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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第45修 ふじょう


 アルムと共に上から降りて来たソルリア。すっかり落ち着かない様子で俯いており、プセマとのやり取りを知らないユースティは不思議そうに訊ねる。



「おかえりソルリア。なにかあったのかい?」


「なんでもない……」



 ほんのり赤い顔を逸らしたソルリアに、アルムが悪戯っ子のような表情で告げる。



「魔素の診断を彼女にもして貰ったんだ。それをこいつに渡したら、すっかり照れてるんだよ。鼻血も出してハンカチで拭いて貰ったりさ!

 今は、コルク外したら透明に戻るから気を付けろよーっておしえてた!」



 アルムの言う通り、桃色になった検査薬の入ったガラス棒とハンカチがソルリアの手元にあった。



「あー……それなら仕方ないな!」


「仕方ないのかなっ」


「でもそれ、ちゃんと貰うんだろ?」


「うるせっ。とりあえずハンカチは洗って返さないと……」



 突っぱねたものの、満更でもなさそうなソルリア。ユースティも笑いつつ、ふと思いついたような顔をして。わざとらしく周りに聞こえる声で耳打ちする。



「ソルリア。実はね。さっきまでアルムも好きな人の話で君と同じように照れてたんだぜ。

 空の国の恋愛観は特にヒトそれぞれで多様だから、気をつけなよーっておしえてた」


「え」



 それを聞かないふりしてそっぽを向いたアルムに、今度はソルリアから詰め寄っていく。



「何だよアルムお前、俺にもその話聞かせろよな?」


「あーいやですねー聞こえない、もう終わり終わり! ソル坊もかえって来た所だし。早速訓練を始めるぞ。ノルム、ラルム。引き続き自主訓練、頼んだー!」


「ああ、承知した」


「はい、親分!」



 その様子にお互いに顔をあわせたユースティとソルリア。



「逃げたな」


「逃げたね」


「うるせーやい。ほらお前らはこっち!」



 アルムはむず痒そうにしつつも二人を誘導していく。



「あれ、場所も違うの?」


「……ああ。前段階でして貰いたいことがある」



 一転して真剣な声色でそう告げた彼に、二人の間に少し緊張が走る。そのまま三人で歩き、他の場所と違って盛り土があり、一段足場が高くなっている場所に来た。

 アルムの歩みは、円を描くように並べられた岩が沢山ある位置で止まる。



「ユースティはここ。ソルリアは一回こっちの岩に座って」


「うん!」


「オレはこの辺りでいいかな」



 二人の場所を指定すると、大きな岩の上に胡座を組んで座った。暫く誰も口を開くことなく、時間だけが過ぎていく。

 静かに向かい合う、その空気にもどかしくなって。



「あのさ、アルム──」


「さて。オレと話そうぜ、二人とも!」


「へ」


「へ、じゃなくて。ほら、アイスブレイク? ってやつだよ!」


「な……それならはやくそう言えよな、変に身構えちゃったじゃんかっ」



 二人の肩の力が抜けていく。そしてユースティはもう一度その場に足組んでは、前のめりの姿勢を作った。



「なにから話すんだい? 君の恋の話?」


「それはだーめ! しつこい! 怒るぞ!」


「ええー」


「ええーじゃない。それ以外で聞きたいこととか、逆に聞いて欲しいことがないかってこと!」



 アルムが訊ねれば、ソルリアが声をあげる。



「じゃあ早速質問! アルムはいつからウォロスに居るんだ?」


「よしナイスソル坊。さっき借りたハンカチ貸せよ、綺麗にしてやるからさ。こういう時の魔法だぜ」


「なんだよそれ、でもありがとう?」



 そうしてアルムに手渡されたハンカチの血の跡が、ゆっくりと消えていく。綺麗になって折り畳まれたハンカチが、ソルリアに返された。



「で、答えとしては……ざっと五十年は経ってると思う。わかんねぇけど!」


「五十年? お前今何歳だよ」


「さあ。……五十年は盛りすぎたかな。ただ確かなのはオレはウォルターの若い時を知ってるってことだ」



 それが本当なら、十分ありえる答えだ。ユースティとソルリアは再び顔を見合わせる。



「……ウォルターはどんな人だったんだい?」


「んー……美しいお嬢さんの隣に居たら、お似合いの彼氏だーって思える感じかな」


「なんだそれ、かっこよかったの? 遠回しな言い方だなぁ」


「お? オレは仮にもあいつをくたばらせようとしてるんだぜ。もっと詳しい偏見をこめて言ってやろうか?」


「あ──」



 不満をこぼしたソルリアを見るアルムの目が、ギラリ、と光った気がした。



「やっぱいいっ」


「っははは。そうかそうか。

 あ、そうだユースティ。お前の持ってる、ブラックボードくんだっけ。それはずっと持ってるのか?」


「ううん。師匠の発明品で、こっちに来る時に貰ったんだ」


「それさ、連絡とかも出来そうな形してるんだけど。使わねぇの?」


「! もしかしてこれ、君も使ってたことある?」


「いいや。でも聞いたことはあってな。

 ……言われる前に言うわ、さっきの空の国の知り合いが教えてくれたんだ」



 今度はユースティと、訳知り顔なアルムの話を聞く側になるソルリア。



「おれ、これを高い所から落としちゃって……通信が出来なくなっちゃってさ。本当なら電源もつかなかったんだけど、分析機能を使える状態まで直してくれた人がいてね」


「へー。そいつ中々やるな。名前は?」


「エトワール。フッブの国の長で、ソルリアのお兄さんだよ」


「ふふん、兄貴は凄いんだぞ。強いし優しいし、いろんな種類の魔法を不自由なく使えるっ」



 その中でも会話で兄が話題に出て来たとわかると口を挟み、進む話に誇らしげに強く頷く。



「かなり優秀って感じだな。そいつは何が一番得意なんだ?」


「なんだろう。そう聞かれるとわからないな。おれが見た時は、火も雷も氷の魔法も全部ドカーンって、迫力が凄くてさ。しかも国をまるごと護る結界魔法もずーっと張ってるんだ」


「万能って言葉じゃ収まらないだろそいつ、世界にはそんなやつもいるのか。

 俺なんて手元の小細工が精一杯なのに」



 そんな中でソルリアは、ふと自らの座った岩の後ろを見て──土が小さな山のように盛りあがって、十字架が2つ添えられている場所に気付いた。



「そうだアルム、空の国を知ってるってことはさ、おれの師匠も知ってるかな。コッペリウスって呼ばれてるんだけど」


「コッペリウス? ああ、それは多分……あいつ自身が付けた別名だな」


「え、そうなのかい?!」


「ああ。俺の認識が違ってなければ。あいつ、別名付けんの好きだろうしさ」


「あー……確かにな。おれのユースティって名前も、彼女に『人の気も知らず、ずかずかと土足で入り込んで来る若輩者』だとかでね……」




 お墓をイメージさせるその場所。次第にソルリアは二人の会話よりもそちらへ興味をひかれていった──のだが、同時に地の底で唸るような音がゆっくりとこちらに近付いていることに気付く。



「ソル坊」



 危機を感じて反射的に立ち上がろうとした体は、アルムに留められて。……そんな二人の様子にきょとんとしたユースティも、大きくなってきた異音に気付き辺りを見回す。



「……アルム、この音は?」


「にげた方がいいっ?」



 不安そうな声をあげたソルリアに、アルムはその場に座ったままいつもどおりに話した。



「大丈夫だ。下手に動くと怪我するかも知れないからそのままでいろよ」


「わ、わかっ────」




 ぐわり。


 突然のことだった。体が下に引っ張られる──……いや、地面と共に押し上げられているような感覚。やがてザバァアアッと大きな音がし、それと共に視界が激しく揺れる。



「っな、なっ?!」



 不安を伝える目線を送るが、アルムは頷くだけだ。そのまま三人で動かずにいると、揺れはやがて収まって。体には浮遊感だけが残った。



「…………終わった、?」



 ふと怪訝そうに空を見上げたソルリアが、あっと声をあげる。



「ユース上見て、空がっ」



 既に夕暮れを迎えつつも一面に広がる晴れやかな大空。しかし、それは細かな正方形に分かれると、ぺらぺらと剥がれていく。あの不思議な膜が作り出していた偽物の空が剥がれきった外側には、これまた大空。しかし先ほどまでの蒸し暑さはすぐに解消され、むしろ寒いと感じるほどの冷えた空気が流れ込んで来た。



「お前らは初めてだよな。説明しとくと、ウォロスはこうやって空気を入れ換えてるんだよ」


「空気を入れ換える……それって、ウォロスが水の中にあるから?」


「その通りだ。水中で生きてたら空気が減る一方だからな。はら、下を見てみろ?」



 ウォロスの端、本来なら外界と隔てている膜があった場所へ手招きされ、三人でそこから下を見下ろす。────……海だ。波も立たない沖の海の水面が見える。そこからはかなりの高度がついているらしく、一度落ちてしまえば強く叩き付けられ、無事ではいられないだろう。



「海中じゃないし、膜もないし。ウォロスから出るだけなら今だぜ」


「いや出たとしても無事じゃないだろこんな高さ……っ」


「はは、それもそうだ!」



 突っ込みつつも心なしか震えるソルリアを、けらけらと笑い飛ばしたアルム。ふと二人の方向を見直す。



「……そういやお前ら。もう1日が終わるけど、腹ちゃんとすいてんの?」



 その質問の意図は別にあったのだが、すっかり頭から抜けていたそれに、ユースティがハッとする。



「あれ、ほんとだ……!」


「昨日もそう言えば一食だけだったな。労い、だとかなんとかで食べさせて貰った、たんぽぽおむらいすってやつ」



 続いたソルリアの言葉に、アルムは意外そうな顔をする。



「労い……って、あそこのネオンのとこだよな。 入れたのか?」


「うん、感謝されるようなこともしてないし、働いてもいないんだけど……あれ、貰っちゃって大丈夫なのかな」



 続けてユースティが問えば、少々訝しげに頷く。



「今まではチェックとかあった筈だぞ?」 


「おれも、そういうのいるんですかって聞いた。でも何ですかそれ、みたいな反応されちゃってさ」



 ふうん……と呟くと、アルムは一転して目を輝かせて二人に前のめりになった。



「また一緒に行かせてくれよ、なーんか興味がわいてきた!」


「いいかな、ソルリア?」


「うん? うん」


「よっしゃー!」



 喜びの唸りと共にガッツポーズをしてから、アルムは続ける。


 

「まぁそんなこんなで、今日は終わり! ……そういやあの嬢ちゃん、まだ来てはいないな。どうする?」


「ほんとだね。もしかしたら道の途中かも。おれたちからも迎えにいこうか、ソルリア」


「うん」



 ユースティとソルリアも話をつけると、アルムへと振り返る。



「じゃあまた明日、だよな。アルム!」


「おう。また明日。気を付けてなー!」




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