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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第壱章 伝えろ、繋げ。慈愛の国
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第4修 研修生、語る


 消火作業でビシャビシャになったケープ。それを手でできるだけしぼり、あとの服は着たままタオルで全体を拭いていた人間。フッブの建物は全体的に低く明かりも少ないため、星や月といった夜の満天の輝きがよく見える。その美しさに見とれていると、同じく上着を脱ぎ、ある程度身体を拭き終わった少年から声がかかる。



「ユースティ。びちゃびちゃになった家のものを干すの、手伝ってもらっていいかな」


「ん、勿論さ!」


「それとさ……その……」



 そのまま口をパクパクさせ、目線の先もあやふやでそこから進まないソルリア。きょとんとしつつも静かに待ったユースティに、意を決して告げた。



「よかったら、ここに来るまでの話を聞かせて欲しいっ」



 内心で身構えたより控えめな少年のお願いに、人間はわざとしゃがれた声をつくって煽った。



「勿論おしえてしんぜようじゃないか!」


「やった。おしえて、研修生っ」



 そうすれば素直に目を輝かせ、興味津々といったように寄って来る。人間も調子付き、早速人差し指を空へ向けて話し出した。



「実はこの空の上……雲より高い場所。空の国っていうところがあって、それがおれの故郷なんだ」


「へえ、空にも国があるんだなっ。そんなところからどうやってフッブに来たんだ?」



 地上で暮らしている以上本来なら疑ってもいい話だが、すんなりと信じて目を輝かせるソルリア。良い反応をしてくれる彼に、ユースティも満更でもなさそうに笑う。



「飛び降りたのさ!」


「なっ、生身で?」



 さも当然かのように告げられた事実には流石に聞き返された。しかし語りが止められるることはない。



「ああ。足場を失ったことで体全体が一瞬で奈落へ引き込まれた。内臓とか胸の中心からぐわって浮いて、思わず吐きそうになったよ!」


「うぇあぁそんな明るい声でなんてことをっ」



 まるで他人事のようにさらりと告げられる出来事。そのままを脳内で想像してしまったソルリアが少々引いた様子を見せる中で、ユースティは大きく手を広げた。



「それでも悪いことばかりじゃなかったんだぜ。──なんたって、雲を抜けた先で見た景色に、おれの目はすっかり奪われた!」


「っぉおぉ……?」


「とっても大きくて広い、絨毯みたいな砂漠! 蒼白く日光をきらきらと反射する水面! 聳え立つ大樹の麓に広がる七色の森! そういうのが世界には、いーっぱい溢れてたんだよ!」


「おおおおぉっ」



 言葉で連なっていく未知の外の世界に、少年の体は乗り出していく。ここからだと膨らんだ期待は、ふと語りと共に途切れてしまった。



「でもごめん。おれ、意識も記憶もそこから無くってさ……」


「ええ。なんだよそれえっ」


「気付いたらここの家の屋根の上に倒れてた。辺りを探してはみたけど、師匠が持たせてくれた発明品もいくつか落としちゃったみたいなんだよな」


「あ、だからか」


「? だからって?」


「いや、こっちの話」



 ソルリアが今日の授業を抜け出したきっかけであった、屋根伝いに移動していた影。それがユースティ本人であったことが確定した。少年は心のどこかで特殊な縁を期待してはいたが、こうしていざ出会ってみれば想像以上に風変わりなものだった。



「というか。その師匠の発明品ってやつ、拾われて悪用されちゃったりとかしないのか」


「大丈夫! 落下の衝撃で潰れてると思うし、きっと今後も旅してりゃいつか回収出来るさ!」


「てきとー……っ」



 既にユースティが持つ発明品のことを、魔法と同じくらいに便利な存在だと認識しているソルリア。相手の楽観的な様子にまた引きつつ、会話を続けていく。



「今持ってる発明品には、どんなのがあるんだ?」


「え? えっとね、今のおれが持ってるのはあめーじんぐカプセルくん、パラシュートみたいな役割だった、とべーるとべーるくんの鏡部分の破片。風船斧くん、後は……あー……ブラックボードくんも落としてるな……」



 そういってケープの裏側のポッケを覗き一つずつ探っていくユースティ。つらつらとのべられる変な名前で用途はなんとなくわかるが、ソルリアの理解が追い付く様子はない。



「ま、待って。なんて? ……とりあえず、その名前は誰がつけてるの?」


「ん? おれだよ」


「……、そっかぁ」



 少年は偉いので何も言わなかった。そのまま二人は洗濯物を物干し竿にかけ終わり、その場に並んで座り込む。



「そしたら俺を助けてくれたときのなんだっけ、なんちゃらカプセル……」


「あめーじんぐカプセルくんだよな」


「それ。どういう仕組みなんだ?」


「そういえば説明の途中だったね。見てみて」



 そういってユースティが黒い球体を取り出せば、ソルリアの前に屈んで見せる。



「この裏側のボタンを押せば、磁場を使って周囲の電荷を反発させることが出来てね。たちまち電気にとっての壁が完成するのさ!」


「んん、じゃあさっきは……雷魔法を受け流せる透明なカプセルが、ユースティの周りに出来てたってこと?」


「そうそう。それでカプセルの表面を流れていった電気は、途中にいた狼男君にまとめて流れこんだんだ!

 ……まあこれは一人用だし受け流せる電流の量にも限界がある。間接的ではあっても衝撃は受けるから、気絶にはご用心! ……ってことだね」



 一通り説明すると、大切そうにケープの中にしまわれる。それのどこに収納スペースがあるのだろう。もしかしたらケープ自体も師匠とやらの発明品なのかもしれない。少年は話をきちんと聞きつつも、ユースティをまじまじと見つめた。



「弱点はあるけど、電撃を弾くこと自体はボタンを押すだけで誰でも出来るってことか……すごいな」


「だろ? 魔法と一緒に使えば、更にすごいことが出来ると思うんだよなぁ。

 折角の機会だしおれもソルリアと一緒に魔法に挑戦したりもしてみたいな!」



 そんなソルリアの表情が、ふと固まってしまう。



「えっと、それは」


「あの狼男君たちにまた会うことがあっても、ちゃんと見返してやれるかもしれないし!」


「あ、のさ。ユースティ」



 言い淀みだした少年の方へ目を向けた人間は、その感情の読めない瞳にのまれかけ、言葉を止める。



「一緒には出来ない」



 暫くの沈黙の後、少年の方も何か続けるはずだったであろう言葉を飲み込んでから、改めて会話を切り替えた。



「それより俺、ユースティにあって欲しい人が居るんだよ。この国の今の長、なんだけどさ」


「……長は、ソルリアのお兄さんなんだっけ?」



 対して人間も少年のペースに合わせるため、発した質問。しかし少年はそれも戸惑って──今度はどう伝えようか迷っただけであったようで、やがては頷いた。



「うん。兄貴は魔法もすっごく強いし、優しいからさ。ユースティの研修もいいものにしてもらえると思う。一緒に話しにいってみない?」



 先ほどの一瞬が嘘だったかのように再び笑顔を浮かべ、話し始める少年。どうやら彼が兄に会って欲しい理由はそれだけではなさそうだ。ユースティは一度、その願いを聞くことにした。



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