第壱話 【 角の生えた少女 】
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店という名の、自宅に帰宅した灰夢と仲間たち。
満月は真っ先に、壊れた入口綺麗に修復していた。
「さて、それじゃ俺は、ベアーズと外の復旧作業に取り掛かるかな」
「いつもありがとね、満月くん。またお願いしちゃうわ」
「別にいいですよ。能力向上も兼ねて、いろいろ試しているんで……」
すると、霊凪が時計を見てハッとする。
「あらやだ、もうこんな時間。お夕飯の支度しなくちゃっ!」
「結構長い間、戦ってたもんね」
「あなた、手伝ってくれる?」
「あぁ、わかった……」
梟月が微笑み、霊凪に頷く。
「んじゃ、僕は店番をしているよ」
「私、植物庭園の、お花と、妖精たち、見てくる」
「リリィの庭園。中身とか、ぶっ飛んでなきゃいいんだが……」
「多分、大丈夫。あそこには、微精霊達が、いるから……」
「そうか。なら、よかった……」
そういって、灰夢が胸を撫で下ろす。
「そんじゃ、俺は風呂でも入ってくるかな」
「そうじゃな。いい加減、疲れを取りたいところじゃ……」
「なら、先に風呂から直しに行くか」
「悪ぃな、満月。頼む……」
すると、肩に乗った鈴音が呼びかける。
「灰夢くんっ! 鈴音も入りたいっ!」
「安心しろ、ちゃんと女湯もある」
そして、今度は逆側の風花が呼びかけてくる。
「一緒は、ダメですか?」
「ダメですね」
凛々しい顔で、灰夢は即答した。
「言ノ葉、お前もこい……」
「……えっ!? お兄ちゃん。ついに、わたしまで……」
「おい、『 まで 』ってなんだ?」
「灰夢くんも、年頃だもんね」
「蒼月……。お前、俺の年齢いくつだと思ってんだ?」
「見た目の話だよ。僕らの中身は基準にならないからね」
「いや、むしろ中身に重点置けよ。見た目がおかしいんだから……」
すると、店の奥からゴゴゴゴッと黒いオーラが漂う。
「灰夢くん、わたしの娘に手を出すというのだね?」
「ださねぇから、落ち着け。梟月……」
「私たち両親の前で、その言葉は聞き捨てならないわよ?」
「別に変なことしねぇから、霊凪さんもサラッと不動明王呼ぶなよ」
灰夢の一言で、不動夫婦からとんでもない圧力が放たれる。
「言ノ葉には、子狐共を風呂に入れてもらおうと思っただけだ」
「なんだ、そういうことなのね」
「そうか、よかった……」
そう告げると、夫婦から圧力が消えた。
「当たり前のように、人間離れした技を披露するのやめてくれ」
「神獣を消し飛ばした灰夢くんが、何を言ってるのさ」
「いちいち圧力受けてたら、俺の寿命が縮むんだよ」
「君、寿命ないでしょ……」
灰夢と蒼月が、互いに呆れた顔でツッコミを入れていく。
「んじゃ、まぁそういう訳で、俺らで一風呂行ってくる」
「うむ、やっと疲れを取れるのぉ……」
「わらわも、お供いたすぞっ! ご主人っ!」
「来たいやつは付いてこい。ゆっくりと……あ?」
聞いたことの無い少女の声に、灰夢がピタッと立ち止まる。
そして、ゆっくり後ろを振り向くと、和服を身に纏う、
見たことの無い、角の生えた一人の幼女が立っていた。
((( ……えっ、誰? )))
その姿に、月影一同が揃って目を丸くする。
「灰夢くん、また女の子を拾ってきたの?」
「言い方を少し考えろよ。誰だ、お前……」
「──酷いぞ、ご主人っ!」
「……ご主人?」
「ご主人が、わらわの封印を解いてくれたのではないかっ!」
「……封印?」
幼女の訴えを聞いて、灰夢が必死に記憶を探る。
「……何の封印だ?」
「わらわの体を、清き水で洗い流してくれたでは無いかっ!」
「灰夢くん。女の子の体、水で洗ったの?」
「するわけねぇだろ、初対面だぞ……」
「狼の、お兄さん……えっちさん、は……めっ! です……」
「風花、頼むから俺の話を聞いてくれ……」
「灰夢もレベルが上がったな」
「上がるステータスがおかしいだろッ!!!」
降りかかる濡れ衣を払う為、灰夢が記憶を遡る。
すると、後ろにいた牙朧武が、灰夢の肩にポンッと手を置いた。
「灰夢よ。こやつはずっと傍におったぞ、お主の影の中にな」
「……は?」
「この姿を見るのは、吾輩も初めてじゃが……」
それを聞いて、今度は蒼月が笑い出す。
「あははっ。なるほど、そういう事かっ!」
「何だ、急に……」
「灰夢くん、刀出してごらん?」
「……刀? 雫落か?」
「そうそう、あれあれ……」
灰夢が、言われるがままに刀に呼びかける。
『生きる血潮を断ち切らん……
──傅けッ!!!』
……しかし、何も起こらなかった。
「……?」
「……灰夢くん、この子を見てごらん」
「……あ?」
灰夢が振り向くと、雫落が床に刺さっていた。
「なんだ、ちゃんとでてるじゃねぇか」
そういって、灰夢が妖刀を引き抜く。
「じゃ、俺は風呂に行ってくるわ」
「こらこら、現実逃避しないの……」
「お前らも俺も、何も見てない……いいな?」
『──よいわけなかろうっ!』
その声と共に、刀が少女の姿に戻った。
「なぁ、俺は悪夢でも見てるのか?」
「灰夢は、いつも寝ないじゃろ」
「いい加減、認めなって……」
「また、家族が増えたな。灰夢……」
「刀の擬人化とか冗談じゃねぇぞ。刀剣が乱舞しちまうだろ」
灰夢が頭を抑えながら、呆れた顔を見せる。
「置いていかないでおくれ、ご主人っ!」
「なら、影に入ってりゃいいだろ」
「やっと自由になれたんじゃ、よいではないかっ!」
「今までは、なれなかったってのか?」
「そうじゃ。ご主人が清き水で、わらわを磨いてくれるまでは……」
「清き水ってなんだ? お前のその姿だって、初めて見たんだぞ?」
すると、牙朧武が灰夢に疑惑を問いかけた。
「灰夢よ。お主、刀に黒炎を纏った時に、水をかけておらんかったか?」
「おい、嘘だろ? 清き水ってアルプ〇天然水のこと言ってんのか?」
「他に思い当たる節もなかろう……」
「おいおい、市販の水で擬人化する幼刀なんて聞いたこともねぇぞ」
「わらわは幼刀ではなく、妖刀じゃっ! そこ、テストに出るぞっ!」
「……なんのテストだよ」
「凄いのぉ、最近の人間の作るものは……」
「いや、水凄いんじゃなく、こいつがおかしいだけだろ」
「文句があるのなら、わらわを封印した者に言えっ!」
「確かに、それは一理あるな」
どこから疑えばいいのか、キリのない疑問が灰夢に浮かぶ。
「まぁいいか。言ノ葉、一人追加だ……」
「了解なのですっ! よろしくですっ! えっとぉ……」
「お前、名前なんて言うんだ?」
「わらわは妖鬼姫、東雲九十九と申す」
「そこは、雫落じゃねぇのか」
「それは、わらわの器になっとる刀の名前じゃ……」
灰夢は冷静に幼女を見つめ、その存在を確かめていた。
「妖鬼姫ってことは、鬼か?」
「うむっ! その通りじゃっ!」
「鬼ねぇ……」
それを聞いて、灰夢がじーっと九十九の角を見つめる。
すると、九十九が少し寂しそうな目で、灰夢を見つめ返した。
「そなたも、鬼は嫌いか?」
「いや、俺が昔会ったのとは、随分違うと思っただけだ……」
その言葉に、蒼月が反応する。
「灰夢くん、鬼に会ったことあるの?」
「昔にな。【 霊鬼 】っつぅらしいんだが、知ってるか?」
「あぁ、霊鬼ね。知ってるよ。ただ、あれは人間の怨念だけどね」
「……そうなのか」
「うん。【 鬼 】は単純にそういう種族だから、霊鬼とは全く別物だよ」
「……そうか」
九十九の心配が晴れない様子を見て、牙朧武がポンッと肩に手を置く。
「安心せい。そんなんで嫌うほど、我らの主は愚かではない」
「……ほんとうか?」
「まぁ、お前も封印されてたんだから、嫌われる理由はあるんだろうな」
「わらわは、使い手の精気を吸ってしまうのじゃよ」
「誰かさんの吸魂だの、体力吸収と同じだな」
それを聞いて、再び蒼月が反応する。
「効果は同じだけど、少しレベルが違うかな」
「……レベル?」
「……うん」
「鬼というのは昔から、種族としての数が少ないんだ。
それでも種族が生き残るほどの、強い生存力を持っている。
それ故に、多くの生き物から、その存在を恐れられ、
恐怖の対象とされる程に、強い生き物となりえている。
たった一人ですら、簡単に集落を滅ぼすと言われる。
確かに、風花ちゃんと鈴音ちゃんも妖狐だから、
大人になれば、普通の妖魔よりは、かなり強いと思う。
けど……吸魂することが本能じゃない。
でも、鬼の場合は、元々が生き物の精気を吸ったり、
他の生き物の血を飲んで、生き長らえる種族なんだよ。
だから、相手の体力や血を奪うという面に関しては、
多分、この子は、そこらの妖魔とは桁が違うと思うよ」
「それが、封印されていた理由ってことか?」
「それが全てでなくとも、強過ぎる力が理由なのは間違いないだろうね」
「吾輩もじゃが、生きておるだけで蝕むのも、また悩みもんじゃからな」
「わらわも、別にしたくてしとる訳じゃない。そういう体の仕組みじゃ……」
「そりゃ、他からしたら、居るだけで死ぬかもしれないのに変わりねぇからな」
「その結果が、器である刀ごと封印されて、そのまま置き去りじゃ……」
そう言いながら、九十九が暗い顔をして俯く。
「灰夢の周りには、そんなのばかりが集まってくるのぉ……」
「お前がトップバッターだろ。牙朧武……」
「ヌッハッハッハッ! これも、何かの巡り合わせじゃよ」
「こんなのがポンポンでてきたら、それこそ人間扱いされなくなりそうだ」
「何万もの妖魔を倒しておった時点で、その扱いには十分じゃろ」
「ったく、老骨に優しくねぇ毎日だな」
ため息をつくと、店の出口に向かって灰夢が歩きだす。
「とっとと風呂いくぞ。何をするにも、まずは風呂だ……」
「まぁ、それもそうじゃな」
そう告げる灰夢の後ろ姿を、九十九が寂しそうに見つめていた。
「あっ、満月……」
「……ん?」
「ついでに、狐二人と鬼一人のバスタオルと寝巻きを作ってくれ」
そう言い放った灰夢を見て、九十九の目が見開く。
「やれやれ、何でもかんでも頼りやがって……」
「最近、のび〇くんの気持ちが、少しわかった気がするよ」
「それ、ダメ人間になってる証拠じゃないか?」
「夢を叶えてくれんだぞ? ダメ人間にもなるだろ。普通に……」
「一応、子供向けのアニメなんだけどな。アレ……」
すると、不意に立ち止まった灰夢が、九十九の方に振り返る。
「何してんだ、お前も風呂入るんだろ?」
「……よ、よいのか? わらわも一緒で……」
「俺はどうせ死なねぇからな。今更、一人増えたところで変わんねぇよ」
「……そう、なのか?」
「ただ、俺以外の人間から、精気を吸ったりすんなよ?」
「……も、もちろんじゃっ!」
そういうと、灰夢は再び歩き出した。
笑顔で灰夢の後を追う、九十九の頬には、
潤んだ瞳から流れた、一筋の雫が落ちていた。




