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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第壱章 伝えろ、繋げ。慈愛の国
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第29修 反撃の狼煙


 ユースティは魔物から解放され両腕を石畳についたヴァリータの方へと向かい、片膝をついて目線を合わせる。



「研、修生……っ」


「立てるかい、ヴァリータ」


「ええ、大丈夫……!」



 そのまま支え、彼女を起き上がらせて。次にソルリアのもとへ二人で駆け付け、手を差し出す。

 


「ゆーす、おまえ、いきて……」


「え、おれ死んでたの?! ……はは、なんてな。ちょっと遠くに連れてかれたけど、なんてことないさ。

 それより君が大丈夫かい、こんなにボロボロになって」



 砂まみれでけろりとしてみせる人間の姿に、ソルリアは再び目を潤ませて。ユースティはあわててその小さな体を抱きしめる。



「あーよしよし、大丈夫。大丈夫だからな」


「ユース、よかった、生きてくれてでよがっだ……!!」


「君こそよく諦めないで居てくれたね、ソルリア」



 そのまま、エトワールへも声をかける。



「エトワール、まだ死んじゃ駄目だろ。ソルリアがちゃんと魔法を使えるようになったら、君が真っ先に褒めてあげなきゃ!」


「っ……!」



 そう声をかけられた彼の、ぼろぼろと涙を溢れさせた表情をしっかりと確認してから、遮るように前に出てきた蛇を見る。



「オマエェ……砂漠の塵にしてやったと思ったのに……!」


「塵になるにはまだ何も解決出来てなかったんだ。一度頭を突っ込んだんだから、最後まで成し遂げさせてよ。

 ……さあ、そろそろ救国話譚の再開といこうかな!」



 まだ少し涙ぐみながらも頷き、蛇の方へ向いてしっかりと立ったソルリア。同じく睨み据えるヴァリータ。強気に微笑み、立ち上がったユースティ。



「なぁにが救国話譚だァ、そんなものは潰してやるよォ!」


「来るよ、ソルリア、ヴァリータ!」



 素早くうねって接近し、蛇は大きな尾をしならせてこちらへ叩き落としてくる。三人は目を合わせてからバラバラの方向へ散らばって避けて。ユースティは早速風船斧を取り出し、マーケからもらった瓶の液体を塗っていく。そうしてそれを巨大化させ、動きが止まった蛇の横から殴り付けるようにそれを振るった。



「どうだっ!」


「っぐ、ぅうゥ!」



 それは鋭い素材ではないのに、その体を確かに傷付ける。



「退魔の薬が効いた……ってことは、魔物と同じ体質ではあるんだなっ」



 それを聞いたソルリアが疑問を投げかける。



「同じ体質? 全部同じじゃなくてっ?」


「ハザックから聞いたんだ、魔物は退魔の素材で核を探して攻撃すればいいって。ただ意志疎通が出来るものは魔物じゃないらしいから、こいつには核はないかもしれないけどっ」


「ァアァ、ちょこまかと、うぜぇ奴だなァア! 魔物どもォ、ねんねの時間はとうに終わったぞォ!」



 苛立ち始めた蛇の叫びと共に、先程ミミゴロシの音で逃げ出した魔物たちが再び集まってくる。



「魔物君たち、ごめんね。遠慮なくいくぜっ」


「魔法が跳ね返されるのなら、その前に相手に届けば問題ないわよね!」



 確実に一匹ずつ倒すことを意識して。人間は退魔の薬を塗った風船斧をサイズ調節しつつ振りおろす。ヴァリータも魔物の群れに飛び込み高圧力の水の魔法を足に纏わせ、その核を直接蹴って貫いていく。たちまち減っていく魔物たち、別々に戦いながらも互いの背中をまかせ、動いていく二人。


 一方その場所から離れていたソルリアは、襲い来る魔物を素早く掻い潜りエトワールを助けようと向かっていた。が、ふと目に入った蛇の様子に立ち止まる。……その体には、先程までみられなかった禍々しい紋様が浮かび上がっていて。



「生意気な虫けらどもが、……神の力ァ、思い知れェ……!」



 開かれた嘴に段々と魔素が集束していくことで、周囲に圧力がかかっていく。その明らかに高威力である魔法弾は、魔物たちを倒していくユースティとヴァリータに向けられたもので──



 このままでは二人が危ない。ソルリアは咄嗟に走り出す。



「二人とも、ッ……!」



 そのまま放たれた魔法弾と、ヴァリータとユースティの間に割って入るソルリア。……そのまま手を翳すと、大きく叫ぶ。




「──────────………………“炎よ”ッ!!」





 ゾクリ。




 再び、その場にいた全員に寒気が走る。



 ソルリアが翳した両手から、たちまち大きな焔が展開し蛇の放った魔法弾と衝突する。間近で熱と熱がぶつかり合い、燃えるような熱さで上昇気流が巻き起こった。



「きゃあっ?!」


「なっ……!」



 そうしてしばらく押し合った二者の魔法はやがてお互いを打ち消しあい、中心の石畳に大きな焦げを残して消滅する。庇われた二人は勿論のこと、ソルリア自身もなにが起こったのか理解出来ていない様子だった。


 ……沈黙の後、ふらついたソルリアを咄嗟に支え、ユースティが口を開く。




「……ソルリア、今の、……!」


「……っ、俺……魔法、」


「ええ、どこからどうみても魔法だったわよ、ソル君っ」


「我の魔法が打ち消されただとォ?!」




 喜色を滲ませた声をあげる三人に対し、動揺を隠せない蛇。その体に浮かんでいた紋様は、既に消え去っていた。



 …………ここから、反撃が始まる。




「~……♪」



 その場に響く、口ずさむような美しい旋律。この場の誰のものでもないそれが、段々と近付いてくる。



「ィッ?!」



 その音がたちまち空気を歪ませ、幾つもの刃を産み出すと蛇を襲う。それは体表の鱗に弾かれることなく、切り傷をつけていく。



「あらあ、結構本気なのに。やっと通った程度だなんて、ずいぶん頑丈なんだねぇ」



 砂嵐の中から現れた声の持ち主は、砂まみれになりながらも凛とした立ち姿をしたアイシャだった。予想外の加勢に驚き、注意をそちらに向けられた蛇……その背後から凍てつく刃を振りかざさんとする別の影。彼はエトワールを吊るしていた縄を断ち切り、連れ去る。



「あァ?! 長サマが取られたァ!」


「エトワール様!」



 ──……意識を取り戻したショウだ。縄が斬られたことで脱力し下へ落ちていく主の体をひしと抱きしめるように、羽を広げて降りてくる。



「っ……じいや……ありがとう、」


「いえ。こうなったのはじいやの責任でもあります。お側にいながら、なにも出来ていなかった……!」



 小さく砂を巻き上げて着地したショウはエトワールを降ろし、支えながらもその鎌に纏わせていた氷の魔法を解く。



「ショウさん、流石っ!」


「ユースティ様。じいやが不甲斐ないばかりに、お手数をおかけしております」


「エトワっ……!」



 ヴァリータが真っ先に駆け寄り、ショウが託す。……彼女を見るなり気まずそうに目を伏せたエトワールには張り手が炸裂し、高く短い響く音と共に彼の視界が揺れる。



「っ……りー……た、」


「────……ワタシ、幼馴染みなのに。あなたがこんなことになるまで何も知らなかった。今だって、状況をわかってない。あんなことまで言わされて。

 ただ一つわかるのはあなたがまた、大きなものを抱え込んで隠してたってことだけよ。ワタシ、それだけ頼りないってこと?」


「!、そういう、わけじゃ」



 青年が否定しようとする言葉を指で遮って、再び泣いてしまいそうな、しかし強い眼差しでみつめた。



「あなたは優しすぎるのよ。見てなさい。その分相応しい女になって、あなたにひとりじゃないんだってちゃんとわからせてやるんだから。……覚悟しなさいよ、ばか!」


「────……!、、………………、うん……」



 喉から絞り出された応答。……そこに歩いてきたアイシャに、ソルリアが声をかける。



「よかった、アイシャさんっ」


「ふふ。あんな砂嵐の中、久々に目を凝らして歩いたわぁ。それにマーケさんと……ハザックって方に助けられたのよねぇ」


「えっあいつに?!」


「あら、そのヒトとも知り合いなの、ソルちゃん?」



 驚いたようなソルリアに首をかしげたアイシャに、ユースティはくすくすと笑いながら説明役をかって出る。



「そいつ、ソルリアとおれにちょーっとした因縁を作っちゃった奴でね。今は共同戦線を組んでて、役割を分担してマーケと協力してもらったんだ」


「そういうことなのねぇ。ふふ、またお礼をしなきゃだねぇ」



 ──……蛇が尾をバシバシと石畳に何度も叩きつけ、大きな音をたてる。アイシャはあらあら、とそちらを向き、困ったように話す。



「……そのためには、あのひとをどうにかしなきゃ」


「おいおいオマエら、我を置いてお喋りに夢中になるなァ! 今更数が増えたからって長サマが動けないことに変わりはねェのに、そんな調子でいいのかよォ!」


「いえ、それはどうでしょうか」



 ただ話をしていただけではない、と言うように石畳に魔法陣が現れ、それは瞬く間に鎖を編み出して蛇を絡めとる。



「なァ?!」


「──皆さんのお陰で、目が覚めました。

 一人死んですませようだなんて、甘ったれの考えることでしたね」



 それは周りに支えられつつも両足を地につき、立ち上がったエトワールのものだ。



「兄貴っ……」


「ソル、……さっきの、すごかったよ。

 弟がめいっぱい頑張ったのに、なにもしないままの兄など、いてたまるものですか」



 今のうちに、誤解は解かなければならない。ユースティも諦めかけていた民たちに対して、声をかける。



「みんな、怪物化はあのお香を吸っただけでなるわけじゃないんだ! 魔素を取り入れすぎてしまったら体が耐えられなくなるんだよね? あのお香はそれを誘う程度しか効果がないのさ!

 だから、どうか諦めないで!」



 再びざわつき始める民衆、そして蛇を見据えつつも、エトワールが続いて告げる。



「それであっても僕の罪は変わりません。……自身の甘さ故に皆を危ない目にあわせ、救えなかった民がいることに変わりはない。

 だけどどうか今だけは! せめてあなた方を、あなた方の国を! あいつから共に守らせていただけませんか!」



 希望を失わせたのが言葉なら、また言葉で希望を取り戻せばいい。改めて蛇に立ち向かったエトワールの姿に、既に戦意喪失していた者たちも、再びその目に闘志を宿していく。



「……ほんとに、? なら、……生きないと、」


「私達の国を、守るため……」


「旅の者としては正直とんだ災難だけど……いい思い出ももらったこの場所を失いたくはないな」



 ……繋いだ光が、各々の中で拡がっていく。形勢逆転の兆しが見えてくると、蛇の声は段々と焦り荒ぶった。



「はぁ?! こんな無責任な奴は長じゃねぇだろォ?! さっき我を讃えていたくせに、なんとかいえよオマエらァ……!」


「無責任じゃないよ。むしろ彼は今、責任をちゃんと背負った」


「!」



 民たちの中から出てくる、緑の髪の女の子──ルリが、その鎌を持つ腕に魔法を纏わせながら口を開く。



「あれにハマったのはわたし達も同じ。……みんなあれを欲しがってた。疑うこともせずに。だから結局共犯でもある。

 そしてここはずっと皆で暮らしてきた場所。犠牲になったヒトたちを忘れないためにも、簡単に魔物の国になんてさせたくはない!


 いこう、皆!」



 彼女の言葉も全員の士気を強固にし、直後にあがった雄叫び。それは一つとなって蛇に立ち向かう、彼らの決意の現れだった。

 じいやはハンカチを取ると自身の目元にあてて泣き声をあげる。



「ぐすん。……本当に、ルリはじいやの自慢の娘ですぞ……!」


「っえ娘さんなの?! おれ初耳なんだけどっ」


「ユースティ様にはお伝えしておりませんでしたかのう!」



 それを前にした蛇は、口をパクパクとさせて__叫ぶ。



「いじめか。さてはいじめだな、オマエらァ! そうやって我を皆揃っていじめ始めるんだ! 集団で調子にのって一匹をいじめるなんて、ずるくねェ?!」



 拗ねたように体をのたうちさせ、その場に寝そべり暴れ始めた。突然のことに場の全員が耳と目を疑う。



「ふざけないでくれますか、あのお香のせいでこちらは無差別に民を殺された! これからも殺されていくところだった、今更なにを言っても変わりませんよ!」


「兄貴の言う通りだっ。てかお前もさっき魔物沢山引き連れてただろうがっ」



 当然、真っ先に反論するエトワールとソルリア。しかし蛇は悪びれもなく駄々を捏ね始める。



「我自身は誰も殺してないだろォ! 殺さないようにしたぞォ!!」


「嘘つけよ、ルリちゃんとアイシャさんとか、ついさっきのこととか覚えてないのかよっ」


「あのね、魔物に空から落とされたマーケも打ち所が悪かったら危なかったんだからな!」



 続いてユースティにも指摘されると、蛇は余計にその巨体をどすどす、とのたうち回させる。



「あー、うるさいうるさいうるさいッ!」



 その光景に二人が呆れるのもつかの間、エトワールはヴァリータに手招きすると耳元で話し、そのまま何かの詠唱を始めた。

 頷いた彼女は民の方へ走り、蛇に聞こえない程度に共有する。幸い、蛇自身のたてる物音で会話は隠せそうだ。



「みんな。……ワタシたちは、満身創痍よ。あいつを倒すだけの力は今はないわ。だから一度、国の外にあれを吹き飛ばしましょう。エトワールが結界を張り直して、完全に追放する。あの蛇だけを二度と国には入れないようにするの!」


「吹き飛ばしたいのは山々だがあんな巨体、しかも下手な魔法じゃ跳ね返されるよな」



 考え込む皆の前に、アイシャが進み出る。



「いい案があるわ。皆、私の近くに魔素を集めてくれるかしら。それを歪めて大きな気流を呼ぶ。この国の皆の力を借りればあんな巨体も吹き飛ばすことが出来ると思うのよぉ」


「……! 全員で魔素を合わせれば!」



 ヴァリータも、その場の全員も彼女の言葉に納得し、魔力を集め始める。……まだ駄々を捏ねていた蛇は、それに気付かず大きな独り言を続けていた。



「そもそもこの力は神に値するんだろォ、それを全部込めて放ったのに、それがどうしてあんなちっこい奴に、しかも簡単に、あんな道の焦げですむように打ち消されたんだァア……?! 納得がいかねェ、納得がいかねェエ!!」



 そのうちにエトワールの結界魔法が発動し、国の外側がゆっくりと覆われて砂嵐がだんだんと晴れていく。……後は、蛇を追い出すだけだ。



「……皆さん、今です!」


「アイシャさん、頼みましたっ!!」


「ええ!」



 アイシャが息を吸うと、周囲から突き抜けるように大きな風の力が動く。



「…………ッ?!」



 そうして起きた風はそのまま加速し、先程までの砂嵐よりも強くなり、渦を巻き、竜巻のようになって蛇を浮かせていく。



「────……飛んでいけ、遥か遠くまで!!」


「うわァアァアアァアア?!」




 そのまま蛇は空の果てまで投げ出されていき、砂嵐も取り払われて。結界が国の上空で完全に結ばれればフッブに再び、穏やかな青い空とまばゆい太陽が訪れた。



「……終わっ、た」


「終わったね、」


「俺たちで追い出したんだ、あいつを!」



 歓声が沸きあがる。旅の者たちは喜び、民は神に感謝を告げる。そうして何人かがユースティとヴァリータの方へと向かってゆく。



「ねぇなんだっけ君、研修生? あんな斧を軽々と振り回せるってすごいね!」


「風船斧くんのこと? ……とっても軽いんだよ、持ってみる?」


「おわぁ?! それでも重い方だって!」


「っはは、慣れるとぶんぶんいけるよ!」



 また少し、地上の民との距離が縮まったユースティ。



「ヴァリータさん、今日も美しいです!」


「先程はすみません、諦めろ、だなんて言ってしまって」


「あはは、ちょっとあれは心にきたかも……?」


「本当にすみませんっ」


「ふふ、でも、その後に皆で協力してくれたでしょう? それだけで十分よ」



 安心したように微笑むヴァリータ。


 一方で、ソルリアは自分で彼らから距離を取る。初めてとはいえ彼らの目の前で、かなり巨大な威力の魔法を使ったのだ。旅の者達からの怯える視線に気付かないわけがない。のだが。


 同級生が、彼の元へと歩いていく。



「ねぇー、劣等生ー」


「……なんだよ、劣等生って言うなっての。もう魔法は使えただろっ」



 いつものようにぶっきらぼうに返事をしたソルリアは、その一言を皮切りに彼を囲みだした国の民たちに気付くと驚く。彼らの目には怯えどころか、どこか憧れであったり、挑戦的に光るものがあった。



「そうだね、あの魔法すっっっごかった!」


「……え、な、なに? なんだよいきなり、そんなことわざわざ言いに来たの?」



 ソルリアは今までが今までだったため、彼らから素直に褒められるのには慣れていない。


 

「あのさ、今まで劣等生呼びしてごめん、劣等生!!」


「いやいやまだそう呼んでるじゃん、許すわけない!」


「う、」



 謝罪にも突っ込んでしまうが、返ってきた反応からしてどうやら、自分は見直されているということを悟る。微かにこそばゆさを感じながら、ソルリアは続けた。



「……まぁ……これでお前らにも、ドリスにも。証明出来たんじゃないか。ちゃんと魔法も立場も俺の方が上だった、ってことをさ?」



 軽口を叩き、得意気に笑ってみせて。同級生たちは一転して騒ぎ立てた。



「うわ、やっぱり劣等生は劣等生だーー!」


「へへへへっ」



 ……全員が再び訪れた平穏に安堵し、喜んで。やがて歓声がわいわいと話し合う声に変わる様子を、エトワールも嬉しそうに眺めていた。


 しばらく俯くように躊躇ったが、ゆっくりとそちらの方へ目線を戻して歩きだす。そして“長だった者”らしく、皆の前で振る舞おうと声をあげた。



「────……皆さん、少し、よろしいですか」


「長様、あなたも来てくださいっ」


「え」



 民たちはエトワールを自分たちの方へと引き込む。びっくりして見開かれた瞳は、それぞれの瞳へと向けられた。



「エトワール様も、お力添え出来るチャンスをくれてありがとうございます。お陰で僕ら、大切なものを改めて、見つけることが出来た気がします」



 滲む穏やかな希望と信頼、その頼もしさ。民たちのそれは今までエトワールがしっかりと見られていなかったものであり、民たちからも上手く伝えられていないものだった。たちまち青年の目が潤み、再びぼろぼろと涙がこぼれていく。



「……っ、……おれ、……もう、いりませんよね」


「え」


「おれじゃ国を、皆さんをまもれませんでした、……父に、皆さんに、申しわけが立たなくてっ…………、」


「ええええええ?! どの口が言うんですか?!」


「うわ~お前長様を泣かせた!」



 民たちに引き込まれた中心で、ひたすら涙を溢れさせるエトワール。民たちがあわあわと口を開閉させつつ、どうにか泣き止んでもらおうとする。



「ほ、ほら! 誰だってそういうのはありますよ! アイシャさんなんとかいってください、このままじゃ泣き続けちゃう!」


「っふふ、大変ねぇ、いっぱいあったものねぇ」



 アイシャは微笑んで、涙が止まらなくなったエトワールの頭を撫でる。



「いらないだなんて悲しいこと言わないで。私たちは、あなたを強く信頼してるのよぉ。

 ……でも確かに、依存してひとりに任せるようになっていたことはよくないわねぇ。これからはみんなで、もっと積極的にあなたを手助け出来るよう、動いていくから」


「でもっ、……でも、」


「そうすれば、次は誰も犠牲になんてならないわよぉ。……投げ出したかったことも、多かったでしょうに。

 よく立ち上がってくれたね、エトワール。これからもよろしくねぇ」


「…………ッ、!!」



 ……どうやらそれがとどめとなったらしい。




「いや長様、余計に泣き出しましたけど?!」


「あら?!」



 全員から笑い声があがる。その一部始終は、今後に続いていく慈愛の国の新たな一歩と言えた。微笑んだ人間の隣に、少年が歩いて来る。



「もう……兄貴も、大丈夫だよな」


「そうだね、あの様子ならきっと。──これからも心配はいらない。勿論、君も前に進める」



 つられて笑顔になった少年は、人間の方をみてその名前を呼ぶ。



「ユースティ」


「……なぁに、ソルリア」


「俺達を助けてくれて、ありがとう」



 人間は少し目を見開いてから、その表情につられてまた微笑んだ。



「君達のお陰だよ、おれだけじゃこうはならなかったさ!」



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