犠牲
俺達は学校の側を見張っていたがこれと言って手掛かりになりそうなものはなかった。ただ、学校が閉鎖されその周りを異常に兵士が見回りしていたことぐらいだ。昼を過ぎた頃に俺達は家に帰った。みんなは中庭の道場で修行してるらしい。
ホース「何か収穫はあったか?」的に向かって矢を撃ちながらホースが質問をした。
カイロ「学校が閉鎖されていたことぐらいだ。」
疲れた様子で服を脱ぎ化粧を落としながら答える。
ホース「そうか……」
カイロ「そういやイリスさんが見当たらねぇが。」
ホース「アラマイヤさんの扱きがキツくて寝込んでるよ。」
カイロ「あの人体力ねぇからなぁ……」
プルテニス「お袋〜腹減った〜」
リン「はいはい、昼ご飯ここに置いとくよ。」
カイロ「お!ありがとうございます!」
プルテニス「ホースも食おうや。」
ホース「僕達はもう食べたから。」
俺とカイロは回転テーブルに並べられた料理に手を伸ばしガツガツと食い始める。
カイロ「ウメェな!この料理なんてんだ?」
プルテニス「飲み込んでから喋れよ。そりゃ小籠包っつーんだ。」
カイロ「しょーろんぽーか。変な名前だな。」
プルテニス「ていうかお前、本当に遠慮ねぇな。」
カイロ「うるせぇ。腹減ってんだよ。」
プルテニス「ちょっと食い過ぎだぞ。」と、テーブルを回転させてカイロの側にあった料理を自分の方に近づける。
カイロ「汚ねぇぞ!テメェ!」
ワイワイと言い合いしているときに扉をノックする音が聞こえた。
お袋が出ていくと何かの配達物が届いたらしい。小包がお袋の手の中にあった。
リン「え〜と……カイロさんに宛てて……」
一同「何〜!!?」
カイロ「さっきの配達員だ!」
キュルキュロス「追え、追え!!」
全員家を飛び出した。
プルテニス「お袋!渡したのはどいつだ!」
リン「あの人だよ!そこを右に曲がった!」
俺とカイロとホースはお袋に言われた道を走り、シテナとキュルキュロス、アラマイヤは屋根に登っていった。
シテナ「いました!!きっとあいつです!」
ホース「よし!こっちも見つけた!」
視界の先には行商人の格好をした男が怪しげに路地を走っていた。
その存在にいち早く気づいたシテナが二股に分かれた槍を投げるとドンピシャ、奴の首を捉えて向かいの壁に張り付けた。それを見た俺は槍を外される前に男までの距離を詰めて胸ぐらを掴んだ。
みんなが追いつき、シテナは自分の槍を壁から引き抜いた。
ホース「目立つのはまずい。すぐに戻るぞ。」
プルテニス「ああ、分かってる。来い!」
男は情けない悲鳴を上げて俺に引きずられるようについてきた。
「ひゃーーー!!!!」女のような悲鳴も聞こえた。
プルテニス「うるせぇ!何もとって食うわけじゃ……」
カイロ「違う!今のはイリスさんの悲鳴だ!」
プルテニス「今日は走ってばっかだな畜生!」
急いで戻ってみると、カイロ宛てに届いた小包の前でイリスが気絶している。ビビったのは気絶した彼女じゃなく、彼女が覗いた小包の中だった。
小包の中には壺が入っていた。更にその中には……タネンの首が入っていた。
カイロ「せ、先生……!タネン先生!」
死んでいると分かっていても叫ばずにはいられなかったんだろう。俺も会って数十分とは言え知り合いが死んだショックはでかい。
シテナ「ヒッ……!!」
アラマイヤ「シテナ!見てはいけません!」腕で泣きそうなシテナの目を覆う。
放心状態になり、ショックを受けているカイロに心を痛めながらも男の方を向き質問する。
プルテニス「何者だテメェ!何故ここにカイロがいるってわかった!貴様の他に何人、この場所を知ってる!?何故こんなことしやがった!!」
男「俺はジーフだ……昨晩、お前達が馬に乗ってここにいくのを見た……知ってるのは俺だけだ……」
プルテニス「そうか…あの黒い連中の1人か……!タネン先生を殺ったのも貴様か……!!」
ジーフ「そうだ……」
胸ぐらにあった手を首に持っていく。嘘をついたり黙っていたりして欲しかったわけじゃない。それはそれで頭にくるが……開き直った様子で答えるこいつに怒りが湧いてきたからだ。理不尽なのは分かっている。だが、カイロの気持ちを考えればこいつの首を今にもへし折りたくなってくる。なにより、こいつからは罪悪感や恐怖という感情を感じなかった。しかし、俺はここで思い留まった。
異常に硬かったからだ。首が。しかも、硬いのに皮膚が簡単にズレてうまく首を掴めない。
俺は数秒間、沈黙し再び口を開いた。
プルテニス「テメェ……この面ぁ、本物じゃあねぇな……」
ギクッと音を立てるようにジーフの顔が歪む。
それを見た俺は掴んでいた首に爪を立て、猫のように皮を引っ掻いた。すると中から銀色の何かが見えた。
プルテニス「人を殺すのは得意でも嘘を吐くのは得意じゃあねぇらしいな……師匠…!これを…」
俺は奴が身動きを取れないように四肢を押さえ込んだ。キュルキュロスはジーフの顎の下に手をやり、皮膚を摘んだ。そして、皮を思い切り上に剥いだ。
中から出てきたものに俺もキュルキュロスも度肝を抜かれて硬直した。
ジーフの顔の筋肉という筋肉が銀色に硬化し露出していたからだ。その見た目は人とは思えない程醜いものだった。
プルテニス「なるほど……だから俺達の攻撃を喰らってもまともに立てたわけか……バケモンが……」
ジーフ「やれやれ……見られたか……」
プルテニス「答えろ…!誰の差し金だ!」
ジーフ「んん〜それだけは言えねぇな……」
プルテニス「そうか…」
俺はジーフの指を一本掴み、普通に曲がる方向とは逆方向に90度に曲げた。奴は苦しみの声を上げたが答える気はないらしい。
プルテニス「まだ言わねぇか。ならもう一本だ……」
3秒経つたびに一本ずつ折っていく。静かな昼にジーフの痛々しい声が反響していた。
キュルキュロス「止めろ、プルテニス!一本折って喋らない奴は何本折ったって同じだ!」俺の非人道的な行為に対してキュルキュロスが怒鳴った。
プルテニス「………何故タネン先生を殺した……身体は何処にやった!!」
ジーフ「奴も俺達の事を探ろうとしてたからだ……身体は………俺の仲間が…」鼻息を荒くして答えた。
プルテニス「よし……もう何も聞く事はねぇよ…ホース!カイロ!」
俺は家の外にジーフを投げ飛ばし、ホースはそれを空中で5発射抜いた。いずれも眉間に当たり、カイロはタネンの仇と叫びながら剣を奴の心臓に向かって投げた。
俺とカイロとホースは家の外に出てジーフの身体を覗き込んだ。
プルテニス「師匠……殺してよかったんですよね……」死体に唾を吐きながら聞く。
キュルキュロス「ああ。拷問するのは少し許せなかったがな。」
カイロ「でも、コイツの苦しむ声が聞けたのはスカッとした。俺がやってやりたいとも思ったが……」
プルテニス「わざわざ自分の手を汚すような事、するもんじゃねぇぞ……」
ホース「お前が言うな……」
その後、ジーフとタネンを丁寧に埋葬した。その際、カイロは目を瞑り、何かを心に決めたようだ。
恐らく、すぐに身体も埋葬すると誓ったんだろう。