表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

はちみつにもアップルにもレモンにも人には言えぬ切なさがあるのだろう

朱里のチュパッターを見た。


痩せてるなと思った。


夢に現れた朱里はもう少しふっくらしていた。


きっとそれくらいが朱里のベストなのだろう。


本物のインテリ悪魔を目の前にして頬を紅潮させていたね。


情熱に燃える瞳には純情女子らしい喜びと好奇心、そして恥じらいの色が浮かんでいた。


いま現実世界の朱里の頬はこけ、目はメッシ(目死)になっていた。


不安で押しつぶされそうな日々を過ごしているのだ。


特に朱里は大晦日の悪夢が脳裏をよぎるのであろう。


1度や2度のことではないのだろう。


何度も何度も、夢にまで見るのだろう。


食事も喉を通らず、食べて吐いているのだろう。


大書店に行った。


悪魔に必要な本を買うためだ。


人間どもには超絶難解らしいが吾輩にとっては大したことがない。


へそが茶を沸かすレベルだ。


ただインテリ向けの本は大した内容ではないくせにバカ高いので腹が立つ。


駐車券を2枚くれるという。


何万円も買ったのに何が駐車券プレゼントだ。


しかも吾輩はチャリで来た!のだ。


断るとコーヒー券をくれるという。


何万も買ったのにコーヒー券たった1枚かよ!?


しかし悪魔はそんなことで文句言うほどせこくはない。


薄ら笑みを浮かべてもらっておいた。


提携コーヒーショップはなかなかオシャレな店だった。


カウンターでチケットを渡す。


「ドリンク何になさいますか?」


「えっ!?(ドリンク、だと?「コーヒー券」ではないのか!?)」


示されたパネルにはオシャレな名前の飲み物が並んでいた。


(「はちみつアップルレモン」だと?)


フランス語チックな名前のドリンクたちの中でひときわ目を引く名前だ。


はちみつとアップルとレモンを混ぜ合わせた甘酸っぱい味わいがするのだろう。


名前のまんまじゃないか!!


だがしかし冗談ではない!!


悪魔のくせに「はちみつアップルレモン」なんて頼んでナメられてはいかん!!


悩んでいると待っている人の列が急に長くなって焦ってきた。


カッコいいコーヒーを指さしたつもりが目測を誤ってしまった。


「はちみつアップルレモンですね!」


名前の通りキュートな味だった。


青春の味だと!?冗談ではない。


青春はしょっぱくて後味の悪い、苦くて焦げ臭いものだ。


はちみつにもアップルにもレモンにも人には言えぬ切なさがあるのだろう。


本当の悲しみなんて自分ひとりで癒やすものなのだ。


だけど誰かが力を貸してくれたら嬉しいとは思わないか!?


いつも力を貸してくれる誰かに返したいとは思えないか!?


タワーリング・レコードへと向かった。


何しに行ったって?


Girl you know the reason why.


POPが張ってあった。

「当店はみぃちゃんを推しています!」


みぃちゃん!?


世界の大河原みなみ!……にしては迫力がない。


誰だこいつ!?


バストアップのパネルには「松平美波 幸せ坂46 」とあった。


ふざけんな!


みぃちゃんといったらONE AND ONLY!


異次元から舞い降りた究極の天才アイドル大河原みなみ以外ありえないだろーが!!


大河原がいなければエンジェルゾーンなんて2年で解散、姉妹グループも幸せ坂シリーズも存在しなかった。


それにしても時代の移り変わりとはむごいものよな。


今やみぃちゃん=松平美波か。


まぁ頑張れ。


君には何の罪もないよ。


見渡す限り幸せ坂シリーズだ。


選挙期間中なのになぜだ!?


国民的イベントではないのか!?


なのになぜフロアの真ん中が幸せ坂コーナーになっているのだ!?


店の奥の壁際にエンジェルゾーンのコーナーはあった。


上段に初回限定盤、下段に通常版がタイプ別に並んでいた。


限定版にはイベント券、通常版には生写真。


What do you see when you turn out the light ?


正義の勇者・ジューリこと進藤朱里は日頃は人一倍繊細で優しい女の子だという。

あの日正義を果たしながらも、雪藤凜々花を傷つけてしまったことに苦しみ続けていたという。

凜々花ファンが涙を流しながら謝りに行くと朱里も涙を流しながら受け入れたという。


それにしても善良で才能ある女の子の将来を人質にとったこの商法、儲けているのはごくごく一部の、既に充分に金を持った大人たち。


ファンが観たいのは清純アイドルが元気いっぱい協力しあって大暴れする姿なのに、お互いを競い合わせて順位をつけて、一体どこに辿り着けるのTELL ME BABY!!


メンバーたちが自分で買って自分で投票、ファンの皆さんと一緒に!とショートスパッツ配信することがある。


出てきた生写真を「当たり」だの言うことがある。


去年のことだが莉乃もそんなこと言ってたな。


人を当たり外れで振り分けるなんて、そんなエンジェルゾーンみたいなことやめろよな。


みんな仲間じゃないか。


高揚感とやるせなさを抱えてコーナーを後にする吾輩を女子中学生が不思議そうに眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ