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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第39修 もんもん


 床にちらばったカップの破片や溢れた飲み物を、小屋に備え付けの箒とちりとり、雑巾で掃除して。ユースティとソルリアはそれぞれの話を共有した。



「色々気になるところはあるけど、とにかく……。俺が来るまであいつらとずっといたのかよ、あんな騒がしいのよく耐えられたな」


「耐えるだなんてそんな。賑やかで楽しかったぜ? ソルリアもよかったじゃないか、いきなりプセマとお茶できたんだからさ!」


「よよよよかっ……確かによかったけど。いや、よくなかったんだ。俺部屋着のままだったから、ちょっと恥ずかしかった」



 モコモコから自分の服に着替え終わり、赤らんで頭をかくソルリアと、微笑ましげなユースティ。



「今回は突然だったし、仕方ないさ!」


「彼女はあんなお城を使える立場で……きっとお姫様なんだ。ただでさえすごく無礼な事だし、嫌われても仕方ないなって……」



 一方的にひどく落ち込んでいく少年。プセマが彼を嫌っていたならば、特別な理由でもない限り二人きりのお茶なんてする筈がないのだが……とうとう唸り、悶え始めた。



「そうだよ、さっき言われた事も一理あるんだ……」


「ラルムの言ってた事かい?」


「そう。助けるって名目で、俺は彼女に少しでも良いところを見せたかったのかもって……思う。思うけどさ……」



 やがて悶々とした想いが自分の中で収まらないと自覚したのか、ユースティの方に問いを投げかけた。



「でもユースティ。きっと俺よりあいつらの方がプセマさんも嫌いだよな?」



 整わない感情の矛先が、他へと向いていく。



「……うん?」


「ほら。あいつらなんだかガラ悪いし、一方的に騒いだり泣いたりしてるだけだしさ。みっともないしっ……」


「えぇ?」


「俺のほうがまだマシだよな……なっ、ユースっ」



 自分のことはともかく、アルムたちの方が印象が悪い筈だ……という、根本的に解決しない思考に嵌まっていくソルリア。わかりやすくユースティは苦笑した。



「っはは、そうなのかなぁ」



 軽く流すように返された少年は、思わずその顔を窺う。



「……ユースティ……?」


「鍋が釜を黒いと言う、ってこの事かもな!」



 笑顔のまま告げたユースティへ、ソルリアは固まった。



「ほら、自分の悪いところを棚にあげて他人を否定するような……。

 うん。誰、とは言わないけどね? そんなヒトは、彼女に好まれる事はないだろうなぁ」


「!!」



 からかうように放たれたその言葉に少年は絶句し、しばらく時が流れて。



「~……あの、えっと、今の忘れて……」



 そう、震える声でしぼりだした。



「ナンノコトカナー」


「お前たまにえげつないよなっ」


「たまたまそういう言葉を思い出しただけさ!」



 くすくすと笑う人間と、すっかりしょぼくれてしまった少年。そんな二人のお腹からぐぅう……と、大きな音が鳴った。



「……そういやフッブを出てから何も食べてないよな……ってあのユースが?」


「おれもびっくりしてる。でもまだ大丈夫さ! ……」



 しかし一度気付いてしまったのが最後。とてつもない空腹感に襲われていく。流石三大欲求の一つといったところか。ユースティはへなへなと崩れ落ちてしまった。



「いやどうみても限界だろ。お店とか、探してみるかっ」


「……っはは、うん。お願いするよ」



 二人で小屋から出ていけば、薄暗く冷たい外気にさらされた。ウォロスの中心部へと歩き、舗装された道に出る。人通りは相変わらず少なく、静かだ。

 掠れて消えかかっている白線が、かつてここが人の行き交いの盛んな大通りだった事を窺わせる。様々なレンガ造りの建物が並び、かつて点灯していたであろう信号の歪みもそのまま。等間隔で置かれた街灯も、ただのオブジェと化している。

 寂しく空虚を感じるその街で、二人はあっという間に城の前までたどり着いた。



「あ。お城だ。ソルリアの初デート場所だな!」


「な……っ。そういうのじゃないからっ。で、デートはちゃんとお付き合いしてる人同士がする事でしょっ」


「わあ、真っ赤になっちゃった」


「お前のせいだよばかっ」



 周囲に並んだレンガ造りの建物は、食べ物ではなく日用品や雑貨などが売られているようだ。壁にあるディスプレイには可愛い小物が並んでいた。


 お腹が空いている上に好奇心に駆られている事もあり、どんどんと先へ進んでいくユースティ。その後ろを歩きつつ、ソルリアはふとショーケースの片隅、装飾の施された箱へ意識が向く。

 一本のバラがモチーフのオルゴール。音は聞けないが、プセマはこういう物は好みだったりするだろうか。確か花言葉は……少年はしばらくの間見つめていたが、すぐに我にかえる。



「い、やいやいや。流石に直接的過ぎるよなっ」


「おーい、ソルリアー?」


「っごめん、今いくっ」



 ユースティに呼ばれ、城を過ぎた最初の角を曲がれば雰囲気がガラリと変わり。無機質な長方形の建物が多く並ぶそこは、ギラギラと派手に輝いていた。

 二人の正面には見た事がない字でかかれた看板と、食べ物を形作ったネオンがある横長方形の建物。……何か炒め物をしている音と、香ばしい匂いが食欲を刺激した。



「ここ、入ってみてもいいかな」



 そうソルリアへ訊ねているものの、既にユースティの手は扉にかかっている。もしこちらがダメだと言ったらどうするつもりなのだろうか。返事を待ちきれないといったその様子に笑いつつ、頷いた。



「うん、いいと思うよ」



 ユースティの先導で重厚な両扉を押し開ける。食欲をそそられる香り。一人掛けチェアのテーブル席、仕切りの鉢に植えられた観葉植物、天井からは色ガラス細工の照明が下がっている。ミステリアスな雰囲気の室内には、ゆったりとしつつも心が踊るような音楽がかかっていた。……のだが。



「「お帰りなさいませご主人様、お嬢様ー!」」



 早速といったように、甲高く可愛げを全面に押し出したような声が飛んできた。



「わぁ」


「おぉ」



 

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