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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第49修 ちゃっか


 ────……小屋へ帰り、ユースティとソルリアが眠りについた後。

 ぼんやりと微睡んでいたソルリアは、意識を幻に浮かび上がらせた。


 そこはしっかりと磨かれたタイルが敷かれた煌びやかな空間。奥正面と左右側には、二階へ続く大階段。手前にある左右の柱を越えた先には、料理が並べられたパーティーテーブルがあった。

 そして周りで談笑する、華やかな衣装に身を包んだどこかおかしなウォロスの者達……ここは恐らく、プセマと共に入ったあの城の大広間だ。



「あれ、もうパーティーに来たんだっけ。……いや今日は寝た筈だし、夢……?」



 それに招待されたのは自分だけではない。周囲を見渡し、ユースティの姿が見当たらないことに気付く。前後の記憶がないことにも違和を感じた少年は、これがすぐに夢だという判別が出来た。



「なんだか、目線も高いような」



 彼がテーブルにあった鏡に近づけば、燕尾服を来て髪型もそれなりに整えられている自分を見ることになる。顔立ちも気のせいかちょっと大人びて、頭身も上がっている故に……なんだか彼の兄の姿そっくりに見える。



「なにこれ、ほんとに俺なの」



 ソルリアはくるくるまわりつつ燕尾服に触れる。折り畳まれたままの羽が開いた時に通りそうな場所も、複数の腕も通せる袖がついていた。それは普段隠しているありのままが表に出ていながらもツギハギさを感じない。この姿ならば初対面で怖がられることはあまり無い筈だ。



「むしろ格好いいかも」



 なんて自身をまじまじとみた後、ハッとして周りを見渡す。特に周りのお客には気にされていないようで、安堵すると共にむず痒い。……夢の中だからこそ、こうした自分の望む姿を目の当たりにしてしまっているのだろうか。

 そんな時、甲高い悲鳴が聞こえる。直後に重い物が落ちた衝撃と、硝子細工が割れる大きな音が同時に響きわたった。



「?!」



 違和感のある体で走り、柱を越えた時……少年の目は驚きに見開かれた。散乱した硝子の破片に、壊れてもう二度と使えないであろう大きなシャンデリア。その真下に敷かれた黒髪と、静かに広がっていく血だまり。


 彼は直感する──広がっていくその血は、共に旅をしている人間のものだ、ということを。



「ユース」



 パーティーの招待客であり、悲鳴の主であろう者がすぐ近くで尻餅をつき、固まっている。恐らくユースティはその者を助けようとして突き飛ばし、自らシャンデリアの下敷きになったのだろう。

 安全装置が起動したのか、他の照明も直に落ちた。一連の事件に周りは喧騒に包まれているのだろうが、少年の耳には全く入ってこない。ただ自身の喉から出た、か細い声だけがはっきりと認識出来ていた。



「ユースティ」



 破片を気に留めることもせず駆け寄り、膝をついて声をかけるが返事がない。人間の上に落ちた照明を持ち上げようにも、大きすぎて一人の力じゃびくともしない。

 暗闇の中、見下ろす視線に気付き見上げる。そこにいた者の表情は見えない筈なのに、焦るような感情を認識出来た。直感でその正体もわかった少年は、あふれる言葉をおさえることが出来ない。



「おい……これをやった本人が、どうしてそんな顔をしてるんだよ──」


「ソルリア!!」


「!」



 聞き慣れた声に一瞬で意識が引き戻される感覚。驚いて体を起こせば高くなっていた視線はすっかり元通りになっており、そこには心配そうに彼をみるユースティの姿がうつった。



「大丈夫かい、すごく魘されていたけど!」



 冷えた肝がじんわりと温もりを宿していく──今のは全て夢だ。わかっていた筈なのにのめり込んでしまっていた少年の肩から、一気に力が抜ける。先日から引き続いての悪夢だ。なんだか胸が痛い。



「あ、あぁ……まあ」


「どうしたんだ、風船斧くんが萎んだ時みたいになっちゃって……あ!」



 人間はふと止まって、察してしまったと言わんばかりに自分の口元に両手を持っていく。



「まさか実は良い夢……プセマとのデートの途中だったりした?! 起こしちゃってごめんな!」


「いやそれならこんなに魘されないからっ」



 少年は突っ込みをいれるが、とあることに気が付く。ユースティの右手元にある傷だ。



「ユース、手にそんな傷あったか?」


「え? ……ほんとだ」



 浅いものの広く裂けたそれは、うっかりでは中々出来ないものであり、痛みがあった筈だ。しかしいつその怪我をしたのか、それに関する記憶は二人とも思い出せない。

 


「うぁ……気付いたらじんじんしてきたかも。もしかしたらさっき破片を拾ってた時、切っちゃったのかな」


「鈍感だな。血も止まってるみたいだし……って、さっき? ここに割れるものなんてあったっけ?」


「かつてウォルターが持っていた方のカップさ。さっき大きく辺りが揺れて、落ちちゃって」


「揺れって、まさか昨日みたいなの?」


「うん。昨日からの換気が終わったのか、またウォロスが水中に降りたみたいなんだ。ある程度掃除した後に君が魘されてるのに気付いて、今に至るよ」


「全く気付かなかった……俺もお前のこといえないや」



 少しの間二人は不思議そうにその傷を見つめていたが、ふとソルリアが溢す。



「……なんだか、昨日よりまた暖かくなってないか?」


「おれはね、今日のウォロスはとても暑くなりそうだなって思ってるよ」


「どうして?」


「世界には、一年で大きく分けて春、夏、秋、冬。四つの気候に移り変わる地域があったんだって。ウォロスでも雪の冬、桜の春ときたら、……さ!」


「次は……ナツってやつ?」


「ああ、早速答え合わせに行こうぜ!」



 軽い身支度を終えると、二人で小屋の扉を開ける。


 昨日より強い日差しの暑さに、明るく清々しい青空。地を張っていた水はなくなっていたものの、一面に緑があふれていた。一転して輝く二人の目。壁や建物の立地は変わらないものの、まるでそこは別世界だった。



「草原だ!!」


「青空だっ」


「周りの木も、針葉樹じゃなくなってる!」


「全部植え変わってるのか」


「一体どうやって……これも、魔法??」



 小屋を出てキョロキョロと見回す彼らに、再び声がかかる。



「おーおー、今日も元気だねぇお前ら」


「おはようアルム! 今から丁度君たちのところに行こうとしてたところさ!」


「おお。よかった、本当に来てくれるのか」



 今回は驚くこともなく、その声の方を向くことが出来る。そこには再び背の高いツンツン頭の男がいた。その嬉しそうにした様子にソルリアが口を挟む。



「あんなにグイグイきてたくせに疑ってたの」


「人間、気が変わることは良くあるしさ。ま、もっかい念押ししようとは思ってた!

 それに今ならウォルターの目を気にしなくてもいいんだ、あいつ支援者の勧誘のためか外に出ていったみたいでさ!」


「……彼は、自分の意志でウォロスの外に出られるんだね?」



 ユースティの疑問に、アルムは自分が言ったことを思い起こしながら頷く。



「あいつと一緒に出入りするか、歪みとかを使うしか今は手段がない。そもそもウォロスは遠い過去の建造物で、第一発見者だったあいつが国から管理を任された……って経緯があってな。

 陸の孤島ならぬ水中の孤泡だからさ、整備や点検は一人じゃしきれない。だから支援を求めて外に出て、定期的に候補者や支援者をもてなしたりしてんの」


「それが明日、あの城でパーティーをする理由なのかい?」



 ユースティがそう尋ねれば、アルムは動きを止めて二人を見る。



「知ってるってことは……お前らも誘われたのか。気を付けろよユースティ」


「俺も気を付けとく。ユースはなーんか、目を離すと危ないからなっ」


「どうしてさ、おれは大丈夫だよ」



 自身だけ名指しされた意味をわかっていないユースティの言葉を、ソルリアは正面から否定する。



「どの口が言ってるんだよ、大丈夫じゃない」


「悪いがユースティ、オレもソル坊に同意だ」


「えぇ!!」



 向き合って頷き合うアルムとソルリア、そして不服げなユースティ。三人は雑談もそこそこにして共に歩いていく。



「まあ訓練の話に戻ると……魔素の色を見る限り、ユースティは風や木属性の魔法を主力に出来ると思う。一方でソル坊は判断に困ったんだが……

 とにかく、お前は共感しやすい体質なのかなとは思った」


「共感?」


「他の魔素にも馴染みやすい、っていうのかな。だから空気中の魔素と必要以上に混ざりやすくなってしまって、余計に魔法が使いにくくなってるんじゃないか、って。

 だから一回、これを使ってみてほしい」



 そうして、手慣れた手付きで首もとのタトゥーチョーカーを外して指でひらひらと遊ぶようにする。



「腕輪にもチョーカーにも出来る、世界に一つしかない特別な機能がついてるモノだぜ」


「それ、もらって良いのか……?」


「ばぁか。やるとはいってねーよ。それに、ソル坊が持つ訳でもないしな!」



 そういって、ユースティの方にその輪っかを渡した。



「……えっ、おれ?」


「そ。ソル坊が一人で魔法を使えるようになるまで、お前はそれで魔法の着火役をしてやることになる」


「着火役! これで出来るんだね?!」



 かつて求めていたことが出来るようになる。チョーカーを受け取るとすぐさま前のめりで迫ったユースティに、アルムは苦笑しつつも続ける。



「身体に着けなくても良いから、それを常に持っておく。後はソル坊が魔法を使う時、一緒に意識するだけだ」


「わかった! ソルリア、早速魔法を使ってくれるかい!」


「そんな急に、いや、でも……。い、いくぞ?」



 半信半疑な様子を見せているソルリアも気になりはするのか、ちらちらとチョーカーを見て、指示されるままに両手を何もない方向へ構えた。ユースティたちに見守られる中、いつものように魔素を集め、並べることに集中して──



「“炎よ”」



 なんといきなり、授業の時にも出した大きめの炎がその手に産み出された。ソルリアの瞳が照らされ、輝く。



「わぁ……!」


「おお、いきなり成功したな。タイミングをわかってるのか、ユースティ!」


「フッブで魔素の並べ方は習ったから、簡単なイメージならしやすいのかもな! でも、これはソルリアが普通に魔法を使えるようになってる……とかではないのかい?」


「ああ。試しにもっかいやってもらおうぜ。オレがチョーカーを持って、タイミングも合わせないようにするからさ」


「うん」



 アルムの手にチョーカーが戻ったことを確認し、ソルリアは同じように集中する。



「“炎よ”」



 今度は一切何も起こることはない。少し複雑そうな表情をしたが、すぐに切り換えた。



「……もっかい。合わせてくれるか、ユース?」


「ん、勿論さ!」


「ありがと。──“炎よ”っ」



 アルムからチョーカーを再び預かったユースティが、ソルリアの魔法が使われる瞬間を意識する。そうすればたちまち魔法の炎が産み出せるようになった。


 ……直後に二人してまじまじとそのチョーカーを見つめだしたため、アルムは吹き出した。



「良い感じだな。どんな場合でも合わせられるように練習してればユースティの体もより早く、魔素に順応しやすくなると思うし……実戦練習とかで、二人共が魔法を使う感覚をモノにするきっかけになれば嬉しいぜ」


「それなんだけどさ……。無茶だよ。前見たお前みたいな動きなんて出来る気しないっ」


「だいじょーぶ。逆にいきなりあれをされたらオレでも引く! ルールもアドバイスも適宜判断して共有するから、そこは安心してくれ!」



 やがて秘密の道を通り壁の外側へとたどり着けば、既にそこにいたラルムが振り返り、ノルムも一礼する。



「……ふーん。また来たってことは、やる気はあるんだね」


「協力、感謝する」


「よろしく、二人とも!」


「お手柔らかにー……?」



 にし、と応えるユースティと、控えめながらも挨拶したソルリア。アルムはそんな四人に満足げに頷いた。



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