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第二話

 エドガーと聖女の冷たい視線を受けて、ネッドはしょんぼりしていた。


「エドガーにやる気を出してもらうために、僕なりに一生懸命、ない知恵を絞って考えたのにな」


「ネッドさんは自分でおっしゃる通り、知恵がないんだから無理矢理絞らなくていいんですよ。お願いだから勝手なことをしないで、大人しくしていてください」


「ひどいよ。聖女様」

「さっきからずっと私のことをそう呼んでいますけど、聖女様じゃなくて名前で呼んでくださいって、いつも言ってますよね」


「わかったよ。アンゴールモアナ様」

「もう、それもですよ。長いからモアでいいって何度も言ってるのに。何故ネッドさんは、そんなに頑ななんですか? 私、こんな人と仕事仲間なんてもう耐えられません」


「だって、名前はすごく大事なんだよ。真名で祈らないと神様は願いを聞いてくれないんだからね。聖女ならそのことは知っているでしょ? それに愛称で呼ぶほど僕たち仲よくないよね。だから、アンゴールモアナ様がなんでそんなに怒ってるのかわからないんだけど……あっ、もしかして……そういうこと?」


「そういうことってなんですか? ああもう。エドガー様、何とか言ってくださいよ」

「ネッドの阿呆はどうやっても治らない。モアもあきらめろ」

「そんなー」


 エドガーとネッドはもともとは王都近くの小さな町で暮らしていた。


 幼いころから剣の腕がたったエドガーは、将来、幼馴染のネッドと冒険者になろうと思って野山を駆け回っていた。ところが、神託により勇者として選ばれてしまう。


 人より少し強いだけだと思っていたエドガーは、突然、教会の大司教と一緒に聖女であるモアが、その身を迎えに来たときはとても驚いた。


 勇者として人のために力を発揮することは問題ない。しかし、エドガーは人付き合いがとても苦手だった。

 そのため、物怖じしないネッドも自分の世話役として行動を共にすることを条件に出したのだ。

 大司教から了解を得たのでネッドも連れて向かったのは王都。


 その後協議の上、ネッドは司祭および勇者の補佐官として、エドガーのサポートと言う役割が与えられる。


 ネッドは町のシスターが産んだ私生児で、ずっと教会で育っていたから、神官としてある程度の知識も有していた。だから司祭の位を授かるのにもそれほど問題がなかったようだ。


 そのふたりと一緒にいるモアは聖女であり治癒魔法の使い手。


 古来より、武の勇者と癒しの聖女は、行動を共にすることが多かったらしい。

 それにネッドが加わって、エドガーが勇者と呼ばれるようになってから、三人はずっと一緒に仕事をこなしてきた。


 始めのうちはエドガーも勇者と言う誉れ高き称号に酔ってもいたし、魔物や魔族を討伐することによって、人々から感謝されたのでやりがいも感じていた。


 しかし、それも長くは続かない。


 ずっと国や教会の言う通りに働いていたエドガーたちであったが、ある日、領主にたいして不満を爆発させ、暴動を起こした領民の鎮圧に向かわされる。


 領兵が抑え込んでいたその現場は、飢えで苦しむ領民を尻目に、横暴な領主は豚のように肥えており、特権階級の者たちだけが潤っているようなところだった。武器を持ったガリガリの民の中には年端も行かない子供までもいて、それを目の当たりにしたエドガーは胸が痛んだ。


 それでも、勇者としてこの場を放棄ことはできない。どうしたらいいものかと悩んでいたところ、モアがどんな攻撃も阻む防壁魔法を見せつけることで、領民の敵対する気持ちを折り、なんとか暴動を治めることに成功する。


 この暴動で、貧富の差、そして領民たちの扱われ方に関して憤りを感じていたエドガーは、王都に戻ってから領主の在り方について国に苦言を呈した。


 しかし、上層部は調査をしてから公明正大な沙汰を下すと言いながらも、すぐに動く様子はなく、どこまで真剣に考えているか怪しいものだった。


 徐々にエドガーは自分のやっていることが正しいことなのかわからなくなっていく。


 国への不信感から、ネッドに手伝わせ、いろいろと書物を調べ、情報を集めた結果、魔物はともかくとして魔族と呼ばれた者たちについては、その居住地を逆にこの国こそが侵略をしているということも知ってしまう。


 魔族や悪い者たちと戦えと言うが、『勇者とは国の重鎮が自分たちの都合だけのために他者を圧制する、使い勝手のいい駒ではないのか』

 そう考えるようになったエドガー。


 すべてのやる気をなくし、勇者でなければ解決できない依頼さえもまったく手をつけなくなっていった。


 しかし、今時代、勇者はエドガーたったひとりしか選定されていない。


 勇者とは常人とはかけ離れた力を持ち一騎当千。隣国への抑止力としても必要である。


 その勇者が役目を放棄した。それどころか母国に対して疑念を持ち始めている。


 それに焦りを感じたのは国の上層部だ。

 やっと重い腰を上げ、領内で勇者を必要とするほどの乱を起こしたという罪で、件の領主を処罰した。


 同時にエドガーが心を許していると思われる、聖女のモアと補佐官のネッドに、『エドガーに職務を全うさせるためなら、どんな手段を使ってでもいいから、やる気をださせろ』と無理難題を押し付けたのだった。


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