3
リレイアンが立ち止まったのは一つの建物の前だった。その建物はまわりに建っているものとなんの変化もなく、間違って隣の建物に入ってしまってもおかしくない。
すたすたと中に入っていくリレイアンの後ろについて、恐る恐る建物の中に入ると造りは広々としていた。
鍵を閉めてから、リレイアンは二階へと上がり、一番広い部屋に入った。外見は少々古びでいたものの、中は手入れが行き届いていて、とても清潔感があった。
窓から日光が入ることがないものの、リレイアンが部屋の中心に置かれていた燭台に火を灯すと部屋は柔らかな光に包まれる。座ると軽く沈んでしまうほどふかふかな椅子にお互い座り一息つくとリレイアンは話し始めた。
「この建物は僕が別名義で借りているものだ。
きっとすぐには見つからないから、しばらくはここで暮らそう。
そして、今後のことを考えようか」
怒涛の一日に疲れ切っていたミレティアがそれに反論することはなかった。リレイアンは家のことを軽く説明すると、最後にミレティアの部屋となるところを紹介した
部屋をのぞいてみると、生活に必要なものはすでにそろえられていた。
僕の部屋は隣だから、というとリレイアンはミレティアをその部屋に残して自分の部屋へと向かう。一人残されたミレティアは力なくベッドに倒れこんだ。
この家にある物はすべて元の暮らしでは考えられないほどの高級品なのだろうな、ということをぼんやりと考えながら、ミレティアは静かに目を閉じる。
いつもならば今は木の世話をした後、お昼の時間だろうか。今日も繰り返すはずだった日常はもう手の届かないところにあるようだ。少しの間、そうやって日常に思いを馳せたあと、ペンダントを取り出した。
ペンダントの表に記されているのは国と皇族そして、サンタリア家を現すという星、月、太陽が彫られている。それをじっくりと眺めてから、ゆっくりと蓋を開けた。
蓋の裏側には古代文字で、ある文章が彫られていた。その文字の読み方は遠い昔、母から教わったものだ。
ミレティアは何度も見返したその文章を再び読み返してみた。
『太陽は月を照らし、星を照らす。何よりも輝きをはなつ影の存在。我らの役目を忘れるな』
今までは何度読んでも意味が分からなかったその文章が急に意味を持ったように思えた。
「いったい、お母様は私にどうしてほしかったの……?」
つぶやくも答える声はもちろんない。どうして、とつぶやきながらミレティアの意識は沈んでいった。
*****************
急なノックの音にミレティアは目を覚ました。慌てて扉を開けると、リレイアンが立っていた。
「にい、さま?
どうされたんですか?」
「ふふっ。
寝ていたのかい、ティア。
ご飯ができたのだか、食べれそう?」
リレイアンに笑われたことで、ミレティアは顔を赤くした。それも、リレイアンの後ろの机にのっているおいしそうな料理の数々を目にするとすぐに忘れ去ってしまった。
ミレティアが料理に目を奪われていることに気がつくと、リレイアンはミレティアの手を引いて、椅子に座らせる。
「兄様、これ、どうされたんですか?
とってもおいしそう!」
ミレティアの素直な反応に、リレイアンはミレティアの頭を優しくなでた
「私が作ったんだよ。
材料は乳兄弟のオレガが持ってきてくれるから安心してくれ」
「兄様、お料理できたのですか!?
すごい!!」
「いつか、こんな風にティアと暮らすことになると思っていたからね。
ティアのために練習したんだよ?
ほら、温かいうちに食べてくれ」
暮らすという言葉にミレティアは今の状況を思い出し、再び赤面した。それを隠すようにおそるおそる目の前の料理に手を伸ばす。
「!!」
あまりのおいしさに言葉を失ったミレティアにリレイアンはほほえんだ。
「おいしいかい?」
リレイアンの言葉にいまだ言葉を失っているミレティアはこくこくとうなずく。
少しして、ミレティアはようやく口を開いた。
「おいしいですわ、兄様!
兄様は何でもできるのですね」
「そんなことないよ。
でも、満足してもらえたようでよかった」
その後は談笑しながら、二人は残りの料理を食べた。
「兄様、明日の朝食は私がつくりますわ」
ミレティアは食べ終わると、そんなことを言いだす。
「じゃあ、頼もうかな」
やる気に溢れているミレティアを見てリレイアンはそう答える。
「あの、今は何時でしょうか」
ミレティアのその言葉を聞くと、リレイアンは申し訳なさそうにしながら、時計を取り出した。
「今は夜の8時だよ」
「もう、そのような時間なのですね。
陽が入らないので、全然わからなくて……」
「すまない、ティア」
暗いリレイアンの様子にミレティアは首を傾げた。
「詳しい話は明日しよう。
今日はもう疲れただろう?
ああ、下には決して行かないでくれよ」
リレイアンはそう言うと食器を片付け始める。ミレティアも慌ててリレイアンを手伝いその日は解散となった。




