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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第肆章 
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第五話 失節の落陽



 浮遊感のあと、二人が現れたのはフッブの国の入り口。ユースティが久々に見たその場所の光景は記憶していたものとはまた一段と変わってしまっていた。

 結界の中だというのに砂塵が多く舞い、視界が少し悪い。さらに周囲の石畳は交戦した跡と思われる焦げや傷で汚れており、建物も大きく破損している。そして何よりこの状況を異質なものにしているのが、道の真ん中で倒れ眠っている者が何人も確認できることだった。



「だ、大丈夫かい?!」


 

 駆け寄って呼吸を確認したユースティはほっと息をつく。それぞれ無傷でちゃんと意識下で反応も返している。



「エトワール、これって……」


「結界には傷一つついていません。魔物ではないことは確かですね。あるいは結界を無視できる程にヒトに近い、魔族と呼べるような存在が現れたのか」



 周囲を見回したエトワールは、なんとか動いている様子のエントマ……ショウの存在を視界に入れる。歩み寄ったと同時によろめいたその体を丁寧に支え、覗き込むように様子を窺う。



「じいや」


「エトワール様、……ぼっちゃまが……申し訳ありません……」


「ソルになにかあったのですか」


「どうか、彼を止め……」



 ショウはそう告げきることなく、くたりと疲れたかのように俯き立ったまま静止する。



「……まさか全部ソルリアが、なんていわないよな」


「見た所建物などを破壊した魔素はソルリアのものとは違います。ただ交戦したのは確実……ソルリアも魔法を使っていますね。

 自身の魔法が建物に当たりそうになったものを、消滅魔法の重ねがけで消している跡もあります」


「どんな魔法でも、重ねがけは可能なの?」


「使った魔法を完全に消すイメージさえ出来れば、可能です。しかし咄嗟に使えるかとなれば、本人への負担や魔素必要量からして高度だといえます。

 こんな戦い方は教えていないのですが……」



 歩いて行く道中にも倒れ伏している、傷一つなく安らかな寝顔の民や旅の者たち。戸惑いつつ歩めば、役所付近の大通りまでたどり着く。そこには他の民と同じく安らかに眠っているヴァリータ。側には一人の少年が、彼女の腕を複数の手で優しく包み、祈るように座っていた。



「…………ソルリア?」



 彼は意識があるようで、ユースティに名前を呼ばれると瞼をゆっくりと開きながら顔をあげた。かすり傷が多く少量だが出血も見られる。



「兄貴、ユース。お帰り」



 少年はエトワールとユースティの二人を視界に収め、嬉しそうに笑う。ゆらりと立ち上がった彼の周囲には大きな黒い靄がかかっているように感じられた。



「ねえきいて。俺、魔法が使えるようになったんだ。だから悪いやつはもう、いないよ」


「そうなのかい、すごいじゃないか!

 ……けど、一体なにがあったんだい……?」



 本心から喜びを伝えはしたが、明らかな違和感にたじろぐユースティ。その質問に答えは返ってこない。

 同じく心配そうにしていたエトワールは一転して無感情に目を細め、ユースティより一歩前に歩み出た。



「……下がって、ユースティさん」


「えっ」


「いいから早く!」


「ほら、見てて──炎よ、っ」



 そう告げたソルリアの魔法がうまれる瞬間。大きく、強い魔素の流れが起こる。


 怒り、悲しみ、喜び、様々な感情が渦巻くその現象。近くにいれば感情さえ引き込まれ、酷く乱されて。何処かへ溶け込んでしまいそうな感覚に、寒気がぞくりと背筋を貫いた。

 やがて、かつてソルリアがエトワールに渡されていた業火の魔法とは比べ物にならない大きさの黒炎が、二人へと放たれる。



「な……っ?!」


「こうやって今の俺なら、兄貴より強い魔法を出せるんだっ」



 ほぼ同時にエトワールが魔法の氷を連ね、炎を防ぐ分厚い壁を作り出す。二つの魔法はすぐにぶつかり、激しく大きな音を立てて灼熱の蒸気をあげた。

 ……黒炎の勢いは留まらず、このままでは防ぎきれない。エトワールは氷の壁が溶け切る直前、怯んで動けないでいたユースティへ飛び込み二人で炎を避ける。



「ごめん、エトワールっ」


「構いません。今のように一度に多くの魔素が循環する場では、本職の魔法使いでさえ動揺しますから」



 青年は片膝で姿勢をすぐに整え、人間の背中に手を回し優しく起き上がらせて……次に無邪気な笑顔を見せるソルリアを見据えた。



「一旦距離を取ってください、ユースティさん。役所の壁は魔素をある程度分散させる素材で出来ていますので、少し楽になるはずです」


「わかっ、た」



 魔素の大きな流れの影響でぐらりと視界が歪むのを感じながら、ユースティは頷き移動を始めた。体を引きずるように進み、ようやくといった形で役所の壁に手を触れれば疲労感や眠気が段々と解けていく。



「兄貴、見てよ。これはどうかなっ」



 その間にも鋭く素早い黒炎の矢が複数放たれ、エトワールが手元に作り出した氷の盾で弾いていく。一度で容易く溶ける盾は何度も作り直され、壊れては欠けて飛び散り。再び作った盾でなんとか追撃を防いでいる。

 ……少年は一体どうしてしまったのだろうか。一歩間違えればヒトを軽く死なせてしまう魔法を、嬉々として家族へと放っているだなんて。



「ソルリア、そんな魔法は危ないよ! 今すぐやめて……!」



 ユースティの言葉に、まだまだ放たれていた炎の矢はエトワールを大きく避けた。


 なんとそれらはフッブの建造物や石畳だけでなく、ユースティの方角にも向かっていく。脳内によぎるのは、燃え尽きるまで炙られるような死の予感。 



「……!!」



 しかし全ては当たる直前で掻き消える。



「この通り、大丈夫。俺は魔素の池の力を持ってて、制御だって出来てるんだ。手加減しなきゃ皆簡単に死んじゃうんだからな。

 勿論、お前だってっ」



 静まった場に少年の無邪気な笑い声があがった。ユースティは忘れてしまった呼吸を思い出し、荒く息をつく。なにか言いたくても……本気でソルリアに殺される。そう感じさせられてしまったことによる衝撃が強すぎて言葉がでない。



「それは思い上がりだよ、ソル。そんなやり方は無茶で無駄だらけだ、そのうち限界が来る」



 代わりに表情を強張らせて告げたエトワールへ、ソルリアの笑顔は歪む。



「ちゃんと出来てるんだから無茶じゃないし、無駄でもないよ。限界なんてない。

 兄貴こそ限りある魔法なんだから、炎を氷で防ぐなんて、無駄なことしないほうがいいんじゃないのっ」


「……どうやら今の君は少々、傲慢なようだね。いい機会だ」



 お互いに魔法陣を並べ、向かい合った。



「魔法の使い方。今から身をもっておしえてあげるよ、ソルリア」


「俺が正しいってこと。倒したらわかるよな、兄貴っ」



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