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 朝、自然に目が覚める。部屋に陽が入らないといっても、朝市のための長年の習慣はしっかりと機能した。

 ミレティアは目をこすりながらさっと身支度を整えると台所へと向かう。そしてすぐに豊富なパンの量に驚いた。

 今まで、その日食べる分を毎朝買っていたミレティアは、このようにまとまった量のパンを買ったことがなかったのだ。

 そして、次に冷蔵庫を開けてみると……。

 所狭しと高級そうな食材が詰まっている。


 ミレティアは一瞬目の前が真っ暗になった気がした。


(いったいこれは何日分の食材なの?

いったいこれ全てで何日暮らせるの。

これが、サンタリア公爵家の普通……)


 圧倒的な金銭感覚の違いを思い知らされて、改めて自分なんかがそんな家の当主な訳がないとミレティアは感じていた。気を取り直し、再び食材に向き直ると、何を作ろうか悩む。

 ずっと公爵家で暮らしているリレイアンの口に合うかはわからないが、ミレティアが作れるものはかぎられている。

 何せ、ミレティアの暮らしでは買えるものはかぎられているのから、自然と作るものも限られてくるのだ。

 仕方がないので、スクランブルエッグとソーセージを焼き、パンを二つトースターに入れる。

 トースターからは早くもパンのいい香りが漂っていた。手早く朝食を作り、食卓に持って行くとリレイアンが起きてきた。


「おはよう、ティア。

 本当に朝食を作ってくれたんだね。

 ありがとう」


「昨日、お約束しましたから。 

 こんなものしか作れませんが……」


 リレイアンはそんなミレティアの様子に十分だよ、というとさっそく食べ始めた。


「おいしいよ、ティア!」


 にっこりと笑いながら、とても褒めてくるリレイアンにミレティアは少し照れていた。少しして、リレイアンにならいミレティアも食べ始める。


「!」


 昨日と同じようにミレティアは驚きに固まった。いつもと同じように作ったはずの朝食が、いつもより格段においしいのだ。

 朝市のものは作りたてである、買ってすぐはおいしいのだが、時間がたつと味が落ちる。しかし、今目の前にあるものは作りたてでないにも関わらずとてもおいしい。


(これが、お金の力……)


 そんな、表情豊かなミレティアをリレイアンは楽しそうに眺めていた。


 朝食の片づけも終わり、お茶やコーヒーを用意する。席につくとリレイアンはまっすぐにミレティアを見つめた。

 先程まとっていた穏やかな雰囲気とは違うリレイアンの様子にミレティアの表情は強張った。


「さて、お腹は満たされたし、昨日よりは落ち着いたね。 

 昨日はほんの少ししか話せなかったし、ティアにも色々聞きたいことがあるだろう。

 でも、まずは私の話を聞いてくれるかい?」


 リレイアンの真剣な様子にミレティアはしっかりとうなずいた。


「どこから、話そうか……」


 リレイアンは少しの間、目を閉じて悩むと意を決したように目を開けた。


「やはり、まずはサンタリア家のことかな。

 サンタリア家はこの国唯一の永久公爵家。

 それは知っているんだよね」


 確認するようなリレイアンの言葉にミレティアはうなずく。


「もちろん、サンタリア家が永久公爵家であるには理由がある。

 それは昨日も話したと思うけど、サンタリア家が、というよりも当主の役目がスタリーン王国の繁栄の理由だからだ。

 つまり、この国の肥沃な土地を支えているという意味でもある。

 それほど、サンタリア家当主のお役目は大切なんだ……」


 リレイアンは一度、言葉を区切ると深くため息をつき、コーヒーを一口飲んだ。ミレティアもお茶を一口飲んだが、とても落ち着いた気分にはなれなかった。

 役目とは何をするのかわからないが、この国を支える大役を私なんかにできるわけがない。

 ミレティアはそんな思いだった。


「フランシア様がいなくなったときからサンタリア家は役目を果たすことができていない。

 役目を果たす人に代わりなんていないからね。

 私は長い時をかけてフランシア様を探した。

 親族は連れ戻すために血眼になって探していたが、私は違う。

 ただ、聞いてみたかったんだ。

 どうして、役目を放棄したのかを……。

 やっと見つけたと思ったら、君という娘がいて本当に驚いたよ。

 もう後継者は生まれていたのかと。

 後継者が生まれて、力の譲渡が終わると前当主はゆっくりと力を失う。

 その結果、亡くなってしまうんだ。

 だから、君を見た瞬間、フランシア様はもうすぐ亡くなってしまうとわかっていたんだ。

 だが、以前フランシア様は、それが自分の定めだと受け入れていらした。

 後悔はないはずだよ」


 リレイアンの言葉にミレティアは驚き、固まった。それでは、まるで自分が母の命を奪ったようではないか、と。

 しかし、思い返してみると母はたまに、自分の死を予期していたのではないかと思うような行動をすることがあった、とミレティアは思った。

 ミレティアが幼いころから、料理に洗濯など生活に必要なことはできるだけ自分でやらせていた。加えて、ミレティアが6歳ほどになると商売の仕方についても教えてくれた。そのおかげで早くに母を亡くしてもなんとか自分の力で生きて来られた。


(お母様は、わかっていらした?

 自分がもうすぐ亡くなることが……。

 私がお母様の命を奪ってしまったの?)


「大丈夫か、ティア」


 リレイアンの手がミレティアの頬に触れる。そのとき初めてミレティアは自分が泣いていることに気がついた。

 リレイアンはそっと席を立つと、ハーブティーを入れて戻ってきた。


「これを飲むといいよ、きっと落ち着く。

 フランシア様は本当にティアを愛していた。

 そのことに自信を持って」


 リレイアンの言葉にミレティアはまた涙をこぼすと、そっとハーブティーに口をつけた。



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