第捌話 【 白き英雄と機械神 】
満月が、両腕からプラズマのブレードを出し、
向かってくる怪鳥の群れを、次々と切り落とす。
「どうした。毒が効かぬ鋼の体が相手では、手も足も出ないかッ!!」
『キエェェェェェェェッ!!!』
「おぅおぅ、暴れてんなぁ。俺も負けてらんねぇッ!!!」
<<< 幻影呪術・幻影晶壁 >>>
灰夢がグッとしゃがみこみ、そのまま一気に空へと舞い上がる。
<<< 幻影大剣・壱ノ型・地獄車 >>>
灰夢が両手で大刀を握りしめ、自らに遠心力をかけながら、
グルグルと回転し、一列に並んだ鴆を一気に切り捨てていく。
「──満月ッ!」
「──おうっ!」
満月が背中から空を舞うスケートボードのような板を取り出し、
灰夢に向けて飛ばすと、灰夢はそれに乗って敵を切り捨て始めた。
<<< 自動補足射撃・破壊開始 >>>
満月が敵を切り捨てながら、ミサイルを次々と空へと打ち上げる。
そして、落ちてくるミサイルが、怪鳥を空から撃ち落としていく。
その人間離れした、圧倒的な戦闘力を見て、
真希と恋白は、口を開けたまま固まっていた。
「いったい、何者なんだ。あいつらは……」
『あの白いロボットは、なんなのでしょう』
「外部の人間が操縦してるらしいが。まるで、あれが生きているようだな」
『あれが、人間の力……』
「白き英雄が、蘇ったみたいだ……」
「……大、丈……夫?」
『えぇ、大丈夫みたいです……』
「えへへ……」
安心したように微笑む恋白を見て、白愛も笑みを浮かべる。
「ふっはははははッ!!! まだまだ、こんなものでは無いぞっ!」
「殺戮マシンの姿で、その笑い方はどう見ても悪役だろッ!!!」
くだらない冗談をいいながらも、敵を切り捨てていく二人。
二人は五分も経たないうちに、半数以上の怪鳥を倒していた。
そして、空から舞い戻るように、揃って真希たちの前に降り立つ。
「ったぁ〜、結構倒したか?」
「なかなか暴れたな。ミサイルも、全て使ってしまった」
「老人に、あまり無理をさせるもんじゃねぇぞ。ったく……」
「どこが老人だ。全世界の老人カテゴリーに属する人々に頭を下げろ」
「メタルボディには言われたくねぇよ。人間の体にはしんどいんだぞ?」
灰夢と満月が冷静に、残りの鴆の数を確認する。
「そろそろ、走り抜ければ帰れるんじゃねぇか?」
「この数なら、何とかなりそうだな」
『──キエェェェェェェェッ!!!』
「キエキエキエキエ……うるせぇなぁ、お次はなんだ?」
「突然、揃って鳴き出したな。何かする気だぞ、コイツら……」
『あ、あれは……』
「……まさかっ!」
島の外れの方から、もう一体の怪鳥が姿を見せ、
それを見た恋白と真希が、青ざめた顔で見つめる。
「おい、まだ外にもいんのか?」
「距離感がつかみにくいが、あの距離であのサイズは大きくないか?」
「……まさか、親玉ってか?」
『──キエェェェェェェェェェェェッ!!!』
他の鴆よりも数倍大きな、左目に傷が付いた怪鳥が、
灰夢たちを威圧するように、大きな羽を羽ばたかせる。
『……目に、傷……。こんなに、大きくなって……』
「……コイツが、あの時の……悪魔ッ!!!」
──その鴆は、十五年前に村を襲った怪鳥だった。
『人間無勢が、下等な人間が。朕の縄張りを、朕の配下たちを……』
「おぉ……。他のと違って、ボスは滑舌よく喋るんだな」
「一人称が『 朕 』なのかよ。ややこしいな、コイツ……」
「……鴆だけにな」
※ 朕 = 天皇などの高貴な者が使う一人称。
『貴様ら人間如きが、抗う資格も持たぬ愚か者共が……』
「……あ?」
『弱き者は朕に従い、朕を敬い、朕の為に命を捧げよッ!!!』
「ちんちんちんちん、うるせぇぞッ!!! ぶっこr──」
「灰夢、それぐらいにしとけっ! 放送禁止用語が出てるからっ!」
好き勝手に喋る怪鳥を、灰夢が不機嫌そうな顔で睨む。
『眠るな、働け、蘇れ。朕の忠実な配下たちよッ!!!』
「……ブラック企業かよ」
<<< 神鳥奇術・虚空に生きる不死鳥 >>>
『──キエェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!』
その鳴き声と共に、龍脈の力が溢れ、
切り捨てた怪鳥たちが、一斉に蘇った。
「……復活しただと?」
『朕の力を持ってすれば、我が一族は不滅だ……』
「ったく、いつから不死鳥に転職しやがったんだ」
『力無き弱者は喰われる定め。所詮は人間、雑魚に過ぎない』
「よし、コロス……。絶対に殺す、死んでも殺す……」
「死なないだろ、お前は……」
本気でイラつき始める灰夢に、満月が冷静なツッコミを入れる。
「だが、相手も蘇るとなると、不死身同士の泥仕合確定だな」
「チッ、最悪のシナリオだ……」
「さすが、鴆の親玉と言ったところか。これでは、埒が明かない」
「まずは、アイツから片付けに行くぞ──ッ!!!」
二人が同時に駆け出し、再び空へと舞い上がった。
『──キエェェェェェェェェェェェッ!!!』
<<< 鳥獣演舞・緑扇乱羽 >>>
それを見た親玉の怪鳥が、鳴き声と共に、
二人に向かって、巨大な羽を大量に飛ばす。
<<< 幻影大剣・弐ノ型・心燈牙 >>>
<<< 機神撃・紫電双刀乱舞 >>>
それに立ち向かうように、二人が刃で応戦していく。
他の個体とは違う、巨大なサイズの羽を切り落とす。
その瞬間、突然のバンッという爆発音と共に、
灰夢の横にいた満月が、羽に貫かれ砕け散った。
「……な、満月ッ! しまっ──」
灰夢がよそ見をした隙に、鴆の親玉が動き、
巨大な翼を使って、灰夢を地面に叩き落とす。
真希たちの目の前には、砕けた満月の残骸が落ち、
その横に打たれた灰夢が、勢いよく落下してきた。
──それと同時に、真希たちを包んでいた幻影が消える。
『なっ、そんな……』
「あの二人が、負けた……」
「……き、かい……さん、おに、ぃ……ちゃ、ん……」
バラけた満月の姿と、砂埃に包まれた灰夢を見て、
親玉の圧倒的な強さを知り、三人が言葉を無くす。
『後は、貴様らだけだ。下等な人間共……』
『そんなことは、させません……』
恋白が残りの霊力を使い、少しだけ蛇の身体を大きくする。
そして、大蛇の姿で地面を滑り、白愛と真希を体で包み込む。
『彼らの残した命は、わたくしが必ず守りきるっ!』
『生きていたか、白き手負蛇よ。再び姿を見せるとは、何とも愚かだな』
『わたくしは例え何度でも、この子たちの為なら立ち上がる』
『所詮は喰われるのが定めだ。それが、弱肉強食の世界なのだ』
「……だ、め……かぞ、く……たい、せつ……」
恋白の体を掴んで、白愛が涙を流しながら必死に声を上げる。
「……たす、け……て、き……かい、さん。お、にぃ……ちゃ、ん……」
『……白愛』
「灰夢、満月……。すまない。私が、巻き込んだばっかりに……」
『……真希』
「私が、この手で……。みんなの仇を討たなきゃいないんだッ!!!」
真希も涙を流しながら、手元のマシンガンを怪鳥に向ける。
『全く、黙って食事になっていればいいものを……』
「家族の仇、村の皆の仇、二人の戦友の命も、無駄にはさせないッ!」
『──キエェェェェェェェッ!!!』
<<< 鳥獣演舞・緑扇乱羽 >>>
周りの怪鳥たちと共に、親玉が巨大な翼で羽を飛ばす。
その羽が、槍の雨のように、三人に向かって降り注ぐ。
『真希、白愛、伏せて──ッ!!!』
「……い、や……だよ……た、す……けて……」
( 私の十五年間は、無駄だったのか…… )
「 ……き、かい……さん。お、にい……ちゃ、ん…… 」
──その瞬間、落ちていた満月の頭から低い声が響いた。
『 灰夢、あと三秒だ…… 』
再び巨大な影狼が、大きくなった恋白ごと包み込むと、
大きな呪力の玉を放ち、向かってきた羽を全て蹴散らす。
「こ、この影は──」
驚いた三人が、灰夢の落下した場所に目を向けると、
砂埃の中からゆっくりと、上裸の灰夢が姿を見せた。
「 俺に、男の化粧直しを待つ趣味はねぇぞ。満月…… 」
そして、バラけたパーツから出た転送装置が起動すると、
ビリビリと電気を放ちながら、巨大な光の柱を作り出した。
「 そう言いながらも待ってくれるのが、お前の優しいところだよ 」
そう告げる声が、光の柱の中から響き渡ると、
自分の部屋にいた満月の本体が、姿を現した。
【 ❖ 機神撃・超電磁熊重砲 ❖ 】
満月が出てくると同時に、巨大な怪鳥に向かって、
自分の変形させた機械の腕から、大型の電磁砲を放つ。
『グハッ、コイツ──ッ!!!』
それを顔面に受けた怪鳥の親玉が、怯んで地へと落ちていく。
「……き……か、い……さん、おに、い……ちゃん……」
「大丈夫だ、約束は必ず守る」
「俺らは絶対に負けねぇから、安心しろ。白愛……」
「……えへっ、うんっ!」
灰夢と満月がグッドサインで、少女に笑顔を送る。
それに応えるように、少女の不安な顔が笑顔に変わった。
「灰夢、満月、生きていたのか……」
「あぁ……。残念ながら、お迎えは遠分先らしい」
『新しい、黒い機体……』
「壊れたパーツも、リサイクルしないとな」
平然と前に立つ灰夢と満月を見て、真希と恋白が目を疑う。
そして、真希が二人の背中を見て、小さな声で呼びかけた。
「灰夢、満月……」
「……あ?」
「……なんだ?」
「お願いだ。奴を……。あのバケモノを、倒してくれ……」
「それは、お前の復讐の話だろ」
「私じゃ、もう……。歯が、立たないんだ……」
「…………」
灰夢と満月が振り返ると、真希は悔し涙を流していた。
「お前らが死んだ時……。私は一瞬、諦めてしまった……」
『……真希』
「これは、私の勝手な復讐だ……。図々しいのも分かってる」
「…………」
「それでも、もう……。お前らしか、頼れないんだ……」
「…………」
「渡せるものは何でも渡す。この命だって、差し出す覚悟は出来てる。だから──」
「 だから、お願いだ……。絶望から、私たちを救ってくれ…… 」
真希は初めて、二人に頭を下げ、心から涙を流して願いを告げた。
それを見た恋白も、真希に並ぶように、灰夢と満月に頭を下げる。
『灰夢さま、満月さま……』
「「 ……? 」」
『崇められる身でありながら、願いを告げることをお許しください』
「…………」
『白愛は、わたくしの大切な娘であり宝物なのです』
「…………」
『けれど、今のわたくしには、この子を守りきるだけの力がありません』
「……白蛇さま」
『無礼は重々承知の上です。どんな罰でも、謹んで、お受けいたします』
「……お、ねぇ……ちゃ、ん……?」
『ですから、どうか──』
『 どうか、報われない白愛に、明るい未来をお与えください 』
そう告げる恋白の瞳から、一筋の雫が流れ落ちた。
「……だ、そうだ。……どうするんだ?」
「はぁ……。こんなの、選択肢がねぇようなもんだろ」
「ここで逃げたら軽蔑するよ。オレも……」
「いや、お前がすんなよ……」
「するだろ。普通に……」
「まぁ、ガキの笑顔を守んのは大人の役目だかんな」
「なら、話は決まりだな」
「灰夢、満月……」
「真希は少し、その人を敬う気持ちを大切にしとけ」
「時には誰かと協力し、言葉を交わして生きていくんだ」
「憎しみに飲み込まれっと、人は心と視野が狭くなる」
「常に心に余裕を持って、今を笑える人生を生きろ」
「「 それが、俺ら…… 」」
「「 無駄に歳食った流浪人からの、
恩着せがましいアドバイスだ 」」
その言葉に、真希は浜辺で出会ってから、初めての笑顔を二人に見せた。
「 あぁ、ありがとう…… 」
「あと、恋白……」
「……はい」
「俺から二つ、条件を出す」
「なんなりと……」
「 白愛を残して、一人だけで死ぬんじゃねぇ。
それが、俺から出す、一つ目の条件だ── 」
「 ……灰夢さま 」
「 それと、白愛の横でお前も一緒に笑ってろ。
そいつが、俺がお前に出す二つ目の条件だ 」
「 ……はい。心より、感謝致します…… 」
灰夢の告げる言葉を聞いて、恋白の瞳から涙が溢れていた。
「てか、満月……。お前は自分の意見はねぇのかよ」
「オレは技術者だからな。お前が戦うなら、それをサポートするだけさ」
「それを世の中じゃ、『 責任転嫁 』って言うんだよ」
「元々、オレがここに来たのは、お前がオレを呼んだだけだからな?」
「そういうところだぞ、お前……」
「まぁ、さすがに、『 逃げる 』と言ったら、お前に電磁砲を放つがな」
「怪鳥より先に、テメェをバラしてやろうか。クソサイボーグ……」
緊張感の無い二人が、再び立ち上がる怪鳥を見つめる。
「んにしても、流石にあれは一筋縄じゃいかねぇな」
「だな。遠隔操作のロボットじゃ、さすがに限界だった」
「普通にバラけたしな、お前……」
「バッテリー切れだ。プラズマの出力が落ちてしまってな」
「お前、その姿でも死ぬとか無しだからな?」
「安心しろ。例え死んでも、部屋にある機体から蘇る」
「……は? そんなこと出来るのか?」
「自分で作った機体にしか移れないがな」
「いやいや、自分で作ったやつに出来れば申し分ねぇだろ」
「意識のバックアップ機能があるから、設定した機体に自動で心が移る」
「不死身じゃねぇかよ。なんだそれ……」
「お前が言うなよ……」
一度やられても尚、微塵も緊張感無い二人を見て、
恋白と真希が言葉を無くし、目を丸くして見つめる。
『愚かな人間共め。いい加減、葬り去ってくれるっ!』
「喜べ、ブラック企業の会長さんよ。今から焼き鳥にしてやっから……」
「それなら、真っ黒になるぐらいには、こんがりと焼かなくてはな」
「任しとけ……。ウルトラ上手に、焼いてやらぁ……」
灰夢と満月は怪鳥を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。




