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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第47修 おしごと


 そうして三人がたどり着いたのは、昨日訪れた『労い』の店。ある程度予測出来ていたユースティとは違い、目の前に立ち止まってその建物を見上げたソルリアは固まってしまった。



「ふふ、ウォロスでお食事をすると言えば、労いの場。望めば大抵のものは食べられますわ!

 あら……ソルリア?」


「あ、いや、なんでも! わー、なんかすごい賑やかそうな場所だな、ユースっ」


「え? あぁ、うん」



 挙動不審な様子に、プセマがユースティを見る。



「ソルリアはどうされたのかしら」


「彼はこんな風に言ってるけど、おれたち昨日ここに来て、オムライスをいただいたんだよ」



 人間がそう告げた途端、少年から信じられない、とでもいうような表情が向けられた。プセマはそれに納得したように頷く。



「なんだ、それならそうと言ってくださったらいいのに! わたくしもここで働かせていただいておりますのよ!」


「そうなんだね、今日は?」


「お休みなのですけれど、折角なので少しだけご案内させていただいても?」


「ほんと? やったねソルリア!」


「──……あ、ぁ……嬉しいけど……」



 少年はもごもごとした後、ユースティにだけ聞こえるように小さく叫ぶ。



「ユース、なんで言っちゃうんだよっ」


「いやー、これを隠すのは無理があるよソルリア」


「どーしてっ」


「入ればわかるかも」



 先導するプセマによって扉が開かれれば、昨日と同じように白い狼の仮面をした店員──うるふが出迎える。



「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」



 先日よりも親しげな声色だ。


 席に案内された後、お冷やを持って来たのも黒い烏の仮面をつけた店員。ばあどである。



「おかえりなさいませ〜。ご注文お決まりになりましたらお呼びくださいねぇ~!」



 先日よりも元気に迎え入れられ……ユースティはソルリアの方を向く。



「ね」


「……うん」


「こういう言い方もなんだけど、流石だよなぁ」



 他の客もいるというのに、もう完璧に顔を覚えられてしまったらしい。二人のやり取りを知ってか知らずか、プセマがメニューを開き二人に見せる。



「お食事に関して、ご希望はありますでしょうか?」



 ソルリアがどこか上の空で、出されたお冷やを一気飲みした。ユースティは内心で苦笑しつつもメニューを覗き込む。



「全部美味しそうだから悩んじゃうんだよな。ソルリアは?」


「俺オムライスっ」


「他のも絶対美味しいぞ、ほら。折角だから聞いてみたらいいだろ、プセマさんのオススむぐっ」



 ソルリアのミトンがユースティの口元をおさえる。……目線をかち合わせてから、ゆっくりと解放した。



「俺が緊張してるってわかってていってるよなお前……っ」


「さあ、なんのことかな~」


「ばかっっ」



 プセマはきょとんとしつつも、やがてくすくすと微笑んで告げる。



「ふふ、ではわたくしのオススメを注文してもよろしいですかね?」


「うん、お願い!」



 勝手に進めたユースティに慌てるも、なにも言えないソルリア。見計らったようにオーダーを取りに来てくれた他の店員にプセマが告げる。



「すみません、特別プレートを2つで!」


「前準備は出来ております! きっかけはお任せしても?」


「ええ。そのつもりで来ていただいたのですから! ……さてお二人とも、少々お待ちくださいね」



 そういって、プセマは店員と共にそそくさと席を離れていった。



「彼女、特別プレートっていったよな」


「ここのメニューにはそんなの書いてないけど……」



 二人が首を傾げながらも待っていると、あまり間を置かずに声がかけられる。



「お待たせいたしました!」



 声に二人が振り向けば、そこにはいわゆるミニスカートのメイド服にホワイトブリムをつけたプセマがいた。髪はツインテールのまま、薄桃色の細長いたち耳を持つ兎の仮面をつけている。黒いニーハイソックスからわずかに覗く素足が眩しい。



「かわいい……」


「可愛いね、プセマ!」


「ふふ。ありがとうございます!」



 放心気味に告げたソルリアと、きらきら見つめるユースティ。そんな二人に微笑みを浮かべると、プセマは告げる。



「ただいま全員で特別プレートの準備をしておりますが、お二人にも是非協力していただきたいことがありまして。簡単な身振り手振りなのですが、よろしいですか?」


「構わないよ!」


「ありがとうございます。ふふ、ではわたくしがせーの、といった後に、こう一緒に言っていただきたいのです。

 ラッキー、ハッピー、ゆめの国!」



 その言葉で拍子をとりつつ、片手半円を描くように動かしてから手のひらを前に出す。最後の拍で両手を握ると、祈るように目を閉じた。



「一回やってみましょうか、せーのっ! ラッキー、ハッピー、ゆめの国!」


「ラッキー、ハッピー、ゆめの国っ」


「ふふ、その調子ですわ!

 最後は目をぎゅっと閉じて、わたくしが合図するまで開けないで!」



 すっかり指示通りにして楽しげなユースティと、未だに戸惑って手振りだけを軽く真似するソルリア。その様子をみていた他の客が口を挟む。



「お、特別プレートか? あんちゃんたちも常連の仲間入りだなぁ!」


「特別プレート、いいわねー!」



 プセマはくすくすと笑顔で応対する。



「ふふ。よろしければ皆様も本番前の練習、共にしていただけませんこと?」


「お、いいよ。らびちゃんにはいつもお世話になってるし」



 どうやらこのメニューは、注文した者だけでなく店内全体を巻き込んで行われるらしい。軽く了承した客と共に、今度は声量をあげて。



「ではいきますわよ、せーのっ」


「「ラッキー、ハッピー、ゆめの国!」」


「ふふ、いい感じですわ! …………あら?」



 ソルリアは人数が増えたことでそのまま自分が隠れられるかと考えていたのだが、プセマにめざとく見つけられる。



「ちょっと、ソルリアもこの魔法を一緒にかけていただかなきゃ!」


「わ、わぁあぁ、いや、あの、だめだよ……っ」



 思わず拒否するソルリアにプセマがこれでもかと寄り、覗き込むように目を合わせにいく。



「だめなんですかソルリア、どうして?」


「えっそ、それは」


「めいっぱい楽しんでくれたら、わたくしは嬉しいのですけれど……だめぴょん……?」


「ッぶっっ」



 最早あからさまな語尾も追加され、潤んだ目で首を傾げるように言われてしまえばひとたまりもない。……いつの間にかピッチャーを持って立っていたばあどによって補充された、コップの冷水。それをソルリアは再び一気飲みし真っ赤な顔で頷く。



「わかった、するし、楽しむから…………っ」


「ほんとですの?! やったぴょん、ありがとうだぴょん!」


「う、…………俺こそ、ありがとうだぴょんッッ」



 ここは「なんだこの空間」という好奇の目や、「むずがゆい」といった恥じらいの心さえも飲み込み、自分達と同じ色に変えてしまう。そんな場所なのだ。少年一人で敵うわけがないのである。



「では次こそ、本番でいきますからねっ。

 ゆめの国案内人の皆さ~ん! こちらのご主人様方が特別プレートをご注文くださいました~! それでは皆さん魔法の呪文を、せーのっ!」


「「ラッキー、ハッピー、ゆめの国~!!」」



 練習のおかげもあり、ある程度声量が増した二人。……直後に鼻腔を刺激する甘酸っぱいソースの香りが通った。



「さあ、瞼を開いて!」



 言葉の通りに瞼を開けば、目の前にはミュールンの顔の形に切られたハンバーグ。目や口元はマヨネーズや海苔といった食材で形作られている。



「これって」


「ふふ、フッブからいらっしゃったとお聞きしたので、ミュールンの顔で作成しました!」


「すごい、ミュールンだっ」



 ソルリアは思わず立ち上がりそのプレートを見つめる。プセマはじめ店員たちはその様子に微笑んだ。



「ご主人様、お嬢様、改めてご入国ありがとうございます!」


「「ありがとうございまあす!」」



 プセマをリーダーとして、店員たちから黄色い声が上がる。そうして二人に、とあるものが差し出された。



「お二人とも、どうぞこちらお受け取りくださいませ!」


「これは?」


「特別プレートの特典カードです! お好きなゆめの国の仲間に渡してくだされば、二人で一緒に写真を撮ることが出来ます。是非、現世でのお守りとしてお持ち帰りくださいぴょん!」


「おお……!」


「お渡しの際は是非、ぴょんぴょん♪でお呼びください!」



 そういって頭の上に両手を立て、指先を曲げ伸ばししながらポーズをとるプセマ。



「では、一度失礼しますぴょん!」



 一連の流れは終わったが、全員雰囲気はそのままで自分の仕事へと戻っていった。


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