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第一話

「おまえ俺のことをなんだと思っているんだ」


 そこは、とある町の礼拝堂。その祭壇の前に正座をさせられているのは、勇者の補佐官と言う肩書を持っているネッドという名の少年。


 そのネッドに向かって冒険者装備の少年と神官姿の少女が、侮蔑の表情を浮かべていた。


「エドガーのことは勇者様だと思っているけど?」


 責められている自覚がないのか、『それはわかっているよ?』と言いたげにネッドはきょとんと首を傾げる。


「ネッドさん。私も今度のやり方にはドン引きです。なぜ事前に相談してくれなかったんですか」

「だって、勇者って言えばハーレムが必要かなって思うじゃない? 英雄色を好むって言うし、歴代勇者も女の子侍らせていたって聞いたからも相談したら聖女様は反対したでしょ?」


 それを聞いた聖女と呼ばれた少女は、ネッドを思いっきり睨み付ける。


「当たり前じゃないですか。それを分かっていながら、なんで勝手なことしちゃうかな」 

「夜這いされる身にもなってみろ。刺客かと思って、もう少しで討ち取るところだったんだぞこっちは」


「だいたい女の子たちを集めるのにあんな依頼まで出しちゃって、経費で落ちなかったら全部ネッドさん持ちですから。上官への言い訳もちゃんと考えておいてくださいね。私は関係ないんですから肩はもちませんよ」


 ネッドと一緒に仕事をしている神官の少女は、自分が巻き込まれるのを防ぐためか、呆れながら、遠回しに『全責任はおまえにある』そう告げる。


「えー、それは困るよ」

「困っているのは俺の方だ! 俺がいま、冒険者の間でなんて言われているのか知ってるだろうが。まさかおまえ、俺のこと貶めるつもりでわざとやっているんじゃないだろうな」

「全然そんなつもりはなかったんだけど……僕はこれでも良かれと思って真面目にやっているのになぁ」

「真面目であれか!」


 エドガーの声に怒気がこもる。それもそのはずで、ネッドがやったことは彼が許せる範疇を越えていた。


「『色ボケ』でしたっけ。エドガー様も災難ですね」

「ますますやる気がなくなった」

「そんなあー」

「全部ネッドのせいだろうが!」


 何故ネッドが二人から責められているかと言うと、つい最近、王都近辺の冒険者ギルドにおいて、前代未聞の依頼が張り出されたことが原因だ。


『勇者のハーレム要員、急募。勇者の嫁になりたい方歓迎。報酬は歩合制になりますが、バックアップは万全です』という、ほぼ魔物討伐の依頼しかない中に、その異色ともいえる仕事内容。


 そんな馬鹿げた依頼で、失笑されたのは勇者という称号を持つエドガーであって、依頼を出した当のネッドは痛くもかゆくもない。


 エドガーがそれを知った時には、すでに応募してきた何人もの女性が集められていたし、冒険者以外でも町中で噂をされていて、やめさせることも、取り下げることもすべて手遅れの状態。


 あまりの恥ずかしさに、その後エドガーは、誰にも会わないように、宿屋に引きこもるしかなかった。



 だと言うのにこのネッド、エドガーの気持ちを考えもせず、新たな行動に出た。


「この中から好きな子を選んで!」


 集まった女の子たちを宿に連れてきて、どや顔でそう言ったのだ。

 そんなネッドに対してエドガーは自分の殺意を必死に抑え込んだ。しかし、どうしても怒りが収まらずその場でネッドを張り倒してしまう。それでもなんとか自制してその一発だけで我慢したのだが……。


 その場にいた女の子たちの中には、それだけで怯えてしまった者がいて、噂に尾ひれがついたせいで、エドガーにはDV疑惑まで付きまとう始末。


 そこまでされても、エドガーはネッドと縁を切れずにいた。


 なぜなら幼馴染であったネッドに、勇者である自分のサポート役をさせているのはエドガー自身だったからだ。

 それに、ネッドの希望も聞かずに、それを押し付けた後ろめたさもある。


 ネッドにしてみればエドガーが照れているだけだと思っているので、決して嫌がらせではない。とはいえ、やって良いことと、悪いことはあるだろう。


 その後もネッドはあり得ない行動を起こした。彼はこともあろうに、エドガーには相談どころか、何も告げさえもせず、勇者の嫁候補として応募してきた女性のひとりに、エドガーの部屋の鍵を渡していたのだ。


 選ばれた女性がもともと腕の立つ冒険者でもあり、気配を消して部屋に侵入したため、エドガーは、自分が狙われた意味を勘違いしてしまう。


 そのせいで部屋に忍び込んできた女性に向かって、刃を向けてしまった。


 その女性、コート以外は下着しかつけておらず、準備万端、半裸の状態で挑んだらしい。


 部屋に入った途端、はらりとコートを脱ぎ去った女性。そのあられもない姿を目にしたエドガーは驚愕しながらも、すんでのところで剣を止めた。


 女性に怪我はなかったものの、一歩間違えば大惨事を引き起こすところだったのは言うまでもない。


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