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終局 スナップショット ~ ミゼット

「おらぁ、さっさと始末しろ。次が来るぞ!」


 隊長さんの大声が響き渡る。

 その数、50ぐらいの騎兵さんたちが駆け巡っていてわたしたちの陣地は大混乱に陥っていた。

 みんな、槍やマスケットでがんばって応戦しているけれど分は悪そう。なによりこんな状態では大砲を撃つことができない。

 わたしはちらりと坂道の方を顔を向ける。新たに坂を登ってくる騎兵さんたちが見えた。数は400か500ぐらい。

 

「こりゃ、だめだねぇ」


 わたしのつぶやきに隊長さんも振り向いて同意した。


「ふう。駄目ですね。どうしますか?」


 お嬢様からは駄目だと判断したらすぐに逃げろといわれていた。わたしはすぐさま、逃げることにした。


「撤退だよぉ~。ヴォーゼルのおじいちゃんのところまで逃げるんだよぉ~」

「了解」


 隊長さんは、マスケットで近くを走る騎兵さんを殴り飛ばすと、みんなに命令をする。


「おおい! 撤収だあ~。 後方の防御陣まで逃げるぞ~。 ぐずぐずすんなよ。撤収だあ~!!」

「弾薬は忘れずに運んで逃げてねぇ。大砲はそのままでいよぉ~」


 わたしも注意事項を叫んで、逃げようとしたら、体がふわりと浮き上がった。足がじたばたとむなしく宙を蹴る。


「ふぇ?」


 気がつくと隊長さんに小脇に抱えられていた。


「走るの遅そうなので俺が運びますよ」といいながら隊長さんがにっこりと笑う。


 え……、えっと……


「い、いいよぉ。そんなことしなくてもちゃんと走って逃げれるよぉ~」

「いいから、いいから。あんまししゃべると舌噛みますよ」

「そんなこっ、アチィ……ヒタハンダァ……」


 口を両手で押さえて、涙目でつぶやく。

 わたしは、というか、わたしをかかえた隊長さんは一目散に陣地の後ろへ後ろへと走る。砲列の後方には砲弾や火薬を積んだ弾薬車を置いていたが、今は、それを曳いて逃げる砲兵さんたちでごった返していた。


「ほら、いそげいそげ。しっかり引っ張れ。根性だしやがれ!

槍持ちは防衛線を作って騎兵を足止めしろ」


 隊長さんはてきぱきと指示をする。一方、わたしは、


「がんばれ。いそげいそげ」


 舌が痛くて、あまり大きな声が出せなかった。


 陣地の後ろの下り坂のところには方形陣を組んだ歩兵があらかじめ配置されていた。陣地を取られた時に砲兵たちが逃げ込むための用意だ。そこまで行くと歩兵さんたちがわたしたちを中へと引き入れてくれた。


「おお。来たな。嬢ちゃん。怪我は無いか?」


 方陣の中の四角空間の中心にいた羊のようなお髭のおじいちゃんこと、ヴォーゼル大尉がやさしく迎え入れてくれた。


「大丈夫です」と答えると、「おお、そうか。よくがんばったな」と頭をなでてくれた。えへへへ……


「大体、退避できました」と隊長さん。

「うむ。ようし。前列、膝つけ! 銃剣構え。騎兵を近寄らせるな。二列、三列はマスケットを撃て。目標は各自判断。撃ち続けろ」


 ヴォーゼルのおじいちゃんが歩兵さんたちに指示を飛ばす。

 最前列の歩兵さんは膝をついて近づこうとする騎兵さんを銃剣で牽制する。その一方で二列、三列目の歩兵さんがマスケットを撃ちまくる四方のどっちを向いても同じような感じで騎兵さんの付け入る隙はない。騎兵さんに囲まれているのにすごく安心感があった。


「4、500の騎兵相手なら何時間でも持ちこたえて見せるが、次はどうするんだね?」


 ヴォーゼルのおじいちゃんが聞いてきた。隊長さんもわたしをじっと見ている。なんか、照れる。


「えっと……、暫く様子見だよ。

このまま、敵の増援が来ないようなら騎兵さんたちが疲弊するのを待って押し返すンだよ。

増援が来るならゆっくり後退して本隊に合流だよぉ」

「うむ。了解した。

ならば砲兵の者たちは暫く休んでくれ。後は儂ら歩兵に任せてくれ」


 ヴォーゼルのおじいちゃんはそう言うと歩兵の指揮に戻っていった。

 わたしと隊長さんは地面に座り込んだまま後に残される。

 隊長さんが親指を立てて、ニカッと笑った

 わたしは……

 わたしもニヘラと笑い返した。



2020/08/15 初稿


次話予定 「終局 スナップショット ~ カルディナ」


【おまけ】


ミゼット「あーー、なんだろう。騎兵さんたちが逃げてくよぉ」

隊長「おっ、本当だ。援軍が来て交替しているわけでもなさそうし、急にどうしたんでしょうね」

ミゼット「う~ん、良くわかんないねぇ」

隊長「で、どうします?」

ミゼット「そだねぇ。じりじり前進するよぉ。陣地を放棄するって言うならありがたく取り返すよぉ」

隊長「了解。ほんじゃあ、ヴォーゼル大尉に伝えますね」

ミゼット「あー!」

隊長「うん?なにかありますか?」

ミゼット「えっとね……うーん、うーん、えっと……」

隊長「うん? 深刻な顔してなにを悩んでるんです?」

ミゼット「えっとねぇ、隊長さん、名前なんていうの?」

隊長「はい?」

ミゼット「だから隊長さん、名前なんて言うの?」

隊長「ああ、いいっすよ。名前なんて。ただ隊長でも、おい、お前でも好きに呼んでくれれば」

ミゼット「そー言うことじゃなくてぇ、名前が知りたいのぉ~だよぅ」

隊長「なんだか良くわからないですが、ポナー。ポナー・グルーヴって言います」

ミゼット「そ、そうなんだぁ。ポナー……グルーヴって言うんだ」

隊長「です。あの大丈夫です? なんかポヤンとしてますが。熱でもあります?」

ミゼット「そっかぁ、ポナーって言うのねぇ」

隊長「……えっと、本当に大丈夫ですかい?」

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