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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第38修 ちゃばん


 旅人の小屋、暖炉の火で暖まった空気が四人を迎え入れる。ここまでアルムに半ば引きずられるように戻ってきたものの、ユースティはようやく覚悟を決めて自分の足で小屋の中へと踏み込んだ。



「まずはオレたちの自己紹介からだなー! 今は大丈夫でも、ルムルムルム続きだ。名前だけじゃいずれ誰がどのルムなのかわかんなくなるだろー?」


「うん、確かにそうだな!」



 素直に相槌をうったユースティの横から、ラルムが再び大きな声で叫ぶ。



「はぁあ、親分とボク達を混同するつもり? ほんっと失礼な奴だなお前!」


「君の親分から言ったんだよ?!」



 ユースティはいつも通りを心がけてはいるものの、戸惑いは隠せない。アルムはけらけらと笑いながら、話を続ける。



「だから、この機会にオレたちのこと詳しく知ってくれー!」



 そういってぱちんと指を鳴らせば、たちまちノルムとラルムの姿が大きく変化していく。一本脚の単眼生物の姿と、流動体の生物の姿へ。…………それはウォロスで最初に遭遇した、不思議な異形の二体だった。



「わ、君たちってさっきの……?!」



 その言葉に返答はないと思われたその時、ラルムはぺちゃ、ぺちゃっと跳び跳ねる。ノルムは棒立ちながらも全ての目玉でユースティを見つめた。



 ────……ソウ 俺タチモ ノルムトラルム ダヨ


「これはノルムの声だったのか!」



 脳内に直接響くように伝えられる言葉。それをきちんと認識したユースティの様子に、アルムは感嘆を漏らしながら身を乗り出した。



「お前、この姿のこいつらに会ったことあったんだな?」


「うん、ここにきた直後に会ったんだよ! 改めてみてみるとラルムは綺麗な色だし、ノルムは真っ黒な案山子みたいで良いな!

 ……アルムは……」



 目線の先にいる彼が、右腕の獣のような腕を不便そうにしている様子はない。手を腰に添え、そのままの姿でにしっ、と笑う。



「変わらずイケメンだろー?」


「はは、そうだね」


「てんきゅっ。んでさ、ラルムとノルムはこっちの姿だと、口では喋れない分甘えん坊になるんだよー!」



 そういってアルムがしゃがみこむと、流動体のラルムが甘えるように飛び付いて。ほっぺたとすりすりしたり、撫でたりすると体の形を変えて、ぴょんぴょんと跳ねた。……言葉はソルリアのようにはっきりとはわからないが、嬉しそうな様子を感じとることは出来る。



「どんな姿でも、こいつらは可愛い可愛いオレの子分たちだぜ~」



 そういってアルムはでれでれとしていたが、横からじっと見つめる単眼、ノルムの視線に気付く。緩んだ顔のまま立ち上がり腕を広げた。


 

「ノルムもよしよししてほしいのか~? 勿論するぜ~」



 抱きしめるようにして優しくよしよしと撫でれば、どうやら機嫌を良くしたようで、ぺこりと頭を下げた。

 ユースティはそれを微笑ましげに見つつ、問いかける。



「話を聞くに、これは二人の本当の姿じゃないんだよな?」


「ああ。元々二人はさっきまでの姿だった。今はオレが魔素で補助をして、ヒトの姿に戻してるんだ」


「魔素で、補助?」


「そ。オレの魔素でこいつらがこの姿を誤魔化すのを手伝ったり、言葉も理解出来るようにしてるんだよ。

 ……って、お前もそういう対処法を使ってるんだろ? 隠そうったって無駄だからな?」



 ユースティにはアルムのその言葉の真意はわからず、首を横に振った。



「おれはずっとこのままさ」


「あれ。そうなのか。雰囲気からてっきりお前もそういうのなのかと」



 そこまで続けてから、アルムは虚ろに小さく呟いた。



「あれ、そういやどうして、こいつらはここで……?」


「アルム?」



 アルムの様子にユースティが違和感を覚えたのもつかの間、二人の間にラルムが割り込み跳ねる。アルムがそれを認識すると、改めてその目に光が宿った。



「お、ラルム。戻りたいのか? ……ほら!」



 そうしてアルムにヒト型に戻して貰うと、ラルムは何事もなかったかのようにその足ですたすたと歩いていく。先程ユースティとウォルターが話をしていた机の上、二つのカップを指差した。



「あいつに姿を変えられるとすれば、これからだったんだと思うよ、親分」



 ラルムがしっかりと言葉を話しながら指し示したのは、ユースティの分のコップ。まだ暖かいそれを手にとった。



「よく見ときなよユースティ、これがあのじーさんの思惑だからさっ」



 そのまま床へ叩きつければ、ガシャンと音を立てて割れた。



「何してるのラルム?! ……、って?!」



 ユースティが吃驚し焦る間にも、その液体は黒い煙を立ち上らせた。……同じく姿を戻されたノルムが、それを手で包み込んで小屋の窓から投げ捨てて呟く。



「あの男、もてなしの飲み物に呪いを混ぜるとはのぅ」


「え、と。今の何、どういうこと?」



 理解が追いつかないと言ったユースティに、ラルムがやれやれと声をあげる。



「ボクらはウォルターに呪われて、あの魔物みたいな異形に変えられたんだよ」


「そして御仁もこの飲み物に入っていた呪いを飲まされ、異形に変えられようとしていたのじゃ」


「そんな」



 優しそうなあのウォルターが、そんなことをするなんて。そう言いたげな顔をしたユースティにアルムはやや苦笑する。



「お前、ヒトを疑うってこと知らなさそうだしなぁ。いや、むしろ疑いすぎて一周まわっちゃったって感じかも」


「む……なんだいその言い方、馬鹿にしてる?」


「してないしてなーい」



 会ったばかりの他人からこんなこと言われても、すぐには信じられないだろうしなー。アルムはそうぼやきつつ、小屋の壁にもたれる。



「ただ、ウォルターのことは警戒した方がいいぞ。被害者はノルムとラルムの二人だけじゃないし、オレもあいつを許すつもりはない。

 そしてお前に仲間として……協力しろとまではいわない。けど何があっても許容してほしいとは思ってる」



 静かに目線を向けられるユースティ。アルムたちを信じ、ウォルターを疑うべきか。判断をするにはまだ情報不足だ。



「全部本当のことなら恐ろしいね。でもおれは君達を信じるのも怖い。いきなり乱入して来たし説明だって不十分だった。

 理由はなんであれ命を奪うつもりなら、おれは君たちを邪魔する側になりそうだ」


「そうか。まあ確かにオレたちは現時点では血の気が多いだけの集団だな」



 アルムは大人しく頷いたが、ラルムとノルムは表情を曇らせた。



「とんだお人好しだこと」


「証拠が出せればよかったんだがのぅ」


「……あ。あの飲み物の成分なら調べられるぜ!」



 ユースティは早速といったように、ソファに置かれたままのタブレット……ブラックボードくんを持つ。床に散らばった飲み物をカメラに映し、解析を始めた。

 ピコピコと不思議な音を立てて絵が規則的に動く画面に、ノルムとラルムは物珍しそうにして覗き込んでくる。



「これはなんじゃ?」


「ブラックボードくんっていってね、たくさんのデータが入ってて、色んな分析もしてくれるんだよ」


「ネーミングそんまんま。そんなので調べられるの……?」



 僅かながらも期待が向けられた声。その時ブブッ、という音と共に……解析不能の表示が出てしまった。



「あれっ」


「なーんだ。ちょっと期待したボクが馬鹿だった」


「ごめん、こんなのは初めてだよ」



 離れていく子分達に微笑みながら、アルムは告げる。



「まぁ、そんだけオレたちじゃ得体の知れない何かが入ってますよっつーこっちゃな」


「ブラックボードくんでも解析出来ない成分、か」



 ユースティは好奇心の延長で、下のカーペットに染みかけている飲み物だったものを、両手で少量すくいとる。それは、ただただ液体の質感を手のひらに伝えた。


 ──……そこから躊躇なく口に含む。ラルムたちは目を丸くした。



「待って、嘘でしょ」


「ん……これ、味はチョコレートみたいに甘い。コクもあるな……なんだろう?」


「いやいや、よりによって口に入れる?! はやくぺっして、ぺっ!」



 周囲の動揺も気にとめないまま目を瞑るユースティ。味わっていたその喉が──こく、と動く音がした。



「大丈夫さ、まだ飲み込みはしてないし!」


「おい馬鹿、今しゃべる前に……」


「あ」



 アルムの言葉で気付いたのか、あからさまに目線を逸らす。



「……大丈夫、大丈夫。そんなに量もなかったしさ!」


「呪いがかけられてるっつったろ?! しかも床に落ちたやつだ、量の問題じゃないからな?!」


「ユースティ。ちょっと丸まるんじゃ、吐き出さないといけないぞ」


「あんたほんとに馬鹿、こっちが警告してやってたのに!」



 慌てた様子のアルム、ノルム、ラルムが順になってユースティを囲んでいく。



「あわ、ごめんわかった、わかったけど! ここで吐くのはちょっとっ」


「はあ? 今場所とか関係ないでしょーが?!

 はやく吐き出せほら!」


「え、えぇ……!」



 アルムがユースティの背中側にまわり、丸めるように飲み物を吐き出させようとした時──小屋の扉が開き、一人の少年が小屋へと入ってくる。

 それは丁度プセマとのお茶会を終えて帰ってきたソルリアだった。



「ただいまユース。ごめん、ちょっと色々あって離れてて……」



 その場の全員が固まり、目線を向ける。……ソルリアはユースティの状況をみて、途端に表情を変えた。



「な……何してるんだハザックもどきっ」


「あの時のちびっ子! ……ってなんだそのハザックもどきって?!」


「とりあえずユースから離れろ、まさかお前誰でも良いのかっっ」


「誤解だ?!」



 カップが割れて破片が散らばっている。三人がかりで襲われそうになっていたと言っても違和がない。人間もそれは確実に理解して、口を開いた。



「お、驚かせてごめんソルリア! ちが、違うんだよ、今ちょっと話をしてて、その流れで!」


「どういう流れで三人に囲まれて屈まされてるのか俺にはわからないけどっ」


「えっと、ほら、えっと……おれが爆笑してて息が出来なくて、心配してくれたんだよ! 彼らも悪いヒトじゃなさそうだから大丈夫さ!」


「……ユースがそう言うなら……」



 訝しげながらも話を聞く姿勢になったソルリアだが、騒動は一度動き出すとなかなか止まらない。ソルリアの名前を聞いたラルムが、すたすたと彼の方へと歩いていく。



「へぇ、あんたがソルリア。親分をぶっ飛ばしたこと、ボクは許さないぞ」



 そのまま体を曲げ、見下ろすようにソルリアを眺めた。ソルリアもかけられた圧にたじろぎはしたものの、負けじとすぐに言い返す。



「誰だよ親分って、あのハザックもど……。ツンツン頭のこと? あいつはプセマさんの断りも聞かずに困らせてたんだぞ。ああいう時はちゃんと距離を保ちつつ接するべきだろ。それが出来てないから彼女から嫌われてたんだよっ」


「うぐ」



 ぐさ。まるで鋭利なものが刺さったようなアルムの反応に、ラルムとソルリアは気付かない。



「いーや親分は嫌われてないね!」


「嫌われてたよ、俺があいつを飛ばした時もプセマさんすっごく嬉しそうだったし」


「うぐぅう」



 二回目。ユースティはその時の状況は全く知らないが、アルムにある程度の非があったことが理解出来た。



「親分はビッグでモテモテなんだから。そんな女は此方から願い下げ、見向きする価値さえないね!」


「それなら余計にだめだろ。あいつほかの子も居るのによそ見しようとしたのか? 手当たり次第みたいな奴にプセマさんは似合わない。なんなら女性に好かれる資格さえもないぞっ」


「ぐほぁあ……」



 三回目に至ってはトドメをさされている。どうやらソルリアとの一件はアルムにとっても耳の痛い話となっているらしい。やがて傍観者として姿勢を戻したユースティとノルムがその光景を見ていた。



「ごめんなノルム、ソルリアが君の親分をひどく言って」


「此方もラルムが色々とすまないのぅ。親分のことになると周りが見えなくなるタチなんだ」



 二人が暖かく見守るような空気になっている間にも、ソルリアとラルムの応酬は続いていく。



「さっきからプセマさん、プセマさんってうるさいな。もしかして仲良しそうな親分とその女を見て嫉妬した? 

 自分をかっこよく見せたくなって、二人の間に割り込んだんじゃないの?」



 ラルムの言葉に、淡々と反論出来ていたソルリアが固まった。



「……は」


「あんたがあの女に惚れたから、都合よく事実をひん曲げようとしたんじゃないかっていってんの」



 彼女に自分が惚れた。──……その言葉に暫く硬直した後、ソルリアの顔がたちまち紅潮していく。



「そっ……んな、わけ!」


「っはは、図星だ。浅ましい奴!」


「っ俺の状況は関係ない、彼女が嫌がってたのは事実だっていってるだろっ!」


「だからそれもあんたの盲目な主観でしかなかったんじゃないのかっていってるんだよ!!」


「はぁああ?! 違うし、俺はちゃんと周りも見えてるもん!!」



 やがてどちらも応酬の声量が上がっていく。ノルムとユースティはどうやら見守りすぎたらしい。



「あー……これやばいかも、ノルム!」


「ああ」



 咄嗟にユースティはソルリアを抱えてラルムとの距離を離した。 



「ソルリア、落ち着いて!」


「この……?!~!! ~!!!!!」



 全身をばたばたさせて声にならない声をあげ続ける。一方でノルムもラルムを引っ張り、その頭を撫でつつ離れた。



「ラルムも一度落ち着こうかのぅ」


「落ち着いてるよっ。ふーんだ、いい気味だな! 馬鹿みたいにばたばたしちゃってさあ!」



 未だにソルリアへ突っかかりつつも、ノルムの手を退けようとはしない。

 わいわいとより騒がしくなった四人の場に、アルムの沈んだ声がはっきりと紡がれる。



「……いいよな。お前らはそうやって元気でいられて」


「「「「!」」」」



 ぐすん、とあからさまにいじけた様子で言葉を発した。



「そうだよ、オレは確かに女の子に目がない。そしてしつこい。あの嬢ちゃんに嫌われてる実感もある。それでもあわよくばイチャラブ充実最高ハッピーキャーキャーハーレムの夢に一歩すすめるかも、だなんて一瞬でも思ってしまっていたんだ……本当に最低だ……」


「いちゃら……何て?」



 動揺を一周回って冷静になったソルリアの突っ込みをスルーし、そのままふらりと立ち上がる。



「そうだよ、オレは所詮それだけの男なんだよぉおおお゛おおお゛ぉおお゛~~~…………!」




 ──大号泣。



「「おっ…………親分ー!!」」



 再びノルムとラルムが、アルムと共に泣き出す。……親分のことになるとというのは、どうやらノルムも同じようだ。



「だめだ涙が止まらないっっ、オレたち、一旦出直してくるぅっっ、じゃあまたあったらよろしくなぁっっ」


「親分、元気を出すんじゃ~……!」


「ボクらは親分の味方だからぁあ……!!」


「そしてユースティっっ。とりあえず飲んじまったもんは仕方ないっ。せめて今のウォロスに長居するんじゃないぞ、周りの魔法のせいで泳げねぇ海に囲まれてるから暫くは出られないだろうけどぉおぉ」



 そうして泣きじゃくったまま三人が小屋から出ていく。一気に静かになる室内。

 …………想いを突然自覚させられただけでなく、追い討ちをかけるように目の前で見せられた茶番。ソルリアの口から、呆れがこぼれる。



「なんだ、あのめんどくさい奴ら……」


「あはは、はは……。とりあえず君が落ち着けてよかったよ、ソルリア」


「どこもよくないよ。しかも親分の味方だからぁとか言ってた奴に至っては、既視感があるしさっ」



 ラルムに向けられたソルリアの言葉。そこからユースティが真っ先に思い浮かんだのは、フッブの国でソルリアに突っかかっていたあの少女。



「んー……もしかして、ドリス?」


「そう、ドリスだ。そんな奴に限って、……ああ、もう最悪……」


「確かにな。もう一人の……ノルムの方は心当たりあったりする?」


「……? まあ強いて言うなら、写真でみた若い時のスィームさんかな。いやスィームさんはあんな髪型じゃなくて、ちゃんと全部ふさふさだったけど」



 そうして二人揃って、少し荒れた部屋を見る。



「えーと、お互い何があったかは今から話すとして……とにかく片付けようか、ユースティ」


「はは、そうだな!」



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