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列車

ボンズ駅。俺が旅団と同行するのはここまでだ。ボンズ駅は砂漠から始まり、海にかかった橋を越えて俺の目的地であるセダン王国を通り、そこから更に北の国までを線路で繋いだ線路、その始点或いは終点だ。駅には旅客車とそれを引っ張るバイコーンがいる。バイコーンは二本の角を持つ魔物で幻獣のユニコーンと真逆の存在と言われている。全長は5m程でそれが四頭、二列に並んでいる。これで本当に何千㎞も走れるのか心配だがとにかく俺は乗り込んだ。

中はコンパートメント式で随分と混んでいたがやっと適当な席を見つけ出し座った。その後数十分間何人もの人が乗り降りをしていて通路に立ったままの人もいた。俺は誰かが入ってきてもいいように1番奥に座り空いていることをアピールしたが誰も入ってこなかった。まぁ、2m近くある厳つい顔の男が窓際の席でドッカリ構えていれば入るのを戸惑う気持ちもわからなくもないが。

そんな時「ここ、座ってもいいのか?」と一人の女性が入ってきた。ショートカットの黒髪だが前髪は長く、キツい目つきをがその間から覗いている。手と足に黒い鎧をつけている。

「どうぞ」とだけ俺は言った。情けないがちょっと怖いしそれに初めて会う相手にそこまで深く関わるつもりもないからだ。女は俺と向かいの席に静かに腰を下ろした。それ以降は誰かが入ってくる事もなく車体が動き始めた。出発するようだ。バイコーンの鳴き声が聞こえた後外から地面を蹴る音が聞こえた。

正直俺は興奮していた。砂の上に轢かれた線路を巨大な馬車が走るなんて想像した事もなかった。俺は何度も座り直すフリをして周りの景色を見回した。十数分もすれば海に出て行った。俺は周りの目も気にせず窓に張り付くように外の景色を眺めた。が、ふと我にかえると視線を感じた。女が困惑した表情で俺を見つめている。

「あ、アハハ〜……いや、お恥ずかしい。なんせ海を見るのは初めてなもんで……」と苦笑いしながら言った。

「そ、そうか……まぁ、仕方ないな…初めてなら…」と女も苦笑いしながら小声で返してきた。

「あんた、地元の人か?」

「そうです。一応。お嬢さんはどこから?」

「私はセダンから観光に来たんだ。丁度帰り道でね」鎧をつけていることから観光でないことはすぐに分かったが敢えて触れずにおいた。

「セダンから……丁度自分も行くとこなんすよ」

「そうか、それは良かった!1人では心細いんでな!私はルイス、ルイス・ホーって言うんだ。よろしく」苦笑いが消え、純粋な笑顔で手を差し出してくる。

「セカンドネームがあるんですか。俺はプルテニス。よろしく」握手に応じた。

「プルテニスだね。敬語なんて使わなくていいよ。普通に話してくれ」力よくブンブンと腕を振ってきた。かなりフレンドリーで俺は困惑したが悪い人ではなさそうだ。

「セダンってどんなところなんだ?」

「う〜ん、口で説明するのは難しいかな……ついてからのお楽しみだ」

「そうか」

俺もルイスもしばらく自己紹介で盛り上がった。その内彼女は楽しそうな顔で「少し疲れたな。寝てもいいかな?」と言ってきた。俺が答える間もなく背もたれに体重をかけて目を閉じていた。

俺もしばらく後に目を瞑り、寝ようとした。その時、隣の席に置いてあった鞄がゴソっと動く感覚がして飛び起きた。目を開けると黒い影がサッと俺の鞄を持ち、通路に飛び出す様子が見えた。

「コラ待て!盗人!」と叫びながら人混みを分けて通路を突き進んだ。

旅客車両の連結部分で盗人が屋根に上がるのが見えた。俺も追いかけて上がる。しょっぱい潮風が顔に当たるのを感じた。その時気づいたが、もう向こうの島が見えて更に次の駅があるのも分かった。あそこでトンズラするつもりなんだろう。

「おい!俺の鞄返せ!」

盗人は俺以外からも物を盗んだらしく、背中の風呂敷がパンパンに膨れている。

「返せと言われて返すと思うか!」と盗人はナイフを取り出して切りかかってきた。

俺は右手で奴のナイフを持っている腕を掴み、そこから肘打ちを奴の顔面にお見舞いしてやった。盗人はたまらずナイフを手放し、鼻を押さえながら蹲った。

「よ〜し!さて、俺の鞄はとこだ?」と盗人よ風呂敷に手を突っ込み探そうとしたとき、後ろから首筋を思い切り蹴られ、前方に吹っ飛ばされた。

どうやら2人組だったらしい。風呂敷を持っていた方は曲がった鼻を指で元に戻し再びナイフを構えた。もう1人もナイフを取り出した。

「そんなにぶちのめされたきゃやってやるよ……!」と、俺は首を鳴らし構える。

さっきまでは弱いと思って舐めていたが2人になった途端に奴らは強気になり攻めに攻めてきた。それなりにコンビネーションが良く、俺も何度かバランスを崩して屋根から落ちかけた。ついさっきぶちのめすと言ったが撤回しよう。俺は2人の前で仁王立ちになり、奴らが飛びかかってきたところで奴らを殺すビジョンを思い浮かべた。その殺気を感じた2人組はその場でよろけてナイフを捨てた。

「す、す、すいません!許してください!」

「何でもしますから〜……って何で俺達が謝ったんだよ!」

と言ってる間に、2人の頭に軽くかかと落としを入れてやった。その後膨れた風呂敷を首に巻き、2人を引きずってコンパートメントに戻った。

ルイスは目を覚ましていた。

「どこ行ってたんだ?こいつらは?」

「盗人だ。俺の鞄を盗りやがった」

「それはお手柄だったな。あんた、見た目通り強いんだね」

「まあな」

「でも、これくらいの暇つぶしがないとやってられないよな。セダンに着くのは明日の夜くらいだから」

「だな。とは言え着くのはまだまだだぞ?それまでどうしやさようか」

「まあ、後2時間もすれば食事が回ってくるよ。ゆっくり食べようじゃないか」

「こんな混んでんのに飯が配られんのか?」

「ああ、次の次の駅で地元の人達が窓から売ってくれるよ」

「へぇ、そりゃ楽しみだ」

気がつけば列車は島を通り過ぎて再び海の上に出ていた。

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