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一週間はあっという間に過ぎた。
「次のときは、向こうへ泊るわ」
前回、扉から出た後、そう言うと皆かたまった。この国は今そんなにも危機なのか、と。それにミレティアは慌てて否定した。危険な状態ではあるかもしれないが、青ざめるほどではないためだ。
少しやることがあって、と言葉を濁しつつ何とか皆を納得させた。
そして当日、あれもこれもと持たせようとする侍女たちを断りながら、最低限必要なものだけをもってミレティアは屋敷を出た。
王宮に着くと、ミレティアはばったりとフィカルトに会った。
「ミレティア殿、元気になられたようで何よりだ。
本日も役目を果たしに?
ありがたいことだ」
「はい、今から向かうところです。
熱を出した際は、お見舞い品をありがとうございました」
「よい。
ミレティア殿のおかげで、我が国の農作物は持ち直すことができそうだからな。
その荷物、今日は泊まりか?」
はい、と答えるミレティアに無理はしないように、と言ってフィカルトは去っていった。久しぶりに会った父親に、ミレティアは少し緊張しながらも笑顔になった。
もう一度ゆっくりと話したいが、今はそういうわけにはいかない。
マリアンナたちに急かされて、ミレティアは慌てて歩き出した。
「リュクドリーン!
今日、この国の話をしてくださるのでしょう」
《わかった、わかったから。
ひとまず、こちらにおいで》
リュクドリーンに呼ばれて行ったのは、川の近くだった。水の香りや、木の香り、フルーツの香りなど様々な香りが丁度よく混じっていて落ち着く。
ここはミレティアのお気に入りの場所でもあった。川はどこまでも透明で、底はしっかりと見える。
ミレティアはよくここに入ってみたい、と思っていた。
《とりあえず、魔力をもらってもよいか?》
その言葉に、ミレティアはすぐにリュクドリーンに魔力を渡す。
「リュクドリーン、ここに入ってはだめかしら。
いつもあなたが入っているのを見て、とても気持ちよさそうだと思っていたの」
リュクドリーンは呆れたようにミレティアを見た。
《ダメとは言わないが、少し危ないかもしれないな。
我がここに入るのは必要なことだから、入っているのだ》
「必要?」
《この川に我の魔力を溶かしているのだ。
これは国の地下のいたるところに張り巡らされているかなら、効率よく魔力を送ることができるというわけだ。
ミレティアがここに入ると、もしかすると水に魔力を取られるかもしれない》
そんなことを言われ、ミレティアはすっかり入る気をなくした。そんなミレティアをおかしそうに見ながらも、リュクドリーンは川へと入っていく。そしてその場に伏せると、じっと動かなくなった。
その様子を見ていると、ふと川一面が淡く輝きだした。しばらくそうしていると、リュクドリーンはのそのそと川から出ていくぞ、と家へと歩き出した。
途中の木になっていた果実を器用にとると、リュクドリーンはいくつかを私に渡してきた。泊りということでさっと食べられるものは持ってきていたのだが、果物もあると確かにありがたい。
「ねえ、リュクドリーン。
早く話を聞かせてよ」
家に入り、果物を食べながら一息つくと、ミレティアは早速話をねだった。もうずっと我慢していたのだ。
≪まあ、待ちなさい。
寝物語に、といっただろう?》
確かにそういったが、とむっとするミレティアをリュクドリーンは優しく見つめていた。
「では、また書庫にいます」
ここにいてもやることがないとわかると、ミレティアはすぐに書庫に向かった。フランシアの日記は読めたが、できれば過去にさかのぼって読んでみたいのだ。そして、きっと自分もこうして記録を残さなくてはいけないのだろう、そう考えていたのだ。
早速、フランシアが残したミレティアの日記、その一ページ目をめくるとまずは自分のことを書き始めた。自分の容姿、両親、今までの暮らし。そして、こうして当主となったことに戸惑っていること。慣れない古代文字でそれらを書いていると時間はあっという間に過ぎていった。
持ち込んだ軽食を食べ、軽く身を清めるとミレティアはすぐにベッドへと入っていった。
「さあ、聞かせてください」
誰かの声を聴きながら眠るなどいつぶりだろう、そうワクワクとした瞳をリュクドリーンに向けると、苦笑したような気配がした。
≪わかっておる。
長くはなるが、最後まで聞いてくれると嬉しい》
そう前置きをして、リュクドリーンは語りだした。




