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【短編】異能『仲間召喚』が使えなさすぎて退学になった俺の前世が世界を救った勇者だったらしい件について〜最強パーティーによる世界救済RTA〜

作者: 弥生零

「異能名『仲間召喚(サモン・パーティー)』……効果はその名の通り"仲間を呼ぶ"って……安直すぎないか?」

「……」


 ステータスプレートを眺めながらの男性の言葉に、俺は何とも言えない笑みを浮かべるしかなかった。


 異能騎士養成学校というそのままの名前すぎる学校の入学試験を、見事補欠合格で突破した俺。

 そんな俺は威風堂々と学園の門を叩いた。何せ俺は、学園唯一の補欠合格者だ。唯一無二の存在である俺が、堂々と校内を闊歩するのは当然の理屈だろう。


「な、なんて堂々とした歩みなんだ」

「恐らくあれだろ。筆記試験実技試験両方満点の主席……」

「確かに『俺こそが唯一無二だ』って風格をしている……そうか、あれが主席……」

「でもイケメンじゃねえな」

「だな。普通の顔だな」

「普通主席合格なら、普通はイケメンだと思うよな」

「分かるわ。てか、イケメンじゃない主席合格なら大したことない気がしてきたな」

「そだな。なんか普通に勝てる気がするわ」


 どうやら今年の主席合格者はイケメンじゃないらしい。イケメンじゃないという理由だけで、筆記実技満点という実績があろうと侮られる。……成る程、おそらくここは修羅の学校だ。

 そんな事を考えながら俺は保健室にたどり着き、異能検査と呼ばれる異能を調べる検査を受けた。

 そして、冒頭の部分に戻るのである。

 

 

「まあ使い道がない訳ではないが……召喚魔法で充分としか言いようがない能力だな」

「……ですよね」

「勿論極端な話、他にも魔法で代用出来るような異能は存在する。例えば先ほど異能検査を終えた主席の少年の異能である『雷撃』なんかはほぼ魔法で代用可能だからな」


 成る程、と俺は男性に尊敬の念を抱いた。


「───が、あくまでも代用可能というだけであって、魔法が異能の上位互換に位置するという訳ではない。知っての通り、魔力が切れたら使えない魔法と違って異能にはそういった制限がないからだ。加えて、異能であるが故に操作の自由度なんかは魔法より高い。むしろ魔法の方が下位互換に位置すると言えるだろう」


 尊敬の念が消滅した。


「その点……君の異能は召喚出来るものが『仲間』と非常に限定的すぎる。恐らく、冒険者パーティーを組んだ時なんかはそのパーティーの面々を呼び出せるのだろう。もしかすると友達なんかも、効果の範囲内に含まれるかもしれない。けれど……どっちにしろ、そんなものは召喚魔法で充分なんだ。端的に言って、自由度が無い」

「……」

「先にも言ったが、使い道が無い訳ではない。索敵に送り出した仲間を安全に手元に召喚出来たりと使い道自体はある……だが、そんなものは召喚魔法で充分なんだ」

「……」

「他にもそうだな……逆に君が魔王軍幹部の城辺りに単騎で突撃し、油断している相手に対して仲間を召喚して不意をつくなんて使い道もあるだろう。……だが、そんなものは召喚魔法で充分なんだ」


 いやどんだけ召喚魔法が上位互換ってのを教えたいんだよ。もう良いよわかったよ。やめろよ。


「後は一人で食事を取るのが寂しい時、友をいつでもどこでも呼び出せるから孤独から抜け出すなんて使い道もありそうだな。……だが、そんなものは召喚魔法で充分なんだ」


 どんだけ無駄な使い道? てかよくこんなにもたくさんの使い道が思いつくな?


「この異能は仲間以外には効果が出ない。つまり、仲間がいない場合には使えない。つまり、孤高を歩む者(ぼっち)だとなんの意味もないんだ。……だがなんと、召喚魔法はぼっちでも使える」


 トドメ刺すんじゃねえよ。てかなんでドヤ顔してるんだよ。


「決まりだな。お前のやるべきことは召喚魔法を極めることだ」


 そこは仲間作りを推奨しろよ。


 そんな感じで異能検査を終えた俺は、一度家に戻った。今日の夜からは学校の寮で暮らさないといけない。そう考えると、寂しさが込み上げてくるな。


「母さん。俺の異能『仲間召喚(サモン・パーティー)』だった」

「アンタに仲間なんて出来やしないでしょ。大人しく召喚魔法を覚えなさい」

「ぶっ殺すぞクソババア」


 母親との感動の別れを終えた俺は荷物を持って寮に行き、そこで相部屋となった住人との挨拶を交わす。


「僕がユーリだ。一応主席合格らしい。よろしく頼む」

「爆ぜろ」

「は?」

「すまん間違えた。俺の名前は『ああああ』だ、よろしく」

「ふざけているのかい?」

「間違えた。俺の名前はイケメンだ。よろしく頼む」

「随分とユニークな名前なんだね。よろしく、イケメン」

「イケメンが俺にイケメンとか嫌味言ってんじゃねえよぶっ殺すぞ」

「理不尽すぎない?」


 主席合格者様は俺から見ても普通にイケメンだった。これが普通の顔だとすると、この学園の顔面偏差値はおそろしく高いということになる。

 なんてこった、可愛い女の子がたくさんいるに違いない。


 そして翌日。俺は主席合格者様と一緒に入学式の会場に向かっていた。


「おい見ろよ」

「ああ。イケメンだな」

「イケメンだ。隣にいるのは確か……」

「主席合格者だ……主席合格者とイケメンが一緒に行動してるなんて凄いな」

「ああ、凄い光景だ」

「こんな残酷なまでに恐ろしい光景は初めて見たぜ……」


 全神経を集中させて周囲をざっと見渡すが、顔面偏差値は別に特別高くはなかった。

 なんだよ、期待して損したわ。

 そんな風に嘆息していると、不意に肩を主席合格者様から叩かれる。


「君は有名人なのかい? 先ほどからイケメンイケメンと連呼されているんだが……ていうか、本当に本名だったんだね」


 改めてよろしくイケメンと言ってきた主席合格者様を、俺はとりあえず本能のままにボコボコにした。


「流石主席合格者……イケメンに対しても容赦が無いぜ」

「仕方ねえよ。顔面偏差値は生まれ持った才能が全てを決める残酷な世界だからな。過酷な戦いを強いられるのは当然だ」

「だな。だからこそ、普通の顔で主席合格を取ったんだろうな……」

「ああ。俺はよく理解したぜ。普通の顔を持つ者こそが、主席合格に相応しいってな」


 そうして入学式が始まった。

 顔面を腫らし服に泥を付けた主席合格者様が壇上へと上がり、それを見た生徒達が何事かとざわめく。


「な、なんであの人あんなにボロボロなの?」

「私見たわ。普通の顔の人がボコボコにしてる光景を」


「てか普通の顔の奴主席合格じゃなかったんだな。普通の顔で主席合格じゃないならそれ普通の奴じゃん」

「待て、普通なのに主席合格者をボコボコにするのは強くないか?」


「主席合格者をボコボコにするって普通の顔の奴強くね?」

「分かる。実技満点となると、街を焼き払うドラゴンの首を手刀で切り落とす試験も突破してる事になるからな。そんな主席合格者をボコボコにするなんて、ただ者じゃない。俺は普通に辞退した試験だし」


「なあ。なんで普通の顔の奴は名前が売れてないんだ?」

「おそらく、真の実力を隠してるんじゃ無いか?」

「なんで?」

「あれだろ。真の力を隠して無双する的なやつだろ」

「マジか。っべーわ普通の顔の奴」


 入学式は滞りなく終わった。

 そして翌日、とうとう授業が始まる。先生にステータスプレートを見せる番が回ってきたので、俺は先生にステータスプレートを手渡した。


「『仲間召喚(サモン・パーティー)』……? うーん訳が分からないわ。貴方は授業受けなくていいから、端っこにいなさい」


 端っこで砂場を作りながら、俺は時間を潰すことにした。


「なあ、なんで普通の顔の奴は端っこで砂場作ってんだ?」

「バッカお前そんなの決まってんだろ。授業を受ける必要がないからだよ」

「なんで?」

「そりゃあお前。強すぎるからだろ。噂によるとアイツ、魔王軍を倒した事があるらしいぜ」

「そんなバケモンが授業受けたら俺たち死ぬやんけ」


 その後も、教師陣による俺への不当な扱いは続く。


「……いや、これは……えっと……何を教えるんだ?」

「貴様の異能は使い道があるが授業でやるような内容ではない」

「召喚魔法で良いからなあ……」

「帰れ」


 それから暫くして、あまりにも酷すぎる異能の無能具合により、俺は追放をくらった。


「いや流石に険しすぎる。これだとお主にとって学費がもったいないじゃろう。元々お主補欠合格じゃし、退学で」


 こうなったのも間違いなく、俺の異能が使えないせいだ。許せない。俺はこの異能に復讐する事を誓った。


「アイツ学校辞めるらしいぜ」

「学校程度で収まる器じゃなかった……って事だな」


「イケメンくん……僕は、いずれ君に届くようこの身を鍛えるよ……。ちゃんと君が僕を見てくれるようになれるくらい。強く」


 退学になったし、家に帰ろうかと思ったが、多分お母さんに怒られると思って隣町の定食屋で飯を食うことにした。


「ぼっち飯?」

「ぼっち飯だ」

「ぼっち飯か……」

「なんてこった……」


 やたらぼっちぼっち言われるのがムカついたので、俺は『仲間召喚(サモン・パーティー)』で友達を呼び出すことにする。

 見てろよお前ら俺はぼっちじゃないって証明してやるからな。






 ───瞬間、空間が震撼する。

 世界の許容量を超えたが故に発生したその力の渦に、しかし俺は恐怖ではなく懐かしいという感情を抱いていた。

 やがて俺の視界を凄まじい光が埋め尽くし、そして。


「……久しぶりだな勇者」

「また会える日が来るとは……嬉しく思います」

「ようやくか。待ちくたびれたぜ」

「いっえーい! また勇者と冒険だー!」


 そう言って現れた四人の男女を見て、俺は思った事をそのまま口にする。


「誰やねん」


 ◆◆◆


 恐ろしい事が判明した。

 なんと彼らはかつて世界を救った勇者の仲間達で、しかも俺は前世で彼らをまとめた勇者だったらしい。


 恐ろしい。こんなに恐ろしい事がこの世界にあるのかと、俺は心の底から思った。


 まさか俺にとって"友達"に該当するらしい人物達が───妄想癖なんてものを拗らせているとは。


「いや妄想じゃねえよ」

「そうだよー! 全部本当なんだってば勇者ー!」


 不満げに鼻を鳴らす筋肉ムキムキ大男のガレスと、バンバンと机を叩くロリッ子魔法使いのルリ。


「……記憶が引き継がれていないか」

「まあ私達と違って、彼は一度死んでますからね……」


 顎に手を添えて何やら思考を始めた弓を背負った美男子のミカと、悲しげに目を伏せ十字架を握る巨乳シスターのカレン。

 なんなんだこいつら、キャラが濃すぎる。どう考えても隣町にある定食屋で飯を食う人間の風貌ではない。


 この人達とは他人のふりをしよう。


 自分で呼び出しておいてなんだが、俺は彼らと友達であると認識されるくらいならぼっちで定食を食べる事を選ぶ。

 何より妄想を語るやばい方々と会話をするのは、あまりよろしくないと聞くし。


「妄想じゃないですよ……」


 俺が勇者? そんな訳でないだろ。異能が『仲間召喚(サモン・パーティー)』だぞ。こんな異能でどんな世界が救えるんだよ。俺に救えるのは便所飯になりそうな奴の孤独な世界だけだよ。


「何を言ってんだ! いつでもどこでも仲間が駆けつける事の出来る、勇者だけの特別な力だぞ! 邪龍軍団との決戦の時、絆を繋いだ連中が千人も駆けつけて、俺達の道を切り開いてくれたんだ! 思い出してくれ!」


 どんな場面だよ。てか勇者友達多いなオイ。嫌味か。嫌味なのか。


「ねえねえ勇者! 冒険行こうよ冒険! 僕達は邪龍帝ウロボロスから世界を救ったんだからさ! この平和になった世の中を見たって、バチは当たらないはずだよ! 僕は今度こそ勇者と、一緒に楽しく見て回りたいんだ!」


 平和? バカを言うな、と俺はルリの言葉を鼻で笑う。

 邪龍帝ウロボロスとやらが何なのかは知らんが、確かにこの世界は一度巨大なドラゴンによって蹂躙されていて、それを勇者一行が討伐して一時的な平和がもたらされたというのも事実。


 けど、そんなものは一時的なものにしか過ぎなかった。

 魔王軍なんて連中が現れて、一気に人類は再び滅亡の危機に陥ったんだ。そんな魔王軍に対抗すべく編成されたのが異能騎士団とかいう勇者の真似事みたいな連中。

 ちなみに高給かつ福利厚生が充実した職種であり、ほどほどに弱ければそこまで危険な地区には回されず残業も皆無という隠れうまあじ職業だったりする。まあ学校退学になったから俺は適当に実家で畑を耕すしかないんだが。


「……魔王軍?」

「人類の、危機……」


 魔王軍という言葉に、険しい表情を浮かべるミカとカレン。

 まあ分かったら、とっとと帰れ。平和な世界を楽しく冒険なんて、そんなの今時冒険者でも言わないぞ。


「そっか……勇者が僕達との冒険を拒否しているのは、魔王軍と戦う為だったんだね……」


 お前は何を言っている。


「成る程な。やっぱお前は変わんねえな」


 お前も何を言っている。


「……魔王から人類を救う、か。フッ、俺達らしいと言えばらしいがな」

「フフフ。そうですね」


 なんだ、なんだこの空気は。

 ここにいたらマズイ気がしてきた。俺は残りの飯をかきこみ、おばちゃんに銅貨を払って店を後にする。


「早速行くんだね!」

「どこまでも付いていくぜ!」

「……もう一度、世界を救うか」

「頑張りましょう!」


 付いてくんな!!


 ◆◆◆


 俺は全速力で駆け抜けた。暫くしてから後ろを振り向く……よし、いない。


 昔から俺は足が速かった。だから自称勇者のパーティーごときが俺に追いつけないのは当然であり、やっぱアイツら妄想の世界の住人なんだなと理解した。


 しかしここはどこなんだろうか、と俺は首を傾げる。

 まあどこでも良いか。学校退学になったから、家に帰るの気まずいし。


 そんな風に思っていると少し遠くの方で大爆発が起こって、空から鎧を纏ったおっさんが降ってきた。


「ぐっ……」


 満身創痍、といった言葉がふさわしい様子のおっさんは震えながら立ち上がり、折れかけの剣を構える。


「くっ! 魔王軍幹部だと……!」

「フン。騎士団長、人類最強の戦士か。それなりに下っ端が手傷を負わされたと聞いたが……私が出るまでもなかったか」


 魔王軍幹部ってマジかよとっとと逃げよう。

 そう思った俺は慎重に後退しようとして、盛大に砂利を踏んづけて音を鳴らしてしまう。


「なっ!?」

「一般人か、フム。ちょうどいい。腹が空いて魂が欲しかったところだ。喰わせてもらうとしよう」

「待っ───」


 こちらに向かって突撃してくる魔王軍幹部を名乗る顔色の悪い男と、慌てたようにそれを追うおっさん。

 魔王軍幹部が腕を振り下ろしてきたので、とりあえず俺はそれを右にヒョイっと躱す。


「なに……?」


 顔をしかめる魔王軍幹部。気のせいか? などと呟いた彼が再び腕を振り下ろしてきたので、俺はそれをバックステップで回避した。


「……」


 押し黙った魔王軍幹部が腕をブンブンと振り回す。ブンブンと振り回された腕は大地を砕き、更にはブンブンが加速する事で次第にその腕はソニックムーブを生み、周囲を次々と破壊し世界を蹂躙していく。

 だがそれを、俺はブレイクダンスのような軌道で回避する。頭を地面に付けてクルクル回るやつである。ちなみにブレイクダンスをしている人にこれを言うと怒られるのでやめておけ、とかおじいちゃんが言っていた。


「なんだお前は!!」


 魔王軍幹部が激昂したような声をあげ、ブンブンをやめる。向こうがブンブンをやめた以上、俺もブレイクダンスをやめなければならない。ダンスバトルはここに終結した。

 

「今まで多くの人間を見てきたが、お前のような奴は初めてだ! 何者だ、何者なんだお前は!!」

「───決まってんだろ、勇者様だよ。魔王軍幹部さんよぉおおおお!!!」

「なっ……!?」


 魔王軍幹部の疑問に答えたのは俺じゃなかった。

 筋肉ムキムキガレスが頭上からプレスを魔王軍幹部にかけて、魔王軍幹部を叩き潰す。震撼し、蜘蛛の巣のように亀裂の走る大地が、そのプレスの威力を物語っていた。


「何をそんなに急いでいるのかと思ったけど、なるほど! 流石勇者! もう魔王軍幹部を見つけていたんだね!」


 ロリッ子魔法少女ルリが杖を振るう。火水雷風土の五属性の魔法が混ざり合い、虹色の閃光となって空から魔王軍幹部めがけて殺到した。

 それを確認したガレスは魔王軍幹部からギリギリのタイミングで飛び退いて、魔王軍幹部だけに魔法が直撃する。


「……異能を使って欲しかったな。俺達は仲間だ」

「でも、勇者さんらしいです!」

「……確かに。だからこそ最後の決戦の時、彼らは勝手に勇者の異能を繋いで現れたんだからな」


 音を置き去りにする速度で美男子ミカが弓を放ち、巨乳は特に何もしなかった。

 ここに、蹂躙劇は始まったのだ。


 ◆◆◆


 魔王軍幹部の討伐。それは人類史始まって以来の快挙らしく、俺達は国王に呼び出される事になった。


「うむ。よくきたな」


 国王は言う。是非ともこの国を救って欲しいと。さすれば何でも望みを叶えてやると。そう言った国王の言葉に対して、しかし俺は拒否を示した。


「……何故?」


 国王の声のトーンが変わった。何か癇に障ったのかもしれない。どうでも良いけど。

 何でも出来るんならそのアンタが魔王軍ぶっ飛ばせよ、出来るならな。

 そう言った俺の言葉に国王は顔を伏せたかと思うと、やがて顔を上げて空間に響くような大きさで哄笑をあげた。


「なるほど! 儂に魔王軍を倒せか! なるほど、それは不可能じゃな! なにせ───儂がその魔王なのじゃから」


 直後、世界が切り替わる感覚と共に俺の視界が変化する。

 煌びやかで神々しく輝いていた玉座の間は、暗く禍々しい神殿へと変化していた。俺の背後にいた筈の仲間達は消えていて、この場には俺と国王しかいなかった。


「ふん。幹部の目を通して、貴様達の戦い方は見ていた。確かに奇怪な動きをしていたが、しかし貴様自身には何の力もない。仲間達と切り離してしまえば、貴様には何も出来ないだろう」


 国王の顔の皮膚が、ベリベリと剥がれていく。


「ここは完全に現世と隔絶された世界。異世界と言っても良い。仮に貴様が召喚魔法を使えたとしても、仲間は呼び出せん。何故ならアレは世界を超える事は不可能だからだ」


 そして、俺の目の前には魔王が立っていた。


「加えて、お前の事は少しばかり知っているぞ? あまりにも異能が貧弱すぎて一週間で異能騎士学校退学をくらった前代未聞の学生騎士だとな」


 口の端を吊り上げ、魔王は嗤う。


「まさか私の正体を見抜くとは思っていなかったが……まあ良い。お前達は順番に、念入りに、念入りに殺しておく。一人ずつ確実にな!!」


 そうして、魔王が手を上げ───そこに太陽を顕現させる。


「喰らうが良い! 千五百万度の一撃を!」


 その太陽が俺に向かって投げ出され───神々しい光と共に、緑色のオーロラのようなものが眼前に展開される。

 それは千五百万度の一撃とやらを完全に防ぎ、それを見た魔王が間抜け面を晒した。


「……流石勇者だ。全て計算通りだったんだな」

「そっか! 確かにそうだよね! 魔王を1日でぶっ飛ばして世界を救っちゃえば、みんなで世界を見て回れるもんね!」

「アイツらが自分勝手に駆けつける事が出来たんだ、なら勇者の仲間である俺達に出来ねえ道理はねえよな!」

「ふふふ。素敵です勇者さん」


 見れば、いつのまにか自称勇者の仲間達がいた。


「……ここでなら本気で暴れられる」

「うんうん! やれるよ僕達!」

「ああ! 周囲の被害を気にする必要がねえからな!」

「ふふふ。やりましょうか」


 四人が何かを解放させた。

 そしてそんな四人を見た魔王が目を大きく見開く。


「な、なんだそれは!? レベル9999999!!? ちょっと待て! どういうことだ!?」

「……レベルってなんだ?」

「さあ?」

「どうでも良い! とっととぶっ飛ばそうぜ!」

「頑張りましょー」


 それは、神話の戦いだった。

 魔王が涙目で太陽を次々と召喚し、それらを自称勇者一行が「軽い」と真正面から吹っ飛ばす。


「……邪龍帝ウロボロスよりは弱いな」

「だね!」


 邪龍帝ウロボロス何者だよ。

 そんな風に突っ込んでいると、やがて魔王は崩れ落ちた。


「……バカ、な。なんだ、これは……こんなの、あり得……ない」


 全くもってその通りである。


 ◆◆◆


 こうして、世界に平和は取り戻された。

 突然国王と魔王が同時にいなくなり、世界は当然混乱した。魔王軍がいなくなったことで異能騎士団は解散。当然のように異能騎士学校は潰れ、今ではダンススクールになっているらしい。


「……」


 そんな世界を自称勇者様一行と旅する事になった俺は、天を見上げながらふと思う。


 ───俺ら全員無職やん。


 とっととこいつらとサヨナラして就職先を探そう、と俺は密かに決意した。


読んでくださってありがとうございました。


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