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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第壱章 伝えろ、繋げ。慈愛の国
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第11修 大切なヒト


 ──すっかり辺りが暗くなってきた頃、ソルリアはユースティと共に家にたどり着き、上機嫌に振り返った。



「改めまして、兄貴と俺の家です」



 そうしてぱたぱたと家の中に入って内側を確認し、再び出て来る。次は隣の家──アイシャさんたちに挨拶へといったようで、元気な声が聞こえてくる。



「ただいまアイシャさん、スィームさん。ユースティと帰って来たよっ」


「お帰りねぇ~」


「お帰りのぅ」


「布団も乾いたし、今日はあっちで過ごすね。ありがとうっ」


「それならよかったわぁ。ごゆっくり!」



 そうしたやりとりをして帰って来ると、ユースティを再び家に招く。扉を閉めると二人で靴を部屋用へと履き替え、入っていった。



「ただいま~っ」



 小躍りするように先導する少年に、失礼します、と一言いれてからユースティはくすりと微笑む。



「上機嫌だな、ソルリア?」


「そりゃあな。ほら、そこの椅子に座ってっ」



 焚きすぎたお香の煙はすっかり晴れ、スッキリと内装を見渡すことが出来る。石造りのテーブルと椅子は少し黒く焼けて黒くなってしまっていたものの、きちんと拭かれたのかある程度綺麗になっていた。

 シンクだと思われる場所は少し高く、ソルリアは足場を引っ張ってくるとその上に立つ。端っこにあるタンクのハンドルを回すと蛇口からは水が出てきて、それを陶器のコップに入れるとユースティへと手渡した。



「はい、どうぞ」


「ありがとう。……これは水を入れるタンクかい?」


「うん。昔はオアシスから汲んで来て保存してたり、綺麗にするフィルターをつけて飲んでたんだって。

 今は兄貴やみんなの魔法もあって、綺麗な水を作れる建物が出来たし、そこから直接管を通して供給出来るようになったんだ」



 とことこと歩き、足場を引っ張って。台所に立つと下の棚から色々と取り出していく。その中でも少年の腕1本の大きさほどある包丁が取り出されれば、人間はつい冷や汗を滲ませつつ近付いた。



「いつも外まで汲みに行ってたら、危険だもんな」


「うん。魔物も居るし昼と夜で気温差もあるし、大きな砂嵐が起これば逃げなきゃいけない。いくら近くでもちょっとは歩くから、大変だったっていうしな」



 食材をまな板の上に置いたまではいい。しかし少年は次の瞬間、包丁を両手で頭の上まで大きく振りかぶろうとするではないか。

 危ない。思わず後ろからその手を止めてしまった人間は、きょとんとした顔で振り返られてしまった。



「ユース、どうした?」



 どうやら自身の刃物の使い方への疑問は持っていないらしい。



「──……な、なにしようとしてるのかな」


「夜ご飯だよ。振る舞うことはあんまりないけど、切って火を通して味付けする位なら出来るからさ」


「振り上げすぎじゃないかい? それに、もう少し小さいものはない?」


「あるけど、こっちの方が早く切れるから」



 視線を素早く動かしたユースティは、棚にあった二回りは小さい包丁を見つけて手渡す。



「っえっと、ゆっくりでいいから小さいの使って!」



 ソルリアは言われるままに受け取り、不思議そうにしたものの素直に頷く。包丁が軽く小さくなったことで振り上げるような使い方はしなくなったが、それでもやはりどこか危なっかしい。__おれにそう思わせるんだから、よっぽどだぞ。ユースティは内心で呟いた。



「ユースは出来るまでのんびりしてて。お客様なんだからくつろいでくれよなっ」



 少年は満面の笑みでそう告げるが、結局火を扱う部分まで──いや、全ての行程を付きっきりで見守ることになった。本人の姿の幼さに心配を掻き立てられることはあるが、包丁以降は特に危なっかしい部分はなく。

 野菜や肉、全ての食材を切って、フライパンを使い。五徳の下に描かれている魔法陣から出る火で炒め、軽く砕いたスパイスを振りかける。



「よし、完成っ。料理名はないから……まぁ色々香草焼き。パンと合わせて召し上がれっ」



 洗い物を引き受けながらほっと息をつき、ユースティは微笑む。火の通った香草が深みを加えた良い香りが鼻腔をくすぐり、食欲が刺激されていく。



「香りでわかる、絶対美味しい」


「へへ、だろ? お前は沢山食べるって思ったから、ちゃんと色々と多めに買ってる。沢山つくれるぜ!」


「そうなのかい、一体いつの間に?」


「ユースが兄貴と二人で話してる間になっ」



 ソルリアはどこか誇らしげにしつつ、平たいお皿に山盛りの香草焼きを乗せると、彩りを添えて。座ったユースティの前のテーブルにパンと共に配膳すると、自身の分も持って向かいにある、座る場所が高くなった椅子に座る。



「さ、たっくさん食べてっ」


「うん、遠慮なくいただきます!」



 二人で手を合わせて食べはじめる。ユースティは早速頬いっぱいに頬張ると舌鼓を打ち唸る。ソルリアはその様子に誇らしげに、そして嬉しそうに笑い、自身も食べ始めた。



「あっそうだソルリア。明日は、断食とお祈りの日だっけ?」


「建国記念日だってば。……まあ確かに変わったところはそこだけど」



 パンで香草焼きを挟み、頬張って。……しっかり飲み込んでから続ける。



「ユースは旅人だから、アイシャさんが言うとおり、無理に合わせなくていいんだぞ。そもそも一日中食べないなんて、食いしん坊のお前が耐えられないだろ?」


「けど、折角だしおれも参加してみたいなーって」


「なんで?」


「……強いて言うなら、研修生だから?」



 ユースティはドヤ顔で告げるが、あまり説得力がなく特にこだわりがなさそうだ。しかしその意志は尊重し、ソルリアはとある提案をすることにした。



「いい案があるよ。実は正式な例外があるんだ」


「断食対象にに含まれないものがあるってこと?」


「うんっ」



 ソルリアは一度立ち上がると、人間の広げた両手のひらで持てるような大きさの四角い箱を持つ。そしてその中に香草焼きや他の果実を詰めていく。最後には蓋をして、大きな布で包んだ。



「大切なヒトにこうやって作って、渡す。受け取ったヒトはこれを食べることが出来るっ」



 ユースティはそれを見て、目を輝かせて立ち上がる。



「お弁当だ……!」


「そ、オベントウ。俺の場合魔法が使えないから常に冷やせはしないけど……当日は氷嚢を入れたりして工夫するから安心して」



 改めて包みを解くと、ある程度熱を冷ますために蓋を開けて置いておく。



「毎年兄貴やヴァリータさんにも渡してるんだ。今年はお前も仲間入り、だなっ」


「ありがとう、ソルリア!」


「へへ、どういたしまして?」



 そんなソルリアの手元へ目線を向けていたユースティは、その焦げてしまったミトンに意識が移る。



「ミトン、もらったばっかりだったのにな。おれも一緒に謝るよ」



 その言葉に、ソルリアはなんとも言えない顔で頷く。



「いやまあそうなんだけど、……少しは申し訳なさそうにしろよな?」


「え? ……あっ、」



 ユースティの声色や言葉には申し訳なさそうな色が籠ってはいたが、その手にはすっかり平らげられたお皿があった。



「はは、色々香草焼き、美味しいからつい」


「それは嬉しいけどさ」



 ソルリアもやれやれと笑い、おかわりをお皿にわけて持っていった。


 食事を終えた後、やがて明日のために眠ることにした二人は、部屋にある二つのベッドへと向かう。ユースティはふと訊ねた。

 


「ここが二人の家ってことは、これはお兄さんのってことだよね。おれは使わない方がいいんじゃないかい?」


「いいよ。兄貴はもう何年も役所泊まりだから」



 布団を整えて眠る用意をしながら単調に告げたソルリアへ、ユースティも倣いつつ話を続ける。



「……やっぱり長って大変だよな」


「うん。兄貴もすごく辛そうで、きっと溜め込んでる。魔法も使えなかった俺じゃ、何か手伝うにしても気を遣わせただけだった。

 俺、唯一の肉親の筈なのに、何も出来ないんだ……」



 どこか寂しげに溢したが、すぐに首をふって切なそうに、しかし柔く微笑んで布団へ寝転んだ。



「それで、せめて気を許せる誰かが一人でも多くいたらって思ってさ。……民は長相手だと一歩引いちゃうから、旅のヒトの何人かに、兄貴と喋ってもらってたんだよ」


「__それって」


「うん。ユースに兄貴と会ってもらったのもそのため」



 ソルリアの目的に気付いて目を瞬かせたユースティへ、真っ直ぐ見つめて頷く。



「最初は今までで一番悪い空気だったけど、二人に二度目があるだなんて初めてでさ。

 ……ちょっと、いやかなり、嬉しいのが本音で……」



 そこまで言って変な空気にしてしまったと感じたのだろうか、ソルリアは焦ったように言葉を続ける。



「あっ……と、とにかくありがとな、ユースティっ。

 ちょっと喋りすぎたな、ごめんっ。今日はこれぐらいで寝ようっ」


「ん。……そうだね。おやすみ」



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