団結
俺は困惑して道場を歩き回っていた。待てよ?
何故俺はここまで怯えている?いつもなら飛び出してカイロ達を探そうとするはずだ。何故俺は家から出ようともせず、ずっとパニクってたんだ?なにが怖い?と、思ったとき、背後から声が聞こえた。「お前らどこにいってたんだよ!」カイロの声だ。
俺が即座に振り返るとボロボロになったカイロ達が立っていた。ただし、キュルキュロスとアラマイヤは無傷らしい。
「それはこっちのセリフだ。」と俺は安心して聞き返す。「いや、俺達が眠ってるとよ、いきなりおかしな鳴き声が聞こえたんですぐに飛び起きて屋根の上から確かめたんだ。すると、西にでっかい触手の化け物が出てたんだ。俺はすぐにみんなを起こして触手の奴を倒しに行ったってことだ。」とカイロは説明した。「あ〜、後、プルテニス。ジーフは死ぬためにここに来たっていうお前の推測は正しかったらしいな。奴は死んで触手の化け物になり、俺達を襲うためにここに来たらしい。その証拠に触手の本体はジーフの死体だった。」と続けて言う。俺もそれまでにあった事をカイロ達に説明した。そして、タネンの首を消し飛ばした事も謝った。それに対して「そうか……タネン先生の首にも細工が……でも、それで良かったかもな。」と、カイロは少し寂しそうに言った。そこで気付いたんだが
何かに見張られている気がする。
その時、アラマイヤが俺に近づいてきて俺の右足に剣を突き立てた。俺は少し驚いたがすぐに理解した。俺の右足にはあの触手が寄生しようとしていたらしい。俺の右足は少し腫れ上がったが触手自体はアラマイヤが切り落としてくれたのだ。「全く、貴方もまだまだ未熟ですね。」やれやれといった感じに笑いながら言ってきた。「すみません。俺もアラマイヤさんみたいに集中力をつけないといけませんね。」俺は右足を曲げたり伸ばしたりしながら言った。すると、アラマイヤが俺の顔を覗いているのに気付いた。「あの…どうしたんすか?」と聞くと、アラマイヤはわざとらしい咳をしながら「い、いえ、その……貴方は私の弟弟子で、私は貴方の姉弟子ですから……えっと……私の事をこれからは……姉……と呼んでもらってもいいかな……と、思いまして……」と、いきなり目を逸らして言った。心なしか彼女が赤面しているように見えた。俺はからかってやろうと思って「じゃあそうさせて貰いますよ。アラマイヤ姉さん……」と言おうとしたが、俺も恥ずかしくて姉さんというところが限りなく小さな声になってしまった。しかし、その場にいた全員に聞こえていたらしく、みんな目を点にして俺を見ていた。アラマイヤに至っては自分の発言を後悔したらしく、額に手を当てて俯いていた。カイロが沈黙を破り「お前、意外と素直なところあるんだな……」と、苦笑いしながら言ってきた。
「うるせぇ!早く朝飯食ってムドゥルの奴を探しに行くぞ!!」………え?
「って、ムドゥルて誰だっけ?」俺はすぐにみんなに問う。キュルキュロスは何やら厳しい眼差しで俺を見てきた。「何故、今ムドゥルの名が出てきた……」厳しい口調でキュルキュロスが言ってくる。
「い、いやぁ、なんででしょうね?なんか、勢いに任せて言葉を出したらたまたま名前が浮かんできて……」
「ムドゥルって、まさかあのムドゥルアルギュエスのことじゃあねぇだろうな!?」カイロが肩を掴んで言ってきた。
「そ、そうだ!そいつだ!」
「馬鹿言え!あの人に何の関係があるってんだ!国王専属の凄腕魔術師だぞ!?」
「プルテニス、気は確かか!?」ホースまで詰め寄ってきた。
キュルキュロスはイリスに何か耳打ちしているのが見えた。するとイリスは俺に近づき、俺に少し屈むように指示を出した。そして、イリスは俺の頭に手を乗せ、何かを唱え始めた。
「………やはり……これは……かなり複雑な記憶処理魔法がかけられてますわ!」途切れ途切れに言う。
「解かそうですかな?」とキュルキュロス。
「少し時間はかかりますがなんとか……」
俺はキュルキュロスから動かないように言われた。イリスは顔を眉をひそめ、汗を流している。俺は今の状況が理解できなかったが、それはキュルキュロスとイリス以外の全員が同じらしい。
次の瞬間、俺の頭の中で何かが破裂するような音がして一瞬何も見えなくなった。そして、思い出した。昨晩の事を。
「そ、そうだ……俺は……」
「なにがあった。プルテニス。」
「ムドゥルアルギュエスがここに来たんだ……確か、夢があるだとか、俺が原始的だとか、後は……俺が研究対象ってのと俺が邪魔だってこと……後は俺達を……見ている事にするって……」言っている内に足が震え出した。俺以外の全員は絶望した表情をしている。
「嘘だろ……あの、白銀の魔術師ムドゥルに狙われたのか……ハハッ……道理でここまで大事になるわけだ…」ホースが言い出す。
「プルテニス……すまない……私がお前を…討伐隊に引き入れたばかりに……」キュルキュロスはらしくない様子で俯いて言った。
「師匠……ムドゥルについて、教えてください。」
「プルテニス、お前……いや、いいだろう。ムドゥルアルギュエスとは、カイロが言っていたように国王専属の魔術師だ。国でも最大の魔力を持つ生まれながらの天才かつ秀才で独学で編み出した魔法を扱うらしい。本人は魔術と呼んでいるが…とにかく力の底が知れない者だ。出身も血縁者も全くの謎だ。私も王宮で遠目に見たことがあるがなにかとてつもないものを感じた。実際に会話した者は近づくだけで狂気に陥るとか……お前、よく無事だったな……」
「そんな謎な人物でありながら王宮内での信頼は深く、あらゆる機関に関与しているとも聞きます。」アラマイヤが付け足す。
「本当にムドゥルはお前を研究対象だと言ったのか?」
「はい、同時に邪魔になるとも言ってました…」
「なるほど、ならば少なくともお前はムドゥル本人が殺しにくるだろう。」
「ま、お前が厄介なのに絡まれるのは昔からだもんな。付き合ってやるよ。」少し間を開けて開き直ったようにカイロが言う。
「今更お前を見捨てる理由もないしな。」ホースも続く。
「私の弟ですからね。姉が弟の後始末するのも必然的でしょう。」本当の姉弟みたいに言うなよ。と心の中で思いながらも感謝した。
「決まりだな。イリス殿とシテナはどうします?貴女方を臆病というつもりはないが、安全の為に逃げるというのも一つの手段ですぞ。」
「冗談じゃありませんわ!そんな実力者とお手合わせできるなんて滅多にない事ですもの。ついでに彼の魔法の秘密も盗んで差し上げますわ!」
「私もです!せっかく第六討伐小隊に入ったんですよ!私もお役に立ってみせます!」
俺は唖然としていた。俺の体験とキュルキュロスの話から察するにムドゥルが強敵というレベルでは済まない事は重々承知のはずなのに。
「マジで……この隊、イカれてやがる……」涙を流しながら呟いた。おい、とカイロが呼んだので見てみると「カァー……ペッ!」と痰を俺の顔面に吐いてきた。「ウゲェ!何すんだ!!」
「涙を洗い流してやっただけだ!知らねぇ仲じゃねぇんだ!泣くんじゃあねぇよ!」俺は奴が喋ってる間に顔を洗いに言った。
「テメェ!俺の言ってたこと聞いたか!?」
「お前が痰なんて吐かなけりゃ聞いてたさ!普通に言えや!」
「お前ら!さっきまでの雰囲気が台無しだろうが!静かにしろ!」ホースが今にも喧嘩を始めそうな俺達を止めに入ってきた。
その時、冷たい拍手の音が日の出と共に鳴く鶏の鳴き声に混じり聞こえてきた。