忘却
文の構成を変えてみました。今までの方が良いと思う方には申し訳ないと思います
「ハ……!しまった…寝てた…火はどうなった…」と俺は寝ぼけながら起き上がる。火は小さくはなっていたが消えてはいないようだ。空を見上げると月がかなり傾いている。夜明けまで2時間というところだろう。俺は寝返りを打ったせいか寝袋から飛び出しているカイロを元の場所に戻してやった。
しばらくするとイリスが「OH COLD!とてもじゃなくとも眠れませんわ!」と起き出してきた。
「すいません、イリスさん。俺も寝込んじまったらしくて火が弱まってしまったんです。」と火を眺めながら謝った。「え?それではプルテニスがずっと火を見張ってらっしゃるので?」
「まあ、そんな感じっすね。お茶入れたんで飲んでください。」陶器製の鍋を持ち上げながら言った。
「あれ?空だ。さっきまであったってのによ。すぐ入れてきますんで待っててください。」俺が走っていこうとすると、「いや、いいんです。私は火に当たってるだけで十分なので。」と引き止めてきた。
「そうっすか。すみません。」と謝る俺にありがとうと言いたげに優しい笑顔を向けてきた。
「昼間は情けない姿を見せてしまいましたわね。」
優しい笑顔が苦笑いに変わり言い出した。
「いえ、あれが普通の反応ですよ。逆に今まで謎だらけの魔女だったイリスさんが人間らしいところを見せてくれたんでホッとしましたよ。」
「あらあら、お上手。」と、再び優しい笑顔が戻った。
「ん〜……さっきまで起きてたんすけどね〜カイロの奴。」
「無理もありませんわ。昔からの知り合いが……ウッ…!」口を手で押さえて頭を下げる。俺はすぐに近づこうとしたが、イリスはもう片方の手を突き出して俺を制止する。
「ふぅ…」と一息ついた。
「この前は黒の連中を纏めて丸焦げにしてたじゃないすか。」
「生首はわけが違いますわ……それにあの首には……」
「首には……なんすか?」と聞こうとした瞬間、腹の底に響くような禍々しい叫び声が聞こえた。
俺とイリスは顔を見合わせて屋根に登ると、民家の隙間から触手がチラついているのが見えた。
俺はその方向に向かって屋根をつたっていったが、後ろからイリスが何か言ってきた。耳を済ませていると「プルテニス待ってくださ〜い!私も行きま〜す!」と言っているのが聞こえた。俺は一旦戻り、イリスを担いで触手の方へ向かっていった。
屋根から飛び降り、全長5mはある触手の化け物と対面すると俺は驚愕した。触手の中にタネンの首が埋まっていたからだ。いや、埋まっていたというよりはタネンの口から触手が生えていた。見た目に衝撃を受けていると触手は容赦なく攻撃してきた。無数の灰色の触手を振り回して俺を捕らえようとしてくる。俺は屋根の上に戻り、担いでいたイリスを下ろして「屋根から魔法で攻撃をお願いします。俺が引きつけるんで。」と早口で言って飛び降りようとした時に触手攻撃の内の一本が俺に命中。地面に叩きつけられた。その威力は尋常ではなく体が地面に数㎝埋まるほどで、一瞬だけ意識が飛んだ。
次の攻撃が来る前に俺は跳ね起きた。すると目の前に複数の触手が迫ってきていた。ヌンチャクを取り出し、触手を受け流したり切断したりしてなんとか注意を俺に向ける事ができている。その間にも奴の体は燃えたり、凍ったり、電気が流れたり、岩に挟まれたりしていた。効いているのか分からないがとにかく俺は奴の攻撃を避け続けて、イリスは攻撃を続けていた。しかし、氷点下の中での動きにも限界があり、俺の動きは次第に鈍くなっていった。遂には片足を掴まれ壁やら地面やらに叩きつけられた。ヌンチャクからも手を離してしまいかなり焦った。
イリスとなんとかしようと攻撃を続けていたが触手は次から次へと伸びてキリがない。
何か倒す方法はないものか。そう思い、朦朧とする意識の中で奴を観察する。タネンの首から触手が生えている。触手は何度も生え続ける。となれば…
俺は振り回されながらイリスを見つめた。イリスも俺の伝えたい事を理解したらしく力強く頷いた。
力の入りにくい手に無理矢理力を込めて触手を掴み、地面に叩きつけられる瞬間に掴まれていない方の足を地面に突っ込み固定。俺を掴んでいる触手を引きちぎり、背負い投げの形で奴を投げ飛ばした。
イリスはそれに合わせて彼女のとっておきという技を使った。いや、使ったと思う。次の瞬間、タネンの首は粉微塵になり、触手も灰になった。
「カイロには悪い事したな……」足を引っこ抜きながら言う。「彼も分かってくれますわ。それにしても……相変わらずのタフネスですわね。」俺の体を眺めながら言った。
「結構痩せ我慢なところはあるんすけどね。……早く戻らないと火が消えてるかも……」イリスを担ぎながらそう言い、屋根をつたって帰る。
道場に帰って俺はまたまた驚愕した。誰もいない。
火も消えている。俺は軽いパニックに堕ちいり、道場のあちこちを歩き回った。
イリスは落ち着いた様子で月の落ちる方向を向いている。一体、何が起きたのか、俺は行動するよりも頭を抱えてしまった。