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「なんと言いますか……、あのお嬢様はフランシア様と違ってとても純粋で、活発な方ですね。

 フランシア様は僕やリレイアン様のことを優しく見守っていてくださいましたが、どこか影がありましたから。

 それにミレティア様のあの瞳の色……。

 今までは正直、なぜフランシア様が家を出でいかれたのか分からなかったのですが、ミレティア様を拝見してやっとわかりました。

 確かに、蒼の瞳を持っていらしてはどのような扱いをされるかわかりませんでしたね」


「おそらく、そのような事情がおありだったから、決心したのだろう。

 時期的にもそうと考えれば納得がいく」


 これからのことを思い、二人は深々とため息をついた。



「どうでしょうか?」


 少しするとミレティアが着替えて戻ってきた。着替える前よりも重くなっている空気にミレティアが首をかしげる。しかし、二人の表情はミレティアの姿を見た途端、一気に明るくなった


「とても似合っているよ」


「素敵です!」


 ミレティアは二人の大げさな反応に苦笑いしながら、くるりと周り改めて自分の服を見てみた。あまり、派手ではないデザインで、スカートの部分はふわりとするが、ひらひらと邪魔になるわけではない。加えて、一見重そうに見えるこの服は着てみると案外軽かった。

 一体どのような素材で作られているのか聞くのも恐ろしい。


「このような素敵な服をありがとうございます。

 あの、本当に頂いて大丈夫なのですか?」


 恐れ多いと言うような、ミレティアの態度に今度はリレイアンが苦笑する。オレガはミレティアがそのような反応を示したことに驚いていた。


「ミレ、ミーア様はサンタリア家の当主であられるのですよ?

 サンタリア家の財産は本来ならすべてあなた様のもの。

 そのように、気にする必要は一切ございません。

 むしろ、その服は普段当主様が身に着けているものに比べたら安価なぐらいです」


 オレガの言葉にミレティアは固まった。ここに来てから何度、このような感覚に襲われただろう。この国は富の分配を間違えているのではないか、そう思えてきた。

 ミレティアの暮らしていた下町は、そこまでひどい暮らしをしているものはいない。仕事や、帰る家がある者がほとんどだ。

 しかし、いわゆるスラム街に行くと道に寝ている人や、その日の食にありつけないものも多いと聞く。

 それに比べて、この国随一の貴族は無駄に財を使って暮らしているという。その財さえあれば、どれほどの人が助かるのだろうか、そう考えるとミレティアはだんだん腹が立ってきた。


「その日食べるものに困る民もいる中で。

 ……許せないわ」


 ミレティアが静かにそう呟くと、二人は顔を見合わせた。


「それは、スラム街のことを言っているのかい?

 スタリーン王国は他国に比べるとそのような暮らしをしているものは圧倒的に少ないよ。

 国に、炊き出しをしたり、職を斡旋したり、孤児を保護したりすることを専門とした部署があるからね。

 知っていると思うが、この国は肥沃で、栄えているから。

 だから、そのような対応ができているんだ。

 その日、食べるものに困るような民は他国には多くいるようだが……」


 そのリレイアンの言葉に、ミレティアは表情を暗くした。前にリレイアンは我が国の繁栄はサンタリア家当主が支えていると言っていた。つまり、自分が田舎に行ってしまったら、それは成り立たなくなる。

 やはり、自分はサンタリア家に行くべきではないか、ミレティアはそう思い始めていた。


「さて、私はこれからオレガといろいろ話さなくてはいけないから、ティアは休んでいてくれ」


 リレイアンはそう言うと、オレガを伴って自室へと入っていく。ミレティアはその様子を見て、服を着替えようと自分も自室へと入った。


*****************

「家の様子はどうだ?」


 部屋に入るなり、リレイアンはいきなり本題を聞いてきた。


「まだ、君たちを探しているみたいだよ。

 フランシア様達の家に突入しに行ったら、誰もいないからカトレア様は相当お怒りのご様子だ。

 ソラトレン様は、まあ、カトレア様に言われてしぶしぶ動いている感じかな。

 君がミレティアを連れて逃げているというのは分かっていらっしゃるようだが、僕に見張りをつけていないし、特に積極的には見つけようとしていないようだ。

 もちろん、カトレア様の命でミーア様が暮らしてらっしゃった下町で聞き込みなどをしているようだが、めぼしい情報は得られていないみたい。

 それで、余計カトレア様はお怒りで、今は皆近づきたくないって言っている。

 どうやら、下町の者たちがミレティア様をかばっているようだ」


 オレガからの報告に、リレイアンは考え込んだ。

 

(カトレア様が怒り狂っているのは想定通りだが、父上がそこまで無関心を貫くとは思っていなかった。

 喜ばしい誤算だ。

 加えて、下町の者もミレティアをかばっているという。

 私があの家に出入りしていることを、周りの者は知っていただろうし、ここに移動する際にも目立つ馬車を使ってしまった。

 すぐに馬車から私たちの跡を追って来るかもれないと考えていたが……。

 ティアの今までの付き合い方が功を奏したようだ)


「おーい、リーレ? 大丈夫か?」


 黙りこくったリレイアンにオレガが話しかけてくる。オレガは他に人がいると様をつけ、丁寧な言葉遣いをしてくるが、二人きりになった途端、急に態度が砕ける。

 跡継ぎではないとはいえ、サンタリア家の中枢の人間であるリレイアンにそのような態度で接してくれるものは少ない。口にしたことはないが、オレガの態度にリレイアンは感謝していた。


「いや、思っていたよりも事態は悪くなさそうだと思ってな。

 叔母上には申し訳ないが、このまま逃げさせてもらおう。

 出立は明後日で大丈夫そうかい?」


「たぶん、大丈夫じゃないかな。

 まあ、ここがいつ見つかるか全くわからないから、油断は禁物だけど。

 じゃあ、また明後日迎えにくるよ。

 馬車は一台でいいね。

 乗り心地が悪くても文句言うなよ」


 オレガの言葉にリレイアンは曖昧に返事をした。普段乗る馬車と言えば、座席にふかふかのクッションを取り入れ、揺れてもお尻が痛くならないような高級車だった。

 それに比べて前回、ここに来る際に使った馬車の乗り心地は決して良くなかった。また、あの馬車に、しかも長時間乗らなければいけないのかと思うと、リレイアンは少し憂鬱になった。


「じゃあ、そろそろ帰るね。

 ミーア様によろしく」


 立ち上がったオレガを見送るためリレイアンも立ち上がる。リレイアンは無事にオレガが帰っていくのを見届けると、再び自室に戻る。

 リレイアンはうまくいってくれ、とフランシアに願わずにはいられなかった。




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