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【2章】6 放課後の教室

 暗く静かな住宅街を歩いていると、詩季からのメッセージが入った。詩季はもう家に着いたようだ。

『ごめん。来週の土曜、部員以外は事前申請が必要な体育館で、もう申請締め切ってた』

 タロウは肩を落とす。

 お詫びなのか、詩季の愛猫マメのごめん寝ポーズの写真が送られてきた。うつ伏せで手を枕にして顔を隠している。

『マメちゃんかわいい。顔も見たいな』

 返信するとすぐに、目がくりくりな黒猫の写真が複数張られる。

(詩季、手の目立つポーズ好きだな)

 くつしたおててを中心に褒め称えると、

「――……っ」

 マメを抱っこしている詩季が映った写真が送られてきた。

 マメがカメラに向かって丸っこい手を突き出している、詩季渾身の一枚と思われる。だがタロウは詩季の綺麗な顔に釘づけだ。自撮り距離でやや見切れてはいるが、楽しげな表情がばっちり映っている。

『宇宙一かわいいです』

『だろう』

 詩季の写真を手に入れて、タロウは街灯の下で悶えた。




「今週末、バスケ部の試合なんだけど観られないって」

 月曜日の教室。タロウが愚痴を言うと、

「来週中間テストなのに観にいく気だったのか」

 と響が教科書をめくりながら白い目を向けた。

「時間取られるの半日くらいだろ。そのくらいなら元気の充填だよ」

「お前といい夏城といい、どうやって点取ってんだ」

 響は十分休憩の間も余念がない。

「僕は普段から復習しているよ。詩季は僕よりずっと忙しいけど、どうしているんだろう」

「秘訣をスパイしてこい」

「了解」

 単純に地の記憶力も思考力も差を感じるので、知ったところで真似できないと思うが、詩季に質問するのは楽しい。

 タロウは詩季に話しかける隙をうかがった。だが全ての休み時間で彼の周りの人が途切れることはなく、放課後になって、詩季は部活に行ってしまった。



 翌日の火曜日。響とのやりとりなど忘れてしまったタロウは、放課後、教室に残ってテスト範囲を復習していた。

 いくつかページを進めた後、背筋を伸ばした。教室を見渡すと誰もいない。窓にもたれかかって休憩する。部活休みは明日からなので、校庭ではサッカー部が練習をしていた。

「タロウー」

 詩季の声が聞こえて真下を見ると、歩道に彼が手を振っていた。バッグを持って帰るところのようだったが、タロウが手を振り返すと、昇降口の方へ走り去ってしまい、やがてこの教室に戻ってきた。

「俺も一緒にしていい?」

「うん」

 詩季が響の席に座り、タロウは机を向かい合うように動かした。

「まだ帰っていなかったんだ。何かしてたの?」

「裏庭のゴールポスト空いてたから、シュート練習」

「そういえばあったな、ゴール。詩季はバスケ好きだね」

「うん。明日の部活無くなっちゃったし、短時間だけでも」

「すごい」


 詩季が教科書とノートを広げた。

「ノート綺麗」

 綺麗な字が気になって、こちらに向けて見せてもらう。

「分かりやすいね。いいなー」

 羅列ではなく、ページいっぱいに配置して、関連性が見えるようになっている。

「地理取ってたよね。苦手なんだけどノート見せてもらっていい?」

「今日、ヤマに貸しちゃったんだけど。ちょっと待って」

 詩季は廊下側の席の机の中を覗いた。

(山村くんの席かな)

「やっぱり置いてってる」

 一冊のノートを取り出し、タロウに渡してくれた。山村が借りていた詩季のノートようだ。

「あいつが寝坊して地理出られなかったから貸したのに。使わないなら返してもらう」

「ありがとう」

 ぱらぱらと見るとやはり分かりやすい。自分のノートと並べて、一項目を書き写した。

「はい。返す」

「もういいのか。タロウは遠慮いらないぞ」

「あとは真似して自分で書いてみる」

「そう」

 ヤマとは大違いだ、と呟いている。

「詩季と山村くん、仲良いよね」

「…………」

 詩季が唐突に黙り、

「ああ、まあ」

 曖昧な返事をした。

「……山村くんと、何かあった?」

 つい訊いてしまったが、詩季の表情が硬くなるのを見て、

「あの、今のなし」

 慌てて取り消す。

「タロウ」

 詩季は困ったように笑った。

「自分でもどうしたいか整理できていなくて、ただの愚痴になるかもしれないけど……」

 詩季の弱音に、タロウは素直に緊張した表情をしてしまう。それでも、

「なんでも聞くよ」

 なけなしの頼もしさを振り絞って返事した。

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