泥酔
任務を終えて拠点へ戻ると俺達は唖然とした。
カイロがアラマイヤを前にして傷だらけで倒れている。
プルテニス「あ、アラマイヤさん……何故ここに?これは一体……?」
アラマイヤ「私も遠征が終わったので腰を下そうとしていたのですが……彼が酔った勢いで……」
アラマイヤの話によると。2時間前。
キュルキュロス「おお、アラマイヤ。戻ったのか。」
アラマイヤ「はい。お久しぶりですキュルキュロス様。」
カイロ「ああ〜?あらまいや〜〜?プルテニスに修行つけたっていうやつか〜あ〜?」
アラマイヤ「ず、随分と酔ってらっしゃるようで……」
キュルキュロス「気にするな。ちょいと昨日はしゃぎすぎただけだ。」
カイロ「な、なんらとこのやろ〜!!おれだってなぁ〜あ〜格闘くらいできんらよ……?」
回らない呂律で喋りながらフラフラと立ち上がり喧嘩腰になる。
カイロ「み、みとけよ〜〜……俺は今、酔ってっから、酔拳ができんだぞ〜……」
アラマイヤ「……て言って襲ってきたのでつい……」
プルテニス「……カイロ……大丈夫かよ。」
駆け寄って、カイロを抱き起こす。
カイロ「う、酔ってたのに強くならない……」
プルテニス「酔えば酔拳ってわけじゃあねぇぞ!バカタレ!アラマイヤさんに勝てるわけねぇだろ。ほら、水でも飲んでこい!」
カイロはフラフラと部屋を出ていった。
次の日
俺とカイロは今日は任務がないため街に買い物に出ていた。
カイロ「あぁ……昨日は酷い目にあった……」
プルテニス「自業自得ってやつだろ。」
カイロ「反省してます……おい、みろ!第二討伐大隊の幹部達だ。」
第二討伐大隊は王国創設の初期から続くもっとも大きな討伐体で俺達の先輩に当たる。特にその隊長のコウデンは国でも五本の指に入る実力者で大会でも3回優勝した実力者だ。
コウデン「お。第六討伐小隊のリーダーじゃねぇか。」軽く会釈する。
プルテニス「どうもご無沙汰してます。コウデンさん。」
コウデン「おう。それと……そっちは……?」
プルテニス「同じく第六討伐小隊に所属しているプルテニスです。以後、御見知りおきを。」
拳と手の平を合わせる砲拳礼をした。これは旅に出た親父が大事にしていた挨拶で俺も目上の相手や試合のときはきっちりとする様に心がけている。
コウデン「ああ、格闘の超人と言う…キュルキュロスの弟子か。此方にも格闘家がいてね。いつか手合わせをしてみたいと言っていた。」
カイロ「コウデンさん、街中でいきなりですか!?」
コウデン「まあ、いいじゃないか。俺達も丁度仕事帰りなんだ。」
カイロ「しかし、プルテニスは今負傷中でして、とても先輩方とやりあえる状態じゃ。」
コウデン「気にするな。こっちも手加減する。だろ?シーサイ。」
シーサイ「うむ。大会で見かけた事もあったが手合わせしてみたいものだ。無理を言うようで申し訳ないが良いだろうか。」
口を開いたのは細身の筋肉質な男で髪を刈り上げている。
カイロ「……いけるか?プルテニス。」
心配そうに振り向いていうので
プルテニス「あぁ俺も興味があったからな。大丈夫だ。どうせちょっとした遊びだろ。」
と言っておいた。
シーサイ「そうか。してくれるのか。やろう。」
プルテニス「お願いします。」
俺は人差し指と中指を少し曲げ、他の指を完全に曲げ重心を後ろにかけて構えた。
カイロ「お、おい、その構えは」
そう、俺がとった構えは酔拳。文字通り、酔っ払ったような動きをし、酒に酔えば酔うほど強くなる。
プルテニス「ほら、酔拳だ。ちゃんとみとけよ。」
体を不規則に揺らし、前に進んだり、後ろに下がったり。
シーサイ「貴様……ふざけているのか!?」
両手を胸の前に小さく構えて鋭いジャブを打ってくる。軍人格闘技の構えだ。
前腕でジャブをいなしその勢いで回転。からの逆立ちで相手の腕を足で挟み、全体重をかける。
シーサイは体勢を崩し、右下に体が落ちる。
俺は立ち上がり、再び構え直す。
シーサイ「グッ……中々やるな。」
プルテニス「ありがとうございます。」
フラフラと間合いをとりながら答える。普通に見ればふざけたように見えるだろうが俺は大真面目だ。
シーサイも構え直す。
カイロ「へぇ……」
イリス「何かございまして?」
丁度通りかかったイリスとシテナと合流したらしい。
カイロ「ああ、奴が先輩と組み手してんだ。」
イリス「OH MY GOD!あれは酔拳じゃありませんの?」
シテナ「でも、酔拳ってお酒がないとダメなんじゃ……」
カイロ「そうでもないらしい。結構やれてるぜ。」
そうは言ってくれてるものの。俺は拳を使わない酔拳は初めてだったせいか相手の攻撃をいなすことに集中しすぎて中々反撃に出れずにいた。
コウデン「何をしているしているシーサイ。青二才のガキに負ける程貧弱ではないだろう。本気でやれ。」
カイロ「ええ……」
シーサイ「…シュッ!シュッ!フンッ!!」
奴の攻撃がますます激しくなった。流石に避けきれない。攻撃も当たり始めてきた。
イリス「もう、プルテニスもどんくさいですねぇ。シテナ。行きますわよ。」
シテナ「え?どこに?」
イリス「いいからいいから。」
カイロ「え、あ、おい!プルテニス、大丈夫か?」
シーサイ「どうした!?プルテニス!お前の実力はその程度か!?」
プルテニス「所詮、俺もまだまだ修行の身なので!今出せるのは、この程度ですよ!今はね……」
さっきまでの素早い技の攻防は消えてシーサイがひたすら俺を殴るという一方的な光景に変貌した。
周りからは同情の声や嘲笑う声が聞こえてくる。
その時。
イリス「ハァ…ハァ…お待たせしましたわ……赤ワインと白ワイン!それにウィスキーですわ!!」
3本の酒瓶が投げ渡された。即座にウィスキーの栓を開けてガブガブと飲み干す。
次に白ワインと赤ワインのボトルを両手に持ち、シーサイの顔面に板挟みでぶつけてやった。割れたボトルを口の上に持っていき、溢れるワインを流し込む。ダバダバと口から溢れて汚いように見えるがこっちだって本気なんだ。なんでもするさ。
俺の顔はみるみる赤くなっていき、意識も朦朧としてきた。
フラフラだった体はさらにフラフラになる。口角が上がり、構えていた腕も大きく構え直す。
プルテニス「こ、これが〜酔拳〜!!のめばのむほどぉ〜♪怪力にぃ!!酔いは体の幸福なり〜♪それは即ち人生の幸福〜♪♪泥酔拳!!」
一気に間合いを詰めて何度も体を捻り、回り、アクロバットな動きとアホらしい動きを組み合わせる。
その動きはいなしからの反撃を激しく、不規則に。
今までの動きが嘘のように素早く、強烈になる。もはや、俺の独壇場。
プルテニス「ハイ〜!!回転蹴り!!からの千鳥足拳!!素早い蹴りのラッシュだぁ〜!アイ〜ヤァッ!ほあァ!チョウッ!!ア〜!!ぴ〜ヒャらぁ!笛吹ながらの必殺拳!!アタぁ!さぁ、どんどんいぐぞぉ〜!!次の奥義はぁ〜……」
気が付いた時には目の前でボロボロになったシーサイが倒れていた。
カイロ「おいおい!プルテニス!やりすぎだってばよ!」
プルテニス「え〜?あ〜、悪い…酔拳は欠点としてぇ〜…力の加減が〜あ、難しくなるんだよ〜……先輩、すんませんした〜!」
カイロ「まさかちょっとした組み手で酔拳を使うなて……先輩!!申し訳ありませんでしたぁ!!」
コウデン「いや、気にするな。シーサイも過信しすぎていた点があったんだ。いい勉強になっただろう。それでは。」
カイロ「はい!お手合わせ有り難うございました!」
シテナ「プルテニスって酔うとこうなっちゃうのか……怖い。」
イリス「大会でも前に一度使ったことがあるのですが、飲酒もドーピングとみなされて失格になった事もありますのよ。」
カイロ「全く!修行してから性格悪くなったんじゃあねぇの!?ともかく、買うもんは買ったし、帰るぞ。」
プルテニス「あいよ〜♪」
道を引き摺られて俺は拠点に帰っていった。