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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第弐章 響け、届けよ。ウォロス
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第37.5修 おやぶん



「しつこい、旅の者には関係ないといったのじゃが」



 抵抗をしない老人を抱えた男は、ユースティへと深いため息をつき。ウォルターよりも老人らしい口調で告げる。



「いいや、今おれと彼は喋ってたんだ! 関係あるよ!」



 食い下がるユースティに、どうやらキリがないと判断したらしい。男は立ち止まり、こちらへと振り返る。いつの間にか麻縄でぐるぐるに縛ったウォルターを雪の上に放り出すと同時に、袖の中から慣れた手付きでその刃先を見せた。



「……一度黙ってもらう必要があるのぅ。御仁は誰じゃ」


「おれはユースティ、研修中の探求者だ!」



 怯むことなく馬鹿正直に名乗る人間。男は所々焦げたように破れた黒いマントのフードの前を上げた。赤い辮髪。開いているのか閉じているのかわからない程細い目で、人間を見つめる。



「俺はノルム」


「ボクはラルム。あんたに罪はないけど……仕方ないよね!」



 ノルムとともに、ラルムと名乗った華奢な者も構える。前に小さな蝶結びの留め具があるケープを翻し、刃が曲線をえがいた得物を片手に持った。

 ノルムは一定して静かで落ち着いた雰囲気をまとっている。ラルムは活発で天真爛漫そうだ。



「その言い方だと、彼には罪があるって言うのかい? お願いだから、そんな乱暴にしないで話し合いをしてほしい。それだけなんだ! なんだったらおれも君達と戦うつもりなんて────」


「問答無用だよ!」


「このっ、わからず屋め!」



 ラルムが接近して得物を振り下ろしてきたため、ユースティはかろうじて横に避ける。こうなってしまった以上、なるべく早々に相手の戦意を喪失させたい。一度後ろに距離をとろうとした──その時、足元になにかが引っ掛かる。



「っ、わぁ?!」



 そのまま派手に雪を滑るようにして後ろに倒れ込んだユースティ。足が引っ掛けられた上に下敷きにされたソレからは、なんともいえない呻き声があがる。



「むぎゅっ──…………」



 それは……ヒトだ。その右腕は大きな鱗が並んで生えており、爪も鋭く獣のものに見える。しかし他は紛れもなくヒトの姿をしていた。



「なななっ……ごっ、ごめん?!」


「いい……ぜ。そんなに重くないし、やわら」


「わぁあぁあぁっすぐ退くよ!!」



 苦しそうな言葉を遮ってユースティがすぐに起き上がり退くと、下敷きにされていた水色の髪のツンツン頭が雪から顔を出す。どうやら全体的に少しボロボロで、這って移動を試みていたようだ。


 ノルムはその男を見ると、動揺したように声を上げる。



「親分?」



 ユースティの隣を通り過ぎ、その者へノルムとラルムは駆け寄りしゃがんだ。二人と同じ白のタトゥーチョーカーをつけているその者は、親分と呼ばれていることからして彼らのまとめ役なのだと推測できる。



「あぁ……元気そうだな、ノルム、ラルム……」


「俺達は元気だ、元気だがのぅ」


「どどど、どうしてそんな這いつくばってんの親分?!」


「ちびっ子に吹き飛ばされたんだよ」



 親分と呼ばれる男は今にも力尽きそうな声で返事をし、やがてゆっくり上体を起き上がらせると、……涙を溢れさせて叫んだ。



「理不尽だッ、オレはそこにいた嬢ちゃんをちょっと誘いたかっただけなのにッ!!!!」


「そんなことが…………!」


「親分~~!!」



 なんとそれに合わせて、ノルムもラルムも一斉に泣き出してしまった。一気に張り詰めた空気が崩れ、心情的にも置いていかれるユースティ。



「あの三人組は、何なんだ……」



 しかしその茶番のような間に、ウォルターの拘束を解くことが出来た。



「助かったよ、すまない」


「うん。とりあえずは無事でよかったよ、ウォルター」



 そんな中でも三人は大声を上げて泣いたままで、全く気付かれていない。ウォルターは微かに懐かしむような、穏やかな笑みを浮かべつつ言葉を発する。



「……おおい、お前さんたち。もう帰ってもいいか?」


「っ駄目だぞウォルター! 今日こそあんたを倒すんだから! だけど今は親分のブロークンハートとの対話が先なんだからね!」



 涙を腕で拭うラルムが叫ぶ。しかしすぐに親分へと向き直り、泣き続けた。彼らはすぐには泣き止まない。ユースティたちはしばらく、このまま放置されるであろうことは明確だった。



「おれは今のうちに逃げちゃっていいと思うよ」


「ああ、そうしてしまおうか。お前さんはどうする?」


「もうちょっとだけ、ここにいようかな」


「そうか。

 お前さんは彼らと敵対することは無いと思うが、気を付けて」



 ウォルターが一礼してその場から離れていく間にも、親分は子分たちへ大袈裟に泣きながら話を続けていた。



「途中までは良い雰囲気だったんだよ。でもそこにちびっ子が割り込んで威嚇してきたんだ。

 ちょーっと脅してやろうって思って、魔素を集めて大きな魔法に見せかけたんだ。そしたらいつの間にかこっちがぶっ飛ばされてて……

 気が付いたら放っていかれててさぁ!」


「「うぅ……可哀想な親分……!」」



 様子を窺いながら話を聞いていたユースティは、ちびっ子という言葉に反応する。

 親分と呼ばれる一人は這いつくばりながら泣きじゃくり、ノルムとラルムの二人は膝をついて共に泣いている。ユースティはそんな彼らのすぐ側まで歩き、上から覗き込むようにして声をかけた。



「ねぇ、そのちびっ子って癖っ毛? 赤い三角ピンをしていたかい?」


「割り込んでくるなよユースティとやら、親分が話してる最中だぞ!!」


「わあご、ごめんって!」



 ユースティの至近距離で叫んだラルムを手で牽制して、親分と呼ばれている男は話し出す。



「そうだよ。ふさふさの癖っ毛で、赤い三角ピンをしてて、こーんぐらいのちっちゃいの。『このしつこい奴は任せて~っ』とか言っちゃってさ。お前の知り合い?」



 片腕で地面からの身長を示しつつ、大袈裟に声色や動きを真似する男。それはソルリアと同じ大きさで、特徴もぴったりだった。……ただそれはあくまでユースティの解釈が広いために通じている。ソルリアの兄であるエトワールが聞いていれば、かなり怒られるであろうものだった。



「うん、きっとそうだ!」


「おんめぇ子どもと揃いも揃って親分に何やってくれてんだ!!」


「ごめんってばぁ!」



 また耳元でラルムが荒んで叫ぶ。キーンとした耳鳴りを感じつつもユースティは続けた。



「……本当にごめん。おれの友達と、おれ自身が……」


「まー、いいよ。オレ、こういうの慣れてるし。

 ただ、普通じゃねぇよなあいつ。あれ見てみろよ」


「え?」



 指を指された先にはあのコンクリートの高い壁。ソルリアと二人で探索した時にはなかった、中心から円状にひろがった大きなヒビ。遠くからでもはっきりと見える、ヒト一人分のへこみがそこにあった。



「!」


「こっちから仕掛けたってのもあるが、あんな叩きつけられ方をしたのは久々だ。あんな力を使うちびっ子だってこと、お前はちゃんと知ってんのか?」


「……ああ」



 フッブで対峙した蛇の魔法を打ち消した時のように、ソルリアの魔法の威力が大きく感じられるのは初めてではない。経緯はわからないが、今回はヒト一人を通してコンクリートの壁がヒビ割れる程の魔法が使われたということだ。ユースティの神妙な面持ちを男は静かに見ていたが、すぐにへらりと切り換えた。



「遅くなったな。オレはアルムっていうんだ!」


「! おれは、ユースティ」



 アルムは起き上がって左手で雪をはたき落とすと、そのまま自分の腰に手を当てて胸を張るように仁王立ちし、ユースティを見る。



「よしユースティ、肩組んでも大丈夫か?」


「え? 別にいいけど──っわっ」



 そう言った瞬間に異形の大きな右腕が首にまわされ、肩を組まれる。



「へへ、これでお前もオレらの仲間入りだ!」


「え」


「折角出会ったんだし、ちょっと話しよーぜ!」



 と、すっかりウキウキ気分で告げるアルム。続いてノルムはおとなしく頷いたが、ラルムが真っ先に異議を唱える。



「親分?! そいつボクらの邪魔をした奴なんだよ、ウォルターの肩も持ったし!」


「あれ、そういやウォルターは?」



 そのアルムの言葉に、ラルムはハッとして辺りを見回す。ようやくウォルターがその場に居ないことに気付いたらしい。



「ってウォルターッッ!!」


「また上手く逃げられたのぅ」


「今はいいよ。それよりお前だ、ユースティ」



 お前の意思はどうなの。なんていわれて、ユースティは目的もわからない集団の仲間入りをさせられそうになっている。



「えぇと、話ならしてもいいけどっ」


「よっしゃ決まりー! お前の小屋かりるぜー!」


「ちょっと待って。おれ、まずはソルリアを探しにっ」


「あんな魔法を使えるならちびっ子でも大丈夫だって! ほら、いくぞ!」



 先程までの涙もすっかり乾いた様子の親分。その強引さに、問答無用でユースティは引きずられていった。



「えぇ……!」



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