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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第壱章 伝えろ、繋げ。慈愛の国
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第17修 仲直り


 人間はそのままろくに動くことも、声一つあげることも出来ないまま──……もう間に合わない。誰もがそう思ったその時だった。



「止まりなさい」



 容赦なき閃光。それは瞬く間にヴァリータの水魔法を跳ね返した鱗ごと突き破り、蛇の体内に流されて青白い焔となる。



「うぎゃあァアァアァァ?!!?」


「うわっ、わわわっ?!」



 ハッとしたユースティは目の前で見る大迫力に尻餅をつきながらも、手足をつかってすばやく後ずさる。──ああ、この声は。魔法の威力も間違いなく彼のもので、事が終わる前だというのに再び安堵が込み上げた。

 少し硬めの靴音が響く。振り返ればそこには、エトワールが現れていた。



「はぁ……久しぶりにアイシャさんのお宅にお邪魔してみれば。まさかこんなに大きな蛇の直火焼きが出来ることになるとは」


「おまエェ……! 例える物がちがぅだろぅがぁァ……!」


「失礼。ローストスネークでしょうか」


「そういうことを言ってるんじゃねェ! しかもどっちでも同じだろうがァ!」


「それはおれが聞き捨てならないな。ちょっとだけ違うかもしれないぞ! ローストの方がなんか高級感あるだろ!」


「ああ、違いがわかる……というよりは、随分と直感的な方もいらっしゃるようだ」



 国の長は少し微笑み、すぐに地に伏した蛇を睨む。それはまだ少し動けるようだが、もうこちらを襲うほどの余裕はないようだった。



「さて、今すぐここから皆を解放していただきましょうか。そしてあなたがこの国から永久に出て行くのであれば、命だけは許しますが」


「ちィッ……! 相変わらず生意気なことだ、誰がそんな簡単にィ!

 おい、我はオマエたちのことを知っているぞ。オマエら兄弟が互いのことをどう思っているのかをなァ!」



 苦し紛れに叫び散らす。……ソルリアが思わずと言ったように、その声に疑問を返した。



「は……なんで今、俺たちのこと」


「オマエらは二人とも仲良いフリをしているだけだ、腹の中ではお互い片方の破滅を願ってるんだよォ! おい、そんな兄弟で大丈夫なのかよ、生意気なチビ共ォ!!」


「いきなり何言ってるんだよ、お前──」


「言いたいことはそれだけですかね」



 エトワールが割り込んで、指で蛇を囲むように円を描きつつ告げる。



「さようなら」



 魔法陣が現れて蛇を包み、光と共に一瞬にして消えた。そこからは何事もなかったかのように家の空間も、物も、全てたちまちアイシャの家へと戻っていく。足場が安定するのを待ってから、ヴァリータがエトワールのもとへ駆けた。



「エトワ、今の魔法は?」


「アレを出来るだけここから遠いところへと投げました。暫くは灼熱に炙られて苦しむ筈です。

 ……僕が慈愛と言われる国の長でなかったならば、さっさと消し炭にしてもよかったのですが」



 どこか吐き捨てるようにそう答えた後に、その目線が腰を抜かしてしまっているユースティに向いて。お互いに手を取り合おうとした二人の脳裏に、先程の言い合いが過った。



「あっ……ありがとう。助かったよ」


「こちらこそ。あなたが助言をくれたからこそ、僕もここへ向かおうと考えることが出来ましたから」


「そうだったんだな、えっと……その」



 ユースティが言葉を続ける前に、エトワールが先に頭を下げる。



「!」


「それだけじゃない。あなたは言葉だけではなく僕らのために体を張って、敵に立ち向かってくださっていた。一方的に決めつけて拒絶したこと……酷いことを言ったこと、許されるとは思っていません。

 けれど一度、謝罪だけでもさせてください。ごめんなさい、ユースティさん」


「こっ……こちらこそっ。おれもごめんなさい。実際踏み込みすぎたし、ほら。色々グサグサきたけど、それはおれが心当たりがあるからで……だからエトワール、その……ほら、とりあえず顔を上げて!」



 慌てつつそう返すと、ようやく顔を上げたエトワール。ユースティは微笑みかけ、ソルリアへと目線を誘導した。



「それにもう一人、謝らなきゃいけない相手が居るよ。

 ソルリア、目の前で喧嘩しちゃってごめんね」


「!」


 はっとした兄と人間に見つめられた少年は戸惑い、首を振る。



「お、俺はいいよ。二人が仲直りしてくれてよかった」


「ごめんなさい、ソルリア」


「大丈夫だから、……うん。ほんとに、よかった…………っ」



 彼はだんだんと絞り出すような声になり、二人の足元にしがみつくように抱きついてくる。……エトワールもゆっくりとしゃがみこんで、その体をひしと抱きしめた。



「……もう大丈夫ですよ、アイシャさん」



 その時呼ばれたアイシャの名前に、ソルリアとユースティは首を傾げる。エトワールが向いた方向、部屋のキッチンのカウンターを見れば……ひょこっ、と出てくるヒト影。



「ありがとうねぇ、皆さん」



 なんとこの家の主であるアイシャと、もう一人。怪物化を間近で見たエントマの少女、ルリが姿を現した。兄から離れたソルリアが彼女たちをしっかりと視認すると、素っ頓狂な声をあげる。



「あいしゃ、さ?」


「よかった、アイシャさん! ルリちゃんもここに居たのね!」



 その隣でヴァリータは安心したように微笑む。……ユースティとソルリアは状況を込めないといった顔で見つめるしかない。彼女たちの無事を喜ぶべきではあるが、今までどこにいたのだろうか。

 ……説明を求めるような表情できょろきょろとしだした二人に、エトワールが口を開いた。



「あの直後……ヴァリータに、万が一の時に透明化出来る魔法をアイシャさんに渡してもらったんです」


「そんなことも出来るのかい?!」


「ええ、方法はいくつかありますが。今回は魔法陣を記した紙を渡して、必要に応じて使っていただくことが出来るようにしました」



 アイシャは相変わらずヒトあたりのよい、穏やかな笑顔で頷く。



「リータちゃんが帰った直後のことよ。窓から外をみていたら、一緒にいた友達と別れたルリちゃんが何者かの魔法で襲われてから、逃げて来ていたのよねぇ。それで二人で早速この魔法を使うことにしたの。

 結果この家には閉じ込められたけど、居場所まではバレずにすんでいたのよぉ」



 咄嗟のエトワールの根回しがこの結果に繋がったというわけだ。ユースティは思わず感嘆の声を漏らしてしまう。



「はは……一歩先を行かれてたってわけだ、流石だな、エトワール」


「いえ……これからはより厳重に魔法で見張りもしていきます。本当に、これ以上の被害を出すことは許されませんから」



 そういって控えめながらも応えた彼に、ソルリアの表情も心なしか明るくなる。



「ほんとによかった。やっぱり兄貴もすげーし、ユースも、ヴァリータさんも流石だ!」



 そんな彼以外の全員が揃って目を合わせると、今まで黙っていたルリが真っ先にソルリアのもとへ歩き、肩をぽん、とたたく。



「いや。これはソルリアもすごい」


「ふふ、そうねぇ。むしろ一番の功労者かも」


「え」



 ルリに同意したアイシャに、ソルリアは不思議そうに目を瞬かせて。エトワールがくすりと微笑む。



「あくまでも僕は彼女を一時的に隠そうとしただけ。安全な場所に連れて行ったわけではなかった。

 ……ソルが一番に、あの蛇へ立ち向かってくれたんだよ」


「そうよぉ。あの空間に入れられた以上、探し当てられてしまうのは時間の問題だったのよねぇ。私たちも諦めかけたの。

 そしたらどこからともなくソルちゃんが入って来て、『アイシャさんを返せ!』……って。戦おうとしてくれたのよぉ。お陰で私たちは無傷だった……本当に、ありがとうねぇ」



 少年は暫く放心していたが、少し照れくさそうにして言葉を紡ぐ。



「俺は……誰かに、呼ばれた気がしたんだ。足が動いて、それでここに来たらあいつがいて、立ち向かわなきゃって……思って。

 でも俺結局何も出来なかったよ。捕まっちゃったし、もしユースやヴァリータさんが来なかったら……」


「あんなに大きい敵だったのに、立ち向かえることがとってもすごいことなのよぉ。

 何度も言うけど、あなたがいたから私たちは無事だったんだからねぇ、ソルちゃん」



 ユースティとヴァリータ、エトワールが来るまでの時間。隠れていたアイシャさんたちが無事だったのは間違いなくソルリアのお陰だ。

 優しく頭を撫でてくれる彼女に、小さな少年の瞳からはとうとう涙があふれていく。



「ぅ……アイシャさ、アイシャさん……本当に無事でよかったぁあぁあ……!」


「ふふ、あなたを呼んだのは、スィームなのかもしれないわねぇ……」



 泣きじゃくるソルリアに笑い、優しく包みこんで。アイシャはそう呟くと顔を上げる。



「長様、今日はなんだかお祭りがしたい気分だわ。きっと皆、水臭いのは嫌がるでしょうしねぇ。お願い出来るかしら?」


「ええ。承知いたしました」



 快諾するエトワールに、ヴァリータも手を上げる。



「でしたら、ワタシも踊りますっ!」


「ふふ、嬉しい。お願いするわねぇ、リータちゃん」



 その光景をどこか離れて見守っていたユースティにも、アイシャは向く。



「あなたも来てくれるわよねぇ、ユースティさん?」


「!」



 自分も歓迎されている。嬉しさがこみ上がって来るのを感じつつ、ユースティも笑顔で応えた。



「うん、勿論さ!」





──────────


 結界の外は生き物の骨がいくつも転がり、時折空気中にある微量の毒素を含んだ砂嵐が巻き起こる。太陽の熱も容赦なく照り付け、体内の水分はあっという間に蒸発していく。もしも対策なしに進む者が居たならば、その末路は砂海の奥に潜む、魔物の胃袋の中だろう。



「ゲホッ、ゲホッ……くそ、我が、簡単にコケにされただとォ……!」



 突如その砂漠の中心に放り出された蛇。大きな体を捩って砂を落とせば、小さな周りの生物たちが恐れをなして逃げ出す。しかし荒ぶった蛇の伸ばした舌にたちまち絡めとられ、嘴の中の牙に噛み砕かれてしまった。



「……その手を伸ばしすぎたようだな、神を名乗ろうとする者よ」



 逃げて行く小動物たちと相反するように近付いて来る、細い体と二本の鎌……ショウの姿をしたそれに、蛇は短い手足で暴れだす。



「その姿、オマエ……! 上手く行ってたのかよォ! ならあの長サマに情報がすぐ伝わることはなかった筈だ、どうして!」


「伝わると不味かったのか?」


「不味いもなにも……ッ、そもそもオマエが“入れ替わり”に成功して、そのまま離脱していれば! 何事もなく上手く行ってたっていってるんだよォ!」



 そう言えば、その者の目の色が赤く光った気がした。



「我らが望む神は、どんな逆境でさえも好転させる……万物の上に立ち、万物を使役するモノだ。しかしお前のようにわざわざ長居をして、付け入る隙を広げてやるような必要はない。

 ……その上、自ら神に値しないと宣言するつもりか?」


「っそ、そんなことはしないィ!」


「ならいいが。こちらからすればお前一匹を消すことなど造作もないのだぞ」



 そのまま必要以上は話さず、姿を消したその者。呆然とそれをみているしか出来なかった蛇だが、やがてふつふつと込み上げる怒りを抑えきれなくなった様子で叫ぶ。



「くそがァ……!」



 ひとり残された蛇は、ただただ復讐の炎を燃やす。



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