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おしえて、研修生!  作者: きりぞら
第壱章 伝えろ、繋げ。慈愛の国
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第10修 立ち塞がる不信


 不安げな弟を見送った後、フッブの国の長はわずかな顔の緩みを引き締めユースティへと向き直った。



「あなたは、何が狙いですか」


「狙い? おれは一人の旅人として挨拶と、お話をしに来ただけさ。慈愛の国の長様」


「……すみません。少し気が立っておりまして。……どうか、ご無礼をお許しください」



 恐らくその気の荒立ちは少しどころでもなければ、収めようとさえされていない。しかしユースティは不信から高圧的になっている相手……直近でいえばコッペリウスと話し、打ち解けることが出来た経験がある。多少耐性はある方だ。



「初めまして。僕はエントマのエトワールといいます。

 まだまだ若輩者ではありますが、ここ数年間フッブの長を務めております」


「改めておれは、カルディアのユースティさ」


「立ち話もなんですし、そちらへどうぞ」



 エトワールの魔法で、その場に椅子が瞬時に現れる。ユースティはその言葉に素直に従った。



「さて。先にお伝えしますが、僕はわずかな感情……特に怒りに関しては、増幅させて無理矢理引き出すことが出来ます。なので隠し事は一切。

 ……とはいいませんが、あまりしないでいただけるとありがたいです」



 早速伝えられた話にも、疑問を抱きつつ乗っかっていく。



「それって、君がそういう魔法も使える……ということかい?」


「他人に『神の力だ』として分け与えられた別物ですよ。魔素が動きますので魔法の一種ではあるのでしょうが、何処までが一緒なのかと聞かれれば怪しいでしょうね」



 やけに含みが感じられるような言い回しだ。ユースティは内心で首を傾げる。



「魔法も神様への信心が関係してるんじゃなかった?」


「ええ。僕達が持つ神への信心による、恵みの力。この国ではそう信じられています」


「……あくまでもここではそういう認識でしかない、ってこと?」


「ええ」



 仮にもフッブでの信仰に関わるものを“そういう認識”と片付けた言葉。それがすんなりと肯定された。

 エトワールは仮にも、魔法が神による恩恵だと考えられているフッブの長だ。本人自身も魔法に堪能でありながら、神という存在に対して懐疑的な姿勢を持っている。……ユースティは複雑な顔をしつつ、言葉を選ばずに次々と疑問を重ねていく。



「その直接賜った力っていうのは、力の存在を知っている相手にも効くのかい?」


「今まではそうでしたね。この力を一度使えば、誰も抗うことは出来ない。

 なので仮にあなたが何か隠していたりするなら、先に告げていただく方がお互いに楽だと思います。ただ例外はあるそうで」


「神様の力なのに、効かない対象が居たりするの?」


「ええ。どうやらこの力は種類がいくつかあり、それぞれに効かない対象が一人は居るとか、居ないとか。

 ……気になるのでしたら、試してみます?」


「えっ?!」



 そう聞いた途端に顔を輝かせた人間に、今度は青年が怪訝そうな顔を向けた。



「今の話の流れで、そのような顔をされるんですね」


「ちょっと気になるなって。もしかしたらおれが知らない君への感情が既にあって、吐き出しちゃうかもしれないんだろ?」



 まるで他人事のような発言。エトワールの怪しむ表情に心配するような色が滲む。



「本来ならば嫌がるところです」


「だっておれたちは会ったばかりじゃないか。隠し事はしてるつもりは無いし、君そのものへの物申しは無いつもりだから」


「そうですか。僕そのものには無い、ということは……他が絡むと変わってくると言うことでしょうかね?」



 そのまま今度は青年の方から話を進めるように訊ねた時、──コンコンコン。応接間の扉がノックされる音が響いた。



「すみません。先にこちらを終わらせてもいいですか」


「うん、勿論さ!」


「ありがとうございます。……どうぞ、じいや」



 じいや。その呼び名にユースティはここに来る前の一連を思い起こす。……推測の通り扉からは先程、ユースティやソルリアが逃げ出した授業の先生、ショウが現れる。



「おお、……」



 __ユースティは、入学許可証を右手首に着けたままでここに居たことを思い出す。そうして考える__仮にもソルリアの授業脱走の加担者である自分は、一体どういう顔をしていればいいのだろうか。ここに入る前にソルリアとも会った筈である。鎌には何もぶら下げられていないため、少なくともソルリアが学校へ連れ戻されるような様子は無さそうだが……気まずいことに変わりはない。


 エトワールの時とはまた違った緊張に一気に冷や汗を噴き出させた人間に、ショウはその目をギョロリと向けた。


 __……お、おこってる、? これは謝って、許される?



「ぁ、……とショウ、先生。えと、その、さっきは」


「先程はどうも!」


「わわっ?!」



 あまりの気まずさにユースティが謝ろうとした瞬間、突然片手を両腕で挟むように持たれ、そのままブンブンと上下に振られる。……喜色満面の様子。突然のことに混乱する人間をよそに、ショウは言葉を続ける。



「まさかぼっちゃまが既にあれだけの魔法を使えているとは……今までは緊張なさっていただけなのですな! じいやは感激でございました!」


「えっ……だ、よね?! えーと、うん、……それは、よかった!」


「明日も授業はありますので、もしよろしければぼっちゃまを連れて来ていただけるとありがたいですじゃ!」


「う、うん……なるべく、連れていくよ……!」



 勢いのままひとしきり振りまくると、じいやはすぐに顔を切り替えて青年の方へと向き直る。その時間は0.01秒。……実際に計測したわけではないが、ユースティはそう思った。



「エトワール様、お疲れさまです。ご体調はいかがですか。じいやは以前仰っていらっしゃった項目の期限のお知らせにうかがいました」


「ああ……大丈夫です。きちんと覚えていましたし、今日はまだ余裕もありましたから、無事遂行することが出来ました。ありがとうじいや」


「よかった。それは何よりですじゃ」



 改めて観察すると髭と体の色、声と喋り方がそれっぽいだけでじいや、と呼ばれるほど老けているようにはみえない。真っ直ぐな姿勢で動作も素早く、凛々しく立っている。そんな彼が一礼すると、先程の勢いとは真逆の丁寧で落ち着いた所作で部屋を後にした。

 二人の会話に疑問を挟む間も無く……未だじいやの勢いに気圧されて固まったままであったユースティへ、エトワールが言葉を発する。



「じいやとも既にお知り合いだったのですね」


「あ、あはは、まぁ……うん」



 先程まで何の話をしていただろうか。……そうだ、エトワール自身に言いたいことはまだ無い、という話だった。

 彼もソルリアが絡むと話が変わってくる。ということを察しているが故に話を進めてきたのだ。ユースティは咳払いすると、エトワールの質問へ返答をはじめる。



「おれ、君に聞きたいことがあるんだよ。彼が……ソルリアが魔法を使えない理由は、ホントにわからないのかい?」


「ソルリアからそう聞くよう言われたのですか?」



 真っ先に返された言葉に、首を横に振る。



「単におれの興味。むしろ彼のことを抜きで話してほしいって言われた位だった。でもそれは無理そうだ。これを隠したままで君と打ち解けるには、きっと時間がかかりすぎる」



 静かに見据えてくるエトワールへ、改めて正面から向かいあった。



「彼……ソルリアには可能性があるんだよ、エトワール。国の長である君からも、他の子に学校でしていたように……ソルリアに色々教えてあげてほしいんだけれど」


「それは出来ませんね」



 間髪入れずに返ってきた拒否。ユースティは目を細める。



「……どうして?」


「僕から……いえ、民たちからも彼に教えられるようなことは一切ありません。

 そもそも彼に魔法を使わせようとしないでいただけますか。はっきりいって迷惑です」



 目の前の人間だけでなく、弟である少年をも突き放すような言動をとるエトワール。ユースティは立ち上がり、前のめりで告げる。



「彼は君の弟だからって、適当な言いがかりをつけられてたんだよ?

 おれが間に入った時なんて、全身が痙攣する位の雷魔法で……あのまま殺されたっておかしくなかった!」



 その話に、彼の表情は痛々しく強張った。



「……それは、いつのことですか」


「つい昨日だよ。君は仕事中だったのかもな。囲まれて逃げることも出来なくてさ。誰にも助けを求められないまま、意識を失いそうだった。

 魔法を使えないからって好き勝手言われ放題だし、ああいうことがまた無いだなんて誰も言いきれない。彼こそ自分で守る術を持たなきゃいけないんだよ!」


「っそうであっても!!」


「!」



 ──遮って声を荒らげてしまったことにハッとしたようだったが、そのまま人間を睨むようにして言葉を続けていく。



「そうであっても、彼にとって魔法が使えることがいいことだとは、限らない」



 その言葉の真意を飲み込めず黙り込んだ人間に、青年の不養生な顔がまた一段と険しくなった。……彼は少々震えた声で、しかし気丈に言葉を続ける。



「失礼しました。あまり時間をかけてもソルリアが心配です。この話を続けるのであれば、別日にしていただけませんか」


「……。わかった。そうしようか」





 役所から出たユースティは、兄に言われた通りに外で待っていたらしいソルリアと合流する。彼はユースティへ振り返ると少々申し訳なさそうにしつつも、希望の光を崇めるかのように駆け寄って来た。



「どうだった、ユースっ」



 ここで仲良くなったと言いきれたなら、どれほどよかったか。現実は険悪一歩手前であった。しかしこれ以上の踏み込み方など、今のユースティには出来ないのも事実。それを内心で認めつつ、ソルリアには一度お茶を濁すことにする。



「まあ……ちょっとは、打ち解けられたかな?」


「ホント?!」



 少年は一転して、とても嬉しそうに笑んだ。──罪悪感が走るが、先程のエトワールの様子をみてしまった以上、ユースティに他の言葉は思い付かない。



「それで、明日もう一度話そうってことにもなったよ」


「すごい、いつもより長かったし、そんなの初めてだ!」



 ソルリアの発言に、ユースティは彼を見つめる。



「長かった、? それに、初めてって?」


「あっ」



 少年はしまったと言わんばかりに慌てるが、すぐに咳払いをして続ける。



「と、とにかく。明日も話すなら俺も着いていくから。よろしくな!」


「そっか。でもきっと、今回みたいに待たせちゃうよ?」


「うん、大丈夫っ」




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