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酒場

「ふぅ……あっと一杯…」

テーブルに顔を押し付けながらルイスがジョッキを差し出す。

「はぁ…お前、酒に弱ぇだろ……これでホントに最後だからな?」と、ジョッキに1/3程ビールを注いだ。酔いを見れば酒瓶を何本か飲んでいる様に見えるが実際はジョッキ2杯程だ。だったそれだけに1時間もかかって飲んでいるから驚いた。

「うう……酒は好きなのに……こんなに弱いなんて……」泣きべそをかきながら呟いていた。

ユーとティは楽しそうに酒と肴を口に入れている。見た目はまだシテナと同じ位だが随分と普通に飲んでいたので気になって

「そういや、お前ら歳は幾つだ?」と聞いてみた。

「俺は17」

「私は15」

よくまともに喋れるな。どこかの誰かと違って。

敢えて俺はノーコメントということにしておいた。

「あ、すいません。これと、これ、それとこれお願いします」

俺はウェイターに3つの料理を注文した。ウェイターは2つ返事で厨房にパタパタと歩いていった。

少しした後でテーブルの上には列車の中で食べたバルック・エクメーイと羊肉のステーキ、そしてドライフルーツとナッツの入ったチョコレートアイスが並んだ。

「おい、ルイス。アイス食うか?」

俺はチョコレートアイスの入ったカップを死にそうな顔になっているルイスの頬にくっつけた。

「うん……食べる…」

苦しそうな笑顔を浮かべながらゆっくりとスプーンを口の中に運んだ。何回かアイスと口を往復するとスプーンのスピードは上がり、最後にはまるで投石機の様にアイスは彼女の口に放り込まれていった。

直後、彼女は頭を抱えて楽しそうに笑った。

「頭がキーンってなった……!」

俺はバルック・エクメーイを咥えながらその様子を見ていた。チョコレートに含まれているポリフェノールはアルコールを分解すると聞いたことがあるので頼んでみたがまさかビールと相性の良いドライフルーツとナッツが一緒に来るとは思わなかった。そこら辺は酒場としてサービスが充実しているなと感心した。

「私もアイス食べたい!」

「俺も!」

「あぁ、分かった分かった…今頼んでやる」

何で俺がこいつらの面倒を見なきゃいけねぇんだと思いながら右手に残ったパンを口に頬張り、ウェイターに2つ追加を注文した。動かない左手に右手を擦り合わせて早速ステーキに手をつけようとしたその時、男の驚く様な声が聞こえたと思うと、テーブルに大きな影が映った。何事かと上を見るとガタイの良いスキンヘッドの男が降ってきた。

「ヤベ!ステーキが!」

俺は男よりも自分の飯の方に気を遣い、すぐさま立ち上がり男をテーブルの数十㎝上でお姫様抱っこの形で受け止めた。男は地面にぶつかる覚悟ができていたらしく目を瞑っていたがいつまで経っても地面とぶつからないので目を開けると俺と目が合った。

「ウホ♂イイ男…」

「やめろ!気持ち悪い!」

男をテーブルの脇に放り投げ、食事に戻ろうとしたが、肩を掴まれた。

「なぁ、兄ちゃん聞いてくれよ!」

「ダァ!なんだよ」

「俺がお前の食事を邪魔したから怒ってんのか?」

「あたりめぇだむ」

「それならアイツにいってくれよ」

男が指差した方向にはテーブルが1つあった。青年が1人座っていた。俺より一個下の歳だ。他には何もなかった。

「誰だよ」

「見えねぇのか!あのガキだ!」

「あんなのが吹っ飛ばせるわけねぇだろ」

「それが起きたんだ」

俺はつまらない冗談だと思い、冷めた目で青年を眺めていた。でもこの男が吹っ飛んできた方向を考えるとあそこしか有り得ない。半信半疑で俺は青年の席に向かっていった。

「お、おう……兄ちゃん、意外とタッパあるな……」

「ほっとけ」

青年は近づいてきた俺を見て露骨に面倒臭いという表情をした。俺は笑顔で話しかけた。

「お前があのおっちゃんを飛ばしたって本当か?」

「そうだが……まさか俺に謝れって言いたいかか……?」

「いやぁ、別に謝れって程じゃあねぇんだがな?ただ、人を吹っ飛ばす時は時と場所と方向を選んで、一言くらいかけてくれねぇかなぁと思ってよ」

「次からそうする」

青年は俺に目などくれずに本を読んでる。

「何であの男を吹っ飛ばすってなったんだ?」

「別に、ただ絡まれたので正当防衛として一発殴っただけだ」

「へぇ。お前、名前はなんていうんだ?」

「ダン。ダン・ハルカス=フロイデン」

「そうか、俺は……「プルテニス。さっき話ているのが聞こえた」

「そ、そうかじゃあ…「いい加減にしてくれないか?俺は面倒事が好きじゃないんだ。そんなに質問攻めされると尋問されている気分になる」

「よく言うぜ。男1人吹っ飛ばして面倒に巻き込まれねぇ方が不思議だってのによぉ」

「アンタもさっきの様に吹っ飛ばされたいのか?」

「別にしてもいいが多分吹っ飛ぶのはお前の方だぞ」笑顔を消して俺は言った。流石にこれで少しはびびったろ。と思った途端に世界が回転し、次の瞬間、目の前には床があった。俺は足に力を入れて踏ん張った。顔を殴られたらしい。

「やってみたけど、アンタの言った通りにはならなかったな」

「お、そうだな。でも、お前が言った様に吹っ飛ばされたわけでもねぇぞ」俺は向き直り、奴の拳に目をやった。皮が少しむけている。ダンが少し舌打ちするのが聞こえた。

「久々に顔殴られたぜ。それと、拳は大事に使えよ」とだけ言い残し、俺は元のテーブルに帰っていった。そして

「いダァ……!イテテテテテ!あの野郎マジで殴りやがった!顎が外れるかと思ったぞ!」と我慢していた痛みを曝け出した。

「誰にやられたんだ?」ユーが聞いてくる。

「あそこにいるダンって奴だ。おお痛…」

「あいつは確か昨日入ったばかりの奴だな」

「そこなんだよ。俺が気にくわねぇのは」男がひょっこりと出てきた。

「お前まだいたのか」

「兄ちゃんは遠くから来たからよく分からねぇと思うが、あのガキ、昨日はまだFランクだったんだぜ?それがたった1日でもうBランクだ。どんな汚ねぇ手を使ったかは知らねぇけどよ」

「いや、多分汚ねぇ手なんか使ってねぇぞ。アイツは……」と言いながら頬に当てていた手を放した。

頬は内出血しているらしく赤黒く変色していた。

「あ、兄ちゃん……その傷は……」

「こりゃあ、修行のしがいがあるってもんだな」

決して奴に勝てないわけじゃない。ただアイツの俺を気にも止めない様な態度に腹が立ち、あの無機質な表情を仰天した顔にしてやりたいと思った。笑いながら俺は続けた。

「ユー。ここらである程度強い魔物はなんだ?」

「ある程度……基準はわからないけどオーガなんかだな。単体ならそこらの魔物と変わらないけど奴らは軍隊みたいに群れるんだ」

「よし、そのクエストっての、受けてやる」

「お、行くの?確か、どこかの村全体から最近オーガが出没するから討伐してくれってクエストがあったかな」

「早速、明日にでも行くか。ユー、俺の荷物、お前の家に運んでもらっていいか?」

「任せてくれ」

俺は鞄をユーに渡して、クエストが貼られているボードに向かった。


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