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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第48修 とくべつ


 それをきらきらと見送ってから手を合わせ、さっそくミュールンの形のハンバーグを切り分けて口にいれると、ユースティは満面の笑顔を溢す。



「美味しい……ちょっと照れくさいけどさ、皆全力で楽しませてくれてるよね。ほら、ぴょんぴょんだって、ソルリア」



 先程の真似をしようと頭に手を当ててはいるが、肘を外側に向けてわきわきとしだす。

 ……最早わざとらしいとさえ感じる間違い方だ。訂正するためにポーズをとるソルリア。



「違うぞユースこうするんだよ。それで、指先だけ曲げてぴょんぴょんって」


「あれ違った? ってソルリアもすっかりその気じゃん」


「うっ、お前が変な間違え方してるからだろ」


「お呼びでしょうかご主人様。カードをお渡しになりたい案内人の名前を教えていただけましたら、お手伝いいたします!」


「うわぁあっすみませんこれは動作の確認をしただけですっ」



 店員に声をかけられて飛び上がるように叫んで三度目、補充されている冷水を一気飲みした。ユースティはくすくすと笑う。



「なんだよ、ソルリアはプセマさんに渡すんじゃないのか?」


「もしかしなくてもからかってるなっ。そういうユースは誰に渡すのさっ」


「あー……えぇとー……おれはねー……」



 辺りをしばらく見回すが、いまいちハッキリとしない。ソルリアは仕返しとばかりに問い詰める。



「ほら、好きって店員さんに渡すんだろ。お前はどの子がいいんだよっ」



 ユースティはうーん、とうなり決められないといった風にソルリアへ目線を返した。



「おれは、そういうのはもっとお互いを知ってからがいいなあ」


「なんだそれ、ずるいっ」



 わちゃわちゃと応酬をする二人の席に、声がかかる。



「──決めかねるようでしたら、わたしはいかがでしょう?」


「!」


「自己紹介が遅れてしまって申し訳ありません。わたしは料理を極めるためにゆめの国に来た、うるふと申します」



 そういって給仕服を両手でつまみ、お辞儀をした。白い狼の仮面をつけたうるふに、ユースティは振り向く。



「ばあどから聞いてるよ、いつもありがとう。もしかして、これも君が作ってくれた?」


「はい、お味には自信があります。……気に入っていただけていますか」


「すっごく美味しいよ!」


「ありがとうございます」



 抑揚が少ない話し方でありつつ、声色に喜色を滲ませている。ユースティはそんな相手の様子を見つつカードを両手に持ち、差し出す。



「声をかけてもらったし、折角だから君に渡しても?」


「はい、喜んで」



 渋っていたのにも関わらず、さらりとカードを渡してしまったユースティ。目をぱちくりさせるソルリア。

 そのまま人間はうるふと楽しそうに会話をし、ポーズをうきうきと決め、ツーショットだけでなく他の店員との写真も撮ったりしていった。


 一通りを終えてユースティが気取ったように片膝をつき、うるふの手の甲にキスする──あくまでもフリをし、一礼する。



「ありがとう、うるふ」


「……こちらこそ。今から一番よく撮れているものにお手紙を書いてお渡ししますから、待っててください」



 写真を取った機械から一枚ずつ出て来たそれぞれを見て、うるふは裏方へと歩いていった。しばらくするとカード風になったその写真にうるふのメッセージが記入され、ユースティに手渡される。


一連の出来事を呆然と見ていることしか出来なかったソルリアの喉から、呆けた声が漏れた。



「あ、あえ……」


「写真だー! 良く出来てるね、これ。

 ソルリア。これならそんなに時間もとらないし、おこがましくないよ。渡してみな?」


「っいや、時間とかの問題じゃなくてだな……俺はいいよっ」



 再びお冷やを一気飲みしてしまう。彼はいつのまにやらプレートのご飯も平らげてしまっていた。半分楽しんでソルリアへ見せつけていたユースティは流石にからかいすぎたか、と内省しつつ様子を見る。



「……というかソルリア、その水氷も入ってるよな。滅茶苦茶飲んでるし、しかもすっごく早くご飯食べきったみたいだけど、大丈夫?」


「こんなくらいだいじょ、」



 そろそろ心配になってきた直後、ソルリアは青ざめて小さく丸まってしまった。大丈夫じゃなかったようだ。



「あちゃー……」


「ただいま帰りましたわ……あら? どうしたんですのソルリア?」


「お帰り。じつはソルリアが──」



 すぐに戻って来たプセマへ、カードのことも含めて全てを話そうとしたユースティ。それを遮るようにソルリアが少々震えた声を張りあげる。



「あのごめんプセマ、お手洗いってどこかなっ」


「お客様用のお手洗いはあちらですわ。ご案内いたしましょうか?」


「ありがとう一人でいって来るから……っ。ユースっ。俺がいないからって変なこと言わないでよっ」


「えぇ、フリかい?」


「違うから、あんまりからかうなら俺だって怒るんだからなっ」


「はは、わかったわかった。いってらっしゃい」



 そのままちらちらと振り返りつつもプセマの示した方角へと走っていき……残されたプセマとユースティ。

 厨房の方では、他のお客のオーダーであろう、食材が炒められている音が聞こえる。すっかり落ち着いた店内だが、きらきらと光るカラフルな照明が引き続き非現実感を強く醸し出していた。



「……ソルリアはあんなこと言うけどおれ、結構喋るの苦手なんだよなー」



 呟きにしてははっきりと告げたユースティの言葉に、プセマは笑顔をそのままに返す。



「あら、わたくしと同じですわね」


「君もなのかい。そんな風には見えてなかったな」


「ふふ、ユースティさんも苦手そうには見えませんもの」


「はは、そんなこと初めて言われたかも」



 お互いに発言を急ごうとはせず、ゆったりと時間が流れていく。周囲の喧騒へ視線を移し、目を細めて。



「きっと今はお互いに、ちゃんと『偽者』を演じられているのでしょうね」


「……。そう、かもな」



 お互いにそれぞれ別の方向を見ながらも、やがてユースティが話を切り出した。

 


「──……ねぇ。君に聞きたいことがある。

 昨日、このお店のカウンターで君が接客してるところを見たんだ。彼はどういう立場の人だったんだい?」


「あら、それはお客様の個人情報になりますわよ」


「お願い。その人のことじゃなくて、君がどういう考えで接していたのか。そっちを知りたいんだ」



 プセマもそのままの表情で、特に気にしていないようにして言葉を続ける。



「一言で言ってしまえば、ウォロスの援助者に対する御礼、でしょうか」


「君が応対を任されているのかい?」


「このお店の存在自体がお父様からの指示ですわ。その役割の一つとして援助者へのおもてなしがあり、わたくしは特に見目も良いから、と任されておりますのよ」



 ユースティはあたりのよい言葉を探したが、輪郭がぼやけたものしか見つからなかった。



「君はそれでいいって、思えているのかい?」


「あなたにはどう見えまして?」



 案の定上手くかわされ、少しの沈黙の後。ユースティはプセマの顔を見つめた。



「おれは本気だよ。彼を疑いたくはないけど、もし君が望んでないことを強制され続けているなら……放っておきたくないし、助けたいって思う」


「それはどうして? ソルリアと違ってあなたはわたくしに何も感じていない筈。

 ……むしろ、無関心のほうが近いまでありますわ」



 返されたのは見透かすような視線。はっきりと告げた彼女へ一度驚いた目を向けて、表情を歪め……それでも、縋るように続けた。



「助けたいって思うことに、理由なんているのかい?」



 その返答にプセマは口角だけを吊り上げ、不自然に間を置き天井を仰ぐ。



「わたくしがお父様の子として愛されていることは痛いほど伝わってきますのよ。けれど一方で、所詮は他人だって思いたい時も沢山ありますわ。……でも大丈夫。この苦しみも、もう後少し。

 あなたのお陰ですわ、ユースティさん」


「? 一体どういう__」



 ユースティが更に踏み込もうとした時。お手洗いから戻って来て少し具合が良くなったらしいソルリアがとてとてと帰って来る。



「ごめん、一旦落ち着いた……

 ってユース、変な顔してるぞ。なんかあったのか?」


「お帰りソルリア、あー、ええとなぁ」



 切り替えを余儀なくされてどう伝えれば良いか迷ってしまったユースティに、プセマが割り込んだ。



「お帰りなさい、ソルリア。

 今ユースティさんと例のパーティーのお話になりまして、日時は明後日の夕刻から、と言うことをお伝えしようとしていたところでしたのよ」


「へっ、へーっ。それぐらい近い日程なら俺たちも行けるんじゃないかな。良いよな、ユースっ」



 プセマに対してソルリアは一転してどもりつつも期待の目線を向ける。誘いを断る理由はないため、ユースティは頷いた。



「うん、そうだな!」


「当日はわたくしたちも場内で給仕をしていますので、比較的出会いやすいと思いますわ」


「ほんとかい。会えることを楽しみにしておくよ!」



 ……どうやらここまでのようだ。ユースティは胸騒ぎを感じつつも、残りの時間を楽しむことにした。



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