルムは頷いた。



「あれは気付かなかった。捨て身ではあったが、不意を突くという点では最高の判断だったのぅ」


「へへ、だろ? でもあんなの二度と出来ないと思う!」



 二度はないと言いきってしまう人間に、再びその表情が崩れる。



「……まさかただの運まかせだったのか?」


「うん。まさか成功するなんて、って。おれも吃驚した。風船斧くんをブーメランみたいな使い方したことなんてなかったけど、訓練だからいいかなーって思ってさ!」



 起き上がりにしっと笑う顔に敵わないな、とこぼして。ノルムも水を飲み干した。



「親分みたいなことをいうな、御仁は。すごいことではあるが……少々危なっかしいぞ」


「アルムも結構手段を選ばないタイプなのかい?」


「ああ。彼は訓練でなくてもはちゃめちゃな戦闘をして、なにか免罪符を見つけて言い訳をするのぅ」


「っはは、なんて悪い奴だ」



 そうしてユースティの目を見て、穏やかに告げる。



「親分のようにちゃんと対応できればいいものの……やり過ぎれば捨て身そのものじゃ。全てが良い結果になるとは限らない。注意するんじゃよ?」



 そんな彼の心配に目を合わせて暫く固まってしまう。……が、すぐにはにかむような反応を返した。



「……はあい!」



 そして二人の後はラルムとソルリアの訓練模擬戦が始まっていたのだが、彼らも彼らで長引いていた。

 ラルムは変形自在の銃を使って次々と閃光を撃ち出すが、ソルリアに全て避けられてしまう。一方で攻撃が止む隙もないため、場は膠着状態となってしまっていた。



「あの二人もなかなか終わらない……というよりは、進んでないな」


「ああ。どちらも譲らないのぅ」


「なぁ、アルム……せめてソルリアも魔法が使えたらなー……?」



 揃って目線を向けられたアルムは、ピクニックで使うようなコップを整理しつつ、苦笑いする。



「その時点で二対一だからだーめ。今日は体力作りついでに、個人なりの動き方も掴んでいって貰いたいしな」


「どうにかしなきゃ、このままで夜になりそうだよ?」


「……。まぁ、確かになぁー……」



 彼も戦況が滞っていることはわかっているようで、どうしたものかと目を細める。……そんな時、ラルムが痺れを切らしたのか、声をあげた。



「どうした腰抜け、逃げてばっかじゃないか!」


「お前が間髪いれずに撃ちまくってくるからだろっ」



 ソルリアも息切れはしているが、まだまだ言い返す余裕はある。



「ほら、ボクは遠慮なんてしないぞ。魔法でも使ってみたらどうなんだ。疲れたところをそのまま撃ち抜かれて終わりたいのか!」


「そういわれてもだなっ」



 煽られたように、魔法を使うように手を翳してみる。しかし何も出る気配はなく、すぐに弾を避ける行動へ戻ってしまった。それを目敏く見つけたラルムは、煽るように続ける。



「っああ、一人じゃ魔法も使えないんだったか。お前みたいな奴がいると、周りの奴らはとんだ迷惑だって思ってたろうな!」


「!」



 反応はしたものの何も言わないソルリアに、険しくなっていくラルムの表情。言葉も鋭いものへと変わっていく。



「それに懲りず今度は旅に出たときた。場所が変わったって本人がどうにもならなきゃ、変われないのに!

 これからもお前は、肝心な時に他人の足を引っ張るんだ。まともな死にかたも出来ないだろうさ!」


「……」


「魔法が使えない奴は大人しく、あの慈愛の国に引きこもっていればよかった! ……そう後悔する前に旅なんてもうやめて、国に帰ったらどうだ、ソルリア!」


「ラルム、その発言はちょっと待つべきだ__」



 ユースティが口を挟もうとして立ち上がった時、ソルリアがまっすぐにラルムへと向く。



「お前の言う通りだ、迷惑に違いなかったっ」


「!」


「それでもみんなは、ユースティは。俺の可能性を信じてくれたんだ!

 あの言葉たちを嘘と取れる程俺は卑屈じゃない。ここで旅も魔法も諦めたら、ただの迷惑で終わってしまう。そんなのごめんだよっ!」


「──ソルリア……」



 黙り込むラルム。表情を明るくしたユースティが身を乗り出すと同時に、ソルリアは前に踏み出す。



「……それにさ、段々と一人で魔法……使えるようになってきてはいるんだぜ」


「っは、? そんなのハッタリだろ、」


「いくぞ、怪我したって知らないんだからなっ」



 そのまま一気に飛び込むようにして、ラルムの風船へ手を翳す。



「____炎よ、っ!!」



 そう叫ぶ。その手から魔法が解き放たれることはない。しかし呆然とその手を見つめてしまったラルムに……ソルリアは、ほくそえむ。



「ほら、お前も今。

 俺が魔法を“使える”って。思えたんだよなっ」


「…………っな、……」



 風船は割らない。……一度静まったその空間に、アルムの声が投げられる。



「お前ら! このまま最終戦、いくぞ!」


「「!」」



 ハッとしてお互いに距離をとり、後ろから飛び込んで来たユースティへ目線を向けたソルリア。



「ソルリア! あまりにも良い勝負してたから、おれとノルムが続投することになったよ!」


「嘘だろ、もうへとへとだって……っ」


「そう言いながらちゃんと構えてくれるんだな!」



 ラルムも後ろから歩いて来たノルムに、苦くも不機嫌ではなさそうな表情で振り返る。



「……やられた。あいつが今魔法を使えてるワケ、なかったのに」


「そうだな。彼方もいい二人組じゃ」


「悔しいよ。やり返さなきゃ」


「あぁ、共に頑張ろう」



 一度各々お互いの陣営にわかれたことを確認し、アルムは頷くと再び声をあげた。



「よし、──開始だ!」



 その声と同時にノルムが駆け出し、ラルムがその場で構える。向けられた銃口から閃光弾が飛び出し、二人に比べて出遅れたユースティとソルリアの足元へと着弾した。それによって分断を余儀なくさせられ、続いてノルムの攻撃がユースティへと襲いかかる。



「うぉわっ?!」


「確実に勝ちにいかせて貰う!」



 横に凪がれたヌンチャクを咄嗟に仰け反り、なんとか避ける。そのまま距離をとろうとするユースティ。しかし押しが得意なノルムにすぐ追い付かれ、なかなか緊張の糸を緩めることが出来ない。ラルムの掩護射撃も、ユースティの逃げる場所を絞っていって──



「ユースティ!」


「!」


「俺はいつでも行けるぞ!」



 ノーマークとなっていたソルリアがあげた大きな声。ユースティはその声に頷くとアルムのチョーカーが自分の手にあることを確認し、距離を詰めて来たノルムに頭突きする。



「ぐ、っ?!」


「い゛っ……たいけど、おれもこれで行けるよ!」



 僅かに出来た隙。自らも額をおさえつつ、ソルリアの方にチョーカーを持った手を伸ばす。



「ソルリア!」


「ああ、──……”炎よ”っ」



 たちまち大きな炎がラルムに向かって放たれ、相手の攻撃が完全に断たれる。ソルリアはそのまま連続して魔法陣のかかれた紙を持つと、エトワールから教わった呪文を唱えた。



「わがい……すべんくごん……かん……ことえぐんっ」



 たちまち魔法陣から現れた複数の火球。それらを円上に浮かび上がらせ、各々が攻撃対象を追いかけた。ノルムは痛む額をおさえつつも火球をヌンチャクで払うように、ラルムも淡々と避けるしかなく叫ぶ。



「はあ?! なんだよその呪文!」


「兄貴に教えて貰ったんだよっ」


「お前の兄貴、変なやつ!」


「はー?! 変じゃないよっ」



 最早慣れてきた二人の言い合いだが、ようやく先程の火球を処理しきったノルムの声が響く。



「ラルム、後ろじゃ!」


「!」



 いつの間にか背後からユースティが腕を伸ばし、ラルムの風船を割りに来ていた。咄嗟に体を反らして躱し銃を構えたが、直後に本命だと言わんばかりに振るわれた風船斧に勢いよく打ち飛ばされ、放物線を描いて落ちた銃は拾われてしまう。



「あっ」


「そう、これが普通の銃とどういう風に違うのか気になってたんだよなー……って重、っなにこれ、こんなに重かったのかい?!」



 その銃を両手で持ち上げるのがやっと、とでも言うようにふらつくユースティ。ラルムは悪化した状況に顔を顰めつつも武器奪還の手段を考える。



「残念だけど、ボク以外はまともに持てないようになってるんだよっ」


「へええ、おもしろいな! 変形とか、撃ち出しの仕組みが気になるよ!」


「装置を起動して引き金を引くだけ! 重いのはこれが持ち主の魂と共鳴するものだからで……って、早くそれ返せよっ!」


「嫌だよ、これは反転攻勢のチャンスってやつだもんなー!」



 武器を失い丸腰のラルムと、銃を物珍しそうに持ちつつ攻撃を続けようとしたユースティ。そんな二人の間に、アルムが飛び込み着地した。その左胸の急所にはユースティたち同様、風船をつけている。



「……えっ」


「親分?!」


「な、やっぱりオレも混ざっていいかな!」


「ちょっ待っ、一体どっち陣営で……?!」


「勿論、第三陣営で!」


「ぐえ、ちょ、親分ー?!」



 武器もなく抗いようのないラルムは腕を引かれ、その場へ倒されるようにしながら風船を割られた。すぐにユースティも足を引っかけられて体勢を崩す。反撃としてなんとかアルムの方に手を伸ばそうとしたが、その前に自分の風船をさらわれた。

 


「急すぎるよアルムおぅぁあー?!」



 あっという間に倒された二人。アルムは少し離れた位置にいたノルムとソルリアへと向く。



「よーし、後二人ぃ!」


「そんなのありかよっ」


「ああ、親分は前からああいうヒトじゃのぅ」



 次に狙いをつけられたノルムは、ヌンチャクを振るい幅広い防御に撤しようとする。しかしそれだけでは体を自由に使えるアルムへの牽制にはならず、下から潜り込まれて風船を割られてしまう。



「くっ」


「さぁ、最後はお前だソル坊!」


「嘘だろ、そんなの無理だってっ……わがい すべんくごんかん ことんえぐんっ」



 残るはソルリアのみ。無理とは言いつつもただでやられる気はないらしく、エトワールの魔法陣の紙を持って、その呪文を唱えて応戦する。

 現れた複数の火球を纏うようにしつつ、いつでも放てる用意を整える。隙のない展開をしたソルリアに上手く近付くことが出来ず、アルムは感嘆をこぼす。



「へぇ。とんでもなく良い魔法を教えられてるし、使い方もなかなか筋がいいな」


「ありがとっ」



 それだけでは気が緩むことはなく、放たれた火球をアルムが避ければ、着弾した先の草むらを少しだけ焦がして掻き消える。



「うおっ消えた、今のは?」


「魔法を構成する魔素の並びを解いた。勢いは無くならないからちょっとは焦がしちゃうけどっ」


「それなら最初から、威力を調整したらいいんじゃないか?」



 ソルリアはその正論にうぐ、と詰まるものの手は緩めない。数も十分だ。



「基礎や理論はともかく、実演はまだまだ初心者なんですーっ」


「あーあーそうか、悪かった。……それにしてはかなり上手くやってるけどな!」



 その手腕を褒められても、布陣は崩れない。



「当たり前だろ。これでもヒト一倍勉強はしてたし、兄貴から訓練も受けたからなっ」


「うんうん。お前のお兄さんがすごく優秀な魔法使いだっていうのも、よーくわかった気がする」


「っ、えへへ……そうだろ、兄貴はすごいんだぞっ」



 しかし兄のことを褒められると、途端に照れて胸を張ったソルリア。そんな彼にアルムに距離を一気に詰められ、その風船へと一撃。



「隙あり!」


「えぅわぎゃーっ」



 ──……本日の実戦訓練最終戦は、四人全員の風船が割られ、アルムの勝ちとなった。



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