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❖ 不滅の花は月影に咲く ❖  作者: 大神 刄月
❀ 第壱部 第肆章 凍てつく心と梅雨の空 ❀
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第拾壱話【 無神経なお人好し 】

 言ノ葉と氷麗の溢れる涙が止まるまで、

 灰夢は、その場で優しく包み込んでいた。





「ほら、目が真っ赤になってんぞ……」


 その言葉を聞いた言ノ葉が、ムスッとした顔で灰夢を叩く。


「お兄ぢゃん、いじわるでず。ぶっごろでずよ……」

「……痛ぇよ」

「おにいざん、ぐうぎよんでぐだざい……」

「悪かったな。俺に空気を読む忌能力はねぇんだよ」


 灰夢が自分の羽織の袖で、二人の涙を優しく拭う。


「あの、お兄さん……」

「……ん?」

「お兄さんは、何者なんですか?」

「……俺か? 俺は、ただの不死身だ……」

「……ただの、不死身? でも、さっき……」

「あぁ、これだろ?」


 灰夢が横に落ちていた林檎飴を拾って、一瞬で手ごと凍らせた。


「私と、同じ力……」

「正確には、少し違う」

「同じ氷なのに、何が違うんですか?」


「俺の場合は使った分だけ、自分の体も一緒に凍る」

「……自分も?」

「これは、使えば反動で死ぬ代わりに、不可能を可能にする禁術なんだ」

「死ぬって、そんなの……」

「まぁ、俺の場合は不死身だから、治っちまうけどな」

「そう、なんですか……」

「だからまぁ、元を辿れば、ただの不死身ってだけだ」


「なんで、そんな力が……」

「俺が死ぬ為に、自分で身に付けてるからな」

「……死ぬ為?」

「正しくいえば、この不死の忌能力を解くためだ」

「どうして、そんなことを……」

「まぁ、不死身にしかわからねぇ悩みってのがあるんだよ」

「そう、なんですか……」


 灰夢の曖昧な回答に、氷麗が追求をやめる。


「あの、お兄ちゃん……」

「……どした?」

「さっきの人たち、どうしたんですか?」

「あんな目にあったのに、アイツらの心配か?」

「だって、あの人たちも……。最後、ごめんなさいって……」

「ったく……。お前、ほんとにお人好しだな」


「誰のせいだと思ってるんですか?」

「……えっ、原因がいるのか?」

「居ますよ。すっごく無神経で、お人好しな人が……」

「そいつやべぇよ。絶対トラブルメーカーだ……」


 そう告げる灰夢に、氷麗が哀れみの視線を送る。


「お兄さん、バカなんですか?」

「なんだよいきなり、失礼だな……」


 言ノ葉と氷麗は見つめ合って、小さく笑っていた。


「まぁ、お前はそういうと思ったから、別に殺しちゃいねぇよ」

「……そうなんですか?」

「お前に罪悪感を抱えて生きられても、俺が困るからな」


 灰夢が横に手をかざすと、大きな影狼が現れ、

 影狼が口を開くと、うなされている男たちがでてきた。


「……うわっ!?」

「いわゆる幻術ってやつだ。今はずっと、嫌な夢を見てる」

「なんか、本当に凄いですね。お兄ちゃん……」

「あの大きな狼の影は、それこそ一生トラウマですよ」

「コイツらは、それぐらいの罪を犯した。生きてるだけ感謝してくれ……」


 男たちを睨む灰夢を見て、言ノ葉が笑う。


「えへへっ。お兄ちゃんが、わたしたちの為に怒っているのです」

「そんなこと言うと、次は助けてやんねぇぞ……」

「いたたたたたたっ、|ほっへをふへららいれくらはいっ!《ほっぺをつねらないでください》」

「この口が、余計なことを言うからだ……」


 仲良くじゃれ合う二人を見て、氷麗はクスクスと笑っていた。


「ふふっ……」

「なぁ、氷麗……」

「……はい?」

「お前、笑った方が可愛いぞ?」

「う、うるさいです。ほっといてくださいっ! しばらかしますよ?」

「痛ってぇよ。すぐに暴力に走るの、よくないと思うんですが……」

「どうせ、傷がついても治るそうなんで、遠慮なく……」

「故意はアウトだろ。それを世の中では『 差別 』って言うんだよ」


 灰夢が手に持った林檎飴を、うなされている男たちの前に刺す。


「……何してるんですか? お兄ちゃん……」

「この方が、夢じゃなかったんだって分かるだろ?」


「うわぁ、最悪ですね。お兄さん……」

「言っただろ。俺は、いい大人じゃねぇんだよ」

「確かに、戦ってる時も悪役っぽかったです」

「それ、俺が戦ってる姿を見たやつが絶対に言うセリフだ」


 灰夢がそう答えると、二人の顔に笑顔が戻った。


「ほら、いつまでもここにいてもしょうがねぇ。帰んぞ……」

「そうですね。痛っ……」

「どうした? 言ノ葉……」

「さっき、ずっと下駄で走ってたから……」

「あぁ、足を痛めたのか……」


 灰夢が言ノ葉の傍にしゃがみこみ、足の状態を確認する。


「ごめんなさい、私の為に……」

「いえ、大丈夫です。お兄ちゃんに抱っこしてもらいますのでっ!」

「いや、どこが大丈夫なのか俺にはわからねぇんだが……」

「わたしが歩かなければ、大丈夫なのですっ!」


「言霊で治せよ。凍った手を治したんだろ?」

「ちょっと訳あって、今だけ使えなくなりましたっ!」

「そんな忌能力があってたまるかっ!」

「あるのですっ! 今だけ、そうなる設定なのですっ!」

「設定って、自分で言ってんじゃねぇか」


 言ノ葉がキラキラした瞳で、灰夢をじーっと見つめる。


「わかった、今日だけだぞ……」

「いいぃぃやったぁのですぅ~!!!」

「痛ってぇよ。お前、動けんじゃねぇか」


 喜びながら、言ノ葉が灰夢に勢いよく抱きついた。

 すると、それを見た氷麗が、小さな声でボソッと呟く。


「わ、私も……」

「……は?」

「私も襲われた時に、足を痛めちゃって……」

「おい、嘘だろ……」

「私も、歩けないなぁ〜って……」


 チラチラと、氷麗が灰夢を横目で見つめる。


「はぁ、わかったよ……」


 ──その瞬間、氷麗の瞳が光り輝いた。



「二人とも影にぶち込んで、早いとこ帰るとするか」



 ──そして、一瞬で瞳の光を失った。


「お兄ちゃん、空気を読んでくださいっ!」

「だから、俺に空気を読む忌能力はねぇんだっつのっ!!」

「お兄さん、最っ低ですっ!!」

「なんでだよっ! 俺が何か悪いことしたか?」

「せっかく可愛い女の子を、二人も抱けるチャンスなんですよ?」

「いや、自分で言うなよ……」


 すると、氷麗が突然立ち上がり、そそくさと歩き出すと、

 灰夢の背中におぶさるように、ギュッと後ろから抱きついた。


「あの、何してるんですか? 氷麗さん……」

「このまま背負って、歩いて帰ってください」

「なぁ、言ノ葉もいるんだぞ? 俺、凄い体勢にならねぇか? これ……」

「お兄さんなら、きっと大丈夫です……」

「いつから、そんなに信頼されるようになったんだよ」

「それは、乙女の秘密です」


「初めは凍るとかで、珈琲も受け取らなかった小娘はどこに行った?」

「あれは、私のもう一つの人格なので……」

「二重人格なんて初耳ですけど、お嬢さん……」

「乙女心は、複雑なんです」


「ほら、お兄ちゃんっ!」

「はぁ、わかったわかった。じっとしてろよ……」


 灰夢が、言ノ葉をお姫様抱っこしながら、

 影の手で、背中の氷麗を落ちないように支える。



 ──その時、灰夢の頭に声が響いた。



『聞こえておるか? ご主人……』

『九十九か、ちょうど良かった。今から……』

『わらわたちの事は、気にせんでもよいぞ……』

『おい、ちょっと待て。なんで、お前、急に空気読んでるんだよ』

『なかなかいい雰囲気じゃったからのぉ……』

『百歳越えの老骨と女子高生二人に、いい雰囲気も何もあるか』

『まぁまぁ、良いでは無いか。二人も喜んでおるのじゃし……』


『お前ら、今、どこにいるんだ?』

『会場近くで、子狐二人と、花火が打ち上がるのを待っておるぞ』

『……花火?』

『どこぞの企業のサプライズじゃと、さっき放送しておった』

『ほぅ、そんなのやるのか……』

『それを見てから、わらわたちも帰るとしよう』


『わかったよ。あと最後に、林檎飴を買ってきてくれ……』

『……林檎飴?』

『あぁ、赤い果物が割り箸に刺さってるやつだ。屋台のどっかに売ってる』

『うむ、承知したぞ……』


『……九十九』

『……なんじゃ?』

『……ありがとな』

『礼には及ばんよ、ご主人……』


 二人は離れながらも、密かに笑みを浮かべていた。


「お、お兄ちゃん。やっぱ降ろしてください」

「何だよ、急に……」

「いえ、なんだか……。双子ちゃんに対する、姉の威厳が……」

「安心しろ、()()()も元からねぇから……」

「あの、お兄ちゃん。何か一言多くありませんでしたか?」

「いや、気のせいだ……」


 じーっと見つめる言ノ葉から、灰夢が目を逸らす。

 そんな灰夢に、氷麗が背中から、ボソッと告げた。


「私は胸はありますが、威厳など無いので、最後までお願いします」

「お前は、もう少し遠慮というものを知った方がいいんじゃないか?」

「今まで他の人には、たくさん遠慮してきましたよ?」

「なら、俺にもしろよ……」

「お兄さんだけは、()()です」

「嬉しくねぇなぁ。その特別……」




 灰夢は呆れた顔で答えると、二人を抱えながら、

 なるべく人のいない裏道を、ゆっくりと歩いていった。

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