オーガ
「オーガが出る村ってのはここだな……」情報によればこの村はオーガの影響によりギルドへの依頼を最後に他の集落と連絡が取れなくなっているらしい。木造建築の荒れた家が目立つ。俺は無意識に歯軋りした。
「あ、あんた、オーガを倒しに来たのかい……1人で……?」2人の幼い子供を連れた中年男性が話しかけてきた。
「はい。オーガが出たのは何時ごろかわかりますか?」
「ああ、恐ろしいものだよ。1週間前、村の畑を世話していた老夫婦とその孫達が拐われたのが始まりだ。それからも何人か殺られたよ。今は住民全員であっちの村長の家で暮らしている」指を指した方向には大きな横長の家があった。子供は中年男性の後ろに泣きそうな顔で隠れている。よっぽど辛かったんだろう。
「1週間前……そんな被害が出たのにギルドは動かなかったのか……奴らは群れで行動すると聞きました。何か巣窟の様な場所があるんですか?」
「それは、分からん。ただ、よく目撃されるのは東の畑からと言われている。もしかするとその方向に……」そう言いかけたとき、鐘の音が聞こえた。
東の方に建てられている見張り台からだ。
「オーガが出たようだ……!私達は村長の家に避難するがあんたはどうする⁉︎」
「出た分だけ狩ってきます。また後でいくつか聞きたいことがあるので」
「あ、気をつけてな……」
弱々しく後ろから聞こえた。
見張り台の方に行くと1人の男が俺と反対方向に走っていった。300m先の畑に人型の影が見える。俺は走り出した。
見ると畑に着くとそこには青緑の肌の奴がいた。これがオーガだろう。異様に発達した下顎、口の中には人間でいうところの犬歯の様な形の歯がずらりと並び、筋肉質なからだには木の皮や動物の骨、革で服を作っていた。そんなのが四体。内一体には小さな角があった。幹部の様な存在だろう。
角をはやしたオーガが心なしかニヤけた様に見え、俺に近づいてきた。大きさは俺より頭一つ分小さい。オーガは笑い声の様な雄叫びを上げた。知能はあるものの、そこまでとは思えない。
俺は腰を少し曲げてオーガの額に俺の額をくっつけて奴の眼球を凝視した。獣臭いのかと思いきや水浴びでもしているのか思いの外体臭は普通の人間と変わらなものだった。が、奴の口からは血の臭いがした。恐らく人のものだろう。
オーガは低く唸り、俺を突き飛ばした。今度は俺がニヤけた。びびってるらしい。
リーダーオーガの左後ろにいたオーガが飛び出し殴りかかってきた。俺は奴の拳を右手で押さえて顔面を蹴った。オーガの首は異様な方向にねじ曲がり、そのオーガは何が起きたか分からずおかしな鳴き声を短くあげていた。
あんまり強くないなと思ったが、拳を受け止めた手が痺れた様に痛い。仮にこいつがオーガ最弱だとすればかなり不味い。角の生えたオーガが他の二体と共に飛びかかってきた。一体は巨大な戦斧、もう一体は大剣、角付きは金棒を持っている。流石に素手では受け止めれない。
大振りな攻撃を避け、攻撃を仕掛けるが三体の連携も凄まじいもので中々攻撃の方に集中できない。
俺は向きを90度変えて森に走り出した。勿論、オーガ達は追ってくる。知能が低い相手には立体的な相手と戦った方がやりやすいと個人的におもう。
初めて見る、背の高い針葉樹林とそこに差し込む日の光の光景に感動しながらも、気の幹を蹴り、枝を掴み、飛び上がり、立体的な動きをとる。オーガ達は木々をなぎ倒しながら追いかけてくる。距離を離しすぎず近すぎず、5mを保ち、奥まで誘い込んだ。ある程度、深いところまで入ったところで、それ以上進まず、近くにある木に飛び移りらながら周りの木々をなくしていく。一本の20mの木の枝にとまった。案の定、オーガは俺の立っている木を端折り倒してくる。俺は、倒れる前に木の先端まで飛び、脇で抱えて地面に着地した。俺はありったけの力を振り絞り倒れた木を持ち上げ、構える。これには流石のオーガもビックリしたらしい。人間が大木を持ち上げるなんて考えた事もなかっただろう。俺がそれを振り下すとオーガ達は丁度一直線にならんでいて、オーガの体は釘の様に綺麗に幹を貫通した。一見笑ってしまいそうな光景だが、奴らは頭から血を吹き出して気絶している。死ぬのも時間の問題だろう。
一息付き、避けた皮膚を撫でながら村に戻っていった。
村長の家の前で
「あぁ……若い人や、無事だったか……」とさっきの男がほっとした様子で手招きしてくれた。
中はシンプルな造りで一直線の廊下といくつかの部屋に別れていた。1番奥の広い部屋で長机を囲み、中年の男女が集まっていた。俺は端から3番目の空いている席に座るよう言われた。
「冒険者様、この様な状況ですがよくお越し下さいました。私はこの村の長をしております、サイというものです」細身で白髪の男と老人が優しく声をかけてくれた。
「どうも、第六討伐しょう……じゃなかった、ギルドから来ました、プルテニスです。」
「プルテニス様、ですか。傷の方は大丈夫ですかな?」細い目を見開き、皮の裂けた肩に視線を送った。
「これくらい慣れたものですよ」
「そうですか……失礼ながら、オーガの方は倒せそうでしたか?」
「少し、苦戦しそうですが、倒せない事は無いと思います。先程も四体のオーガは討伐しました」
「それはそれは、頼もしい限りです」
「ありがとうございます。聞きたいことがありまして、オーガの群れの規模等は分かりますでしょうか?」
「規模……ですか…すみません、そこまでは把握しきれてはおらず、何せ生きるので精一杯でしたから……」周りの人々も俯き、暗い空気が更に暗くなった。
「そうですか……でも、大丈夫です!俺が今日中にこの村をオーガの恐怖から救って見せましょう!」俺は一声上げた。
「お気持ちは嬉しいのですが、どうか焦らず、無理をなさらず。せめて、傷の手当てだけでも……」
今にも飛び出しそうな俺にサイはさっきよりは明るく言ってくれた。
俺は傷の手当てを受けてから再び東へ向かった。