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蹴りと殺気

修行を始めて早3ヶ月。俺は街に戻った。

服は随分とボロボロになり、側から見ると浮浪者にも見えるだろう。街を巡回する兵士にも職質された。


もうすぐで隊の拠点というところで妙な人だかりができていた。


プルテニス「なんじゃこりゃ。道が塞がってんじゃあねぇか。」


市民「なんだよ、じゃああんたがこれをどうにかしてくれよ。」


プルテニス「いや、その理屈はおかしいだろ。っていうか何があったんだ。」


市民「あれだよ。」


プルテニス「どれだよ。」


市民が指差した方向には宝石店があった。

そういやカイロがイリスへのプレゼントを買うって言って、宝石選びに付き合わされたことがあったな。イリスはプレゼントされたネックレスをまだつけてるのだろうか。


宝石店の中には店員を人質に取った強盗がいるらしい。兵士が店を囲って犯人の自首を促している。しかし、犯人は頭に血が昇ってるのかナイフを店員に突きつけ支離滅裂な事を叫んでいる。


俺は野次馬を掻き分け、店の正面にいきしゃがみ込み、小石を幾つか拾った。俺はそれをチョイッと投げ、犯人に向かって蹴った。


犯人「イテッ…なんだ!?イテッ、イテテ!!あ!ナイフが!!」


兵士「今だ!!突撃ぃ!!!」


囲っていた兵士が一斉に店内に押し入り、犯人が兵士に捕まっているのが見えた。次の瞬間、野次馬は磁石が反発する様に何処かへ行ってしまった。しばらく人々にもみくちゃにされた後、なんとか拠点に辿り着いた。


俺の隊の部屋を開ける。すると…

一同「お帰り〜!!」


パーティの準備ができていた。


カイロ「この野郎、生きてやがったか!!」


後ろからカイロが首に手を回してくる。


プルテニス「ははっ……まぁな。」


キュルキュロス「アラマイヤに頼んだのは正解だったな。目つきが更に良くなっている。」


プルテニス「ていうか、お前ら、浮かれすぎだろ!!外で強盗事件起きたたぞ!?解決しろよ!!」


ホース「丁度お前が帰ってくる日だったんでな。お前なら解決できると思っていた。」


プルテニス「これがこの国の精鋭部隊ですか。」


イリス「それよりも、プルテニス。随分と汚れてらっしゃるのでは?まず、お風呂にでも入っていらしたほうが。」


プルテニス「そうさせて貰いますぜ。」


カイロ「よし、一緒に入ろうぜ!裸の付き合いだ。」


プルテニス「止めた方が…」


ホース「そうだな、僕も行こう。」


プルテニス「話し聞けや!」



風呂


カイロ「うっへぇ!!汚ねぇ!風呂の水が一気に茶色くなったぞ!」


それまで白い入浴剤が入っていた湯船は泥やら垢やら毛やらで一瞬で汚れた。


プルテニス「だから止めとけって言ったのによ!」


俺の言っている事を聞かない様子で俺に近づき、

カイロ「でも、お前。前にも増してデカくなったんじゃあねぇのか?前は196cmくらいだったのに今は198cmくらいあんじゃあねぇの?」


プルテニス「ずっと足に重りつけたたからなぁ。少しくらい引っ張られてデカくなったのかもな。」


ホース「それもあるが全体的に筋肉がより強靭になっている。特に足が。」


プルテニス「おう。今じゃ足だけでもお前らに勝てるぜ。」


カイロ「は?足で剣に勝てるわけねぇだろ?」


プルテニス「でも、お前。俺に勝った事あったっけか?」


カイロ「あったじゃあねぇか。五年前に。」


カイロが話しているのは闘技大会のことだ。この国では年に一度、国民は愚か、世界中からあらゆる戦闘の達人が集まり開催される大会のことだ。

この大会は基本、金持ちの娯楽だが、それ以外にも隊の組み分けなどにも影響する成績でもある。


ホース「それと、去年と3年前。」


プルテニス「あれ?俺の方が勝った回数少なかったのか?」


カイロ「やっぱりな。だからお前はリーダーに慣れねぇんだよ。」


プルテニス「おお、そうだな。だからお前はリーダー止まりなんだろうな!」


カイロ「は!?どういう意味だ!そりゃ!」


プルテニス「俺はいずれ格闘の道を極める!人間の恐ろしさを魔物に思い知らせる!!」


ホース「また始まった……」


キュルキュロス「なら、まずは私に勝たねばな…」


キュルキュロスは8年連続で大会の優勝者で俺は毎回二、三回戦落ち、カイロは準決勝くらいで落ちる。何故か俺とカイロは毎年の様に二回戦目で当たり、体力を使いきり、次の試合でフラフラになるからだ。とは言え二、三回戦落ちとだけ聞けば成績が悪く聞こえるが、その前に3日に渡る予選で毎年、平均2000人の参加者の中から20人だけ選ばれるため、本戦に出るだけでも成績は高い。

基本、俺達の隊は過去に一度は優秀な成績をとっている。

俺だってカイロが来るまでは準優勝だったし、カイロだって俺がたまたま腹を下して不戦勝で上がった時に準優勝している。


カイロ「まぁ、そんだけ強くなった自信があるんだろ。どんな特訓をしたんだ?」


プルテニス「まず、ウォーミングアップで20Kmを3往復と大岩を四つ担いでスクワッド100回、10mに積まれた小石の上で頭に水の入った茶碗を乗せて片足立ち3時間。こぼせばその日の飯は抜き。そのあと、サンドコバンドラゴン(体調10cmほどのドラゴンで地中で500匹程の群れを成す生物。商人の旅団の被害の2割はこいつらのせい)の群れを1人で相手にしてその日の飯を調達。そのあと餌を巻き、寄ってきた大型の魔物達を上半身を縛られた状態で同時に相手し、死なない程度に倒す。これを日が沈むまで続ける。そしていずれも片方80Kgの重りを足につけて行う。ってな感じだ。」


カイロ「うっはぁ……きつそう。」


ホース「しかし、お前の体力のギリギリを考えてあるぞ。」


プルテニス「そうんなんだよ。最初、このメニューを聞いた時は身体がぶっ壊れるかと思ったんだけどよ、たしかに辛いし筋肉痛にもなりはしたが体調を崩す事はなかったんだよ。」


カイロ「マジか。っていうことはよ、そのメニュー考えた奴はお前よりお前の体を知ってるってことか?」


キュルキュロス「師が弟子を理解するのは当然だろう。」


プルテニス「え!!?あのメニュー、師匠が考えたんすか!?」


キュルキュロス「あぁ。私も仕事があって様子を見に行けなかったものでな。私のペットに頼んでアラマイヤに知らせたというわけだ。」


ホース「では、実質キュルキュロスさんが修行をつけたということですか?」


キュルキュロス「まあ、そうなるな。………そろそろ上がるか。のぼせてきた。」


そう言って風呂を後にする。


カイロ「俺もキュルキュロスに修行つけて貰おうかね?」


プルテニス「やめろ。」


カイロ「なんで?」


プルテニス「お前が俺より強くなるかもしれないだろ?」


カイロ「いや、俺リーダーなんだけどぉ!?」


プルテニス「だからなんだ!それとも、こうなりたいってのか!?」


俺は立ち上がり、2人に股間を見せた。その瞬間、2人とも青ざめた。


カイロ「お、お前、それ……」


ホース「こ、睾丸が……!」


俺のキンタマの入っている袋は右側が抉れて異様な形になっている。


プルテニス「そう、俺は大岩のスクワット中、不慮の事故でキンタマを片方失ったんだよ!!マジで死ぬかと思ったぞ!!アラマイヤさんの話だと俺は泡吹いて岩に押し潰されながら倒れたらしい。」


ホース「拳に続いて睾丸を失うとは……」


カイロ「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」



プルテニス「そろそろ上がろうぜ。」


股間を押さえる2人を後にして出て行った。




部屋に戻るとシテナが顔を真っ赤にしてイリスに膝枕してもらっていた。


イリス「OH SORRY。貴方達があまり遅かったものでしたから、先に飲んでましたの。」


カイロ「それはいいけどよ、シテナに飲ませたのかよ!?まだ17だぞ!!」


イリス「よくあるじゃないですか、酔うと人格が変わる人。ちょっと見てみたくて……」


ホース「大人気ない……」


プルテニス「潰れたんなら仕方ねぇよ。俺達も飲もうぜ。」


カイロ「開かれてる側なのに図々しいな。まあいい、飲むか!」


そしてその日はキュルキュロス以外は全員酔い潰れる事になった。


翌日


酔いが酷かったカイロとホースをキュルキュロスが看病する形で護衛には俺とイリス、シテナが向かう事になった。


プルテニス「そういえば、俺とシテナってあんまし話さねぇよな?」


シテナ「へっ!?……あ……はい…そう…ですね…」


今にも消えそうな声で答える。

その時、イリスが耳打ちしてきた。

イリス「ちょっと、プルテニス……ダメですよ。彼女は昔、暴漢に襲われたことがあるらしくてですね。前に話してくれた内容によると、その男がプルテニスに似ているとのことですわ。」


プルテニス「何!?じゃあシテナは俺の顔にトラウマがあるから喋ろうとしないのか?」


イリス「YESですわ」


プルテニス「あ、そうなの。」


商人「ちょっとあんたら!ちゃんと周り見張ってくれなきゃ困るよ!こっちは御者やんなきゃならないからいざって時対応できないんだ!」


プルテニス「す、すんません!」


俺達はすぐに陣形を取り直す。俺が馬の前。列のイリスが右端、シテナが列の左端を歩いて行った。

そして早速出た。3体の魔物だ。鉱物でできた体長3mほどの人型の魔物、ゴローダ。修行中には出会わなかったが、俺の蹴りを確かめるには絶好の相手だろう。


俺はその場で軽く飛び跳ね、左足を前に右足を後ろにし重心を低く構えた。


プルテニス「旅団の皆さん!ここは俺が援護するんでこのまま突っ切ってくださいや!」


その言葉と同時に俺は前に飛び出し1番前にいたゴローダの股の前に行くと、更に重心を深くした後に地面を蹴り、体を上に飛ばした。その勢いと同時に

右足を上に突き出した。ゴローダの顔面の2/3は粉々に吹き飛んだ。そこから、俺は体を回転させ、突き出した右足を奴の首に引っ掛け、そこを軸にして奴の頭上へ更にジャンプ。そこからかかと落としで真っ二つにしてやった。

怯んだ隙に背中から追い討ちで足蹴りを連打する。

周りの鉱石を取り込んで回復するゴローダでもここまで粉々にされたんじゃあ回復の仕様もないだろう。


次に前方から2体同時に突進してきた。

1体目と同じように倒してやろうかと思ったがその時アラマイヤとの会話を思い出した。




あれは確か、魔物に囲まれてボコボコにされた時だ。


アラマイヤ「ダメですね。殺気を上手く操れていない。」


プルテニス「ハァ…ハァ……前々から聞きたかったんだけどさぁ…アラマイヤさんの言う…殺気って……なんなんすか?」


アラマイヤ「そのままの意味ですよ。貴方には『相手を確実に倒す』と言うビジョンが足りていないんですよ」


プルテニス「相手を倒すって事は考えてますよ……ただ、相手が多すぎんですよ……」


アラマイヤ「誰も考えろとは言ってません。ビジョンを浮かべるのです。相手を倒している自分を。」


プルテニス「いや、いまいち分からないすよ。」


アラマイヤ「いわゆる、精神統一です。ただ、『相手を殺す事』だけに精神を集中させるのです。そこから逆算していくのです。[自分は相手を殺している]それならば[どうして?][どうやって?][何が起きたのか]と思い浮かべるのです。そうすれば自然と相手の動きも見えてきます。」


プルテニス「???」


アラマイヤ「私が初めて貴方にあった時、貴方は私に殺されると言う映像が頭に浮かんだ筈です。」


プルテニス「あ。」


アラマイヤ「そうです。強い殺気は相手に恐怖心を与えます。恐怖に囚われた者は動かなくなったり、単純な動きしかできなくなります。まるで今、自分が殺されていると思うからです。」


プルテニス「なるほど。自分の考えたビジョンが相手に恐怖として伝わって、結果、その通りに動くわけか。」


アラマイヤ「そういうわけです。ただし、一度戦意を喪失した者に止めを指す必要はありません。」


プルテニス「え?」


アラマイヤ「私達の任務はあくまでも護衛です。そのため、無駄な戦闘を避け、護衛対象の側にいることが肝心なのですよ。」


プルテニス「そんなもんですかね?」


アラマイヤ「そういうものです。」






プルテニス「試してみるか。」


俺はアラマイヤのしていたように見下すように、冷徹な視線を2体のゴローダに送った。そして思い浮かべた。俺が奴らを粉微塵にするところを。俺が奴らの顔面を蹴っているところを。俺が奴らの攻撃を避けているところを。


その時、今にも攻撃しようとしていたゴローダ達はピタリと動きを止め、心なしか震えているように見えた。正直、俺もビックリした。修行中は3回に1回成功するほどの確率だったので今回も上手くいく保証がなかったからだ。こんな状況で試すべきではなかったかもしれない。


ともかく危機は乗り切った。

もっと修行の成果を試せる場所はあるだろうと俺は再び、旅団の先頭へと戻っていった。



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