18
どれほど寝ただろうか、ミレティアはノックの音で目を覚ました。
「ミレティア様、入ってもよろしいですか?」
「は、はい」
聞き覚えのある声と共に入ってきたのは、オレガだった。
「え、あの、どうしてでしょうか?」
「お久しぶりです、ミレティア様。
本日は、リレイアン様に頼まれて参りました」
「お兄様!?」
驚いているミレティアにオレガが微笑んだ。
「近頃、ようやく向こうでの暮らしが落ち着いてきたもので。
リレイアン様はずっと、ミレティア様のことを気になされていたのですが、なかなかこちらの情報がつかめなかったのです。
やっと情報が入ってきたと思ったら、ミレティア様が当主につくというものでした。
それを知ったときのリレイアン様といったら……。
本来ならば、リレイアン様本人がこちらに来たかったのですが、それはとてもできず、仕方なく僕が代わりにきました」
「あの、兄様は元気でしょうか。
それがずっと気がかりで」
「リレイアン様はお元気ですよ。
ミレティア様もお元気そうで本当によかったです」
リレイアンが元気にしている、それを聞いたミレティアは嬉しくなった。
「今はまだ無理ですが、いつか、いつかきっとミレティア様とリレイアン様はお会いできます。
その時まで、それぞれの場所で最善を尽くそう、そうリレイアン様はおっしゃっていました」
オレガのその言葉にミレティアは何度もうなずいた。
「失礼いたします、ミレティア様。
お夕食をお持ちしました」
「では、僕はこれで。
こちらに馴染んでおられるようで安心したしました。
リレイアン様に良い報告ができそうで良かったです」
マリアンナが入ってくると同時にオレガは出て行く。ミレティアはオレガの背に一つ礼をした。
****************
翌朝、起きてみるとミレティアは体のだるさを感じていた。どうも、頭がボーっとする。
「おはようございます、ミレティア様」
そう言って入ってきたマリアンナは、ミレティアの顔を見て固まった。
「ミレティア様、お顔が赤いのですが……。
少々お待ちください」
戻ってきたマリアンナの手には体温計が握られている。熱を測ってみると、高熱だった。ここ最近の疲れに加えて、昨日は気を失うまで魔力をとられた反動である。
どうしよう、とミレティアはため息をついた。
「とりあえず、お医者様をお呼びして、お薬を処方していただきましょう。
本日も王宮に行かれるのでしょう?」
ミレティアはマリアンナの言葉にうなずいた。
マリアンナに呼ばれた医者に見てもらうと、疲れからくるものだろうと言われた。 よく休むようにという言葉と薬を置いて、医者は帰っていった。
薬を飲んだ後、昼食をとるまで休んでいたが、熱はなかなか下がらなかった。今日は早く帰らせてもらおう、そう考えながら支度をすます。
「ミレティア様、お気を付けくださいね」
マリアンナやほかの者たちに心配されながら、ミレティアは部屋へと入っていった。
《ミレティア、よく来た。
おや、どうした?》
入った瞬間、リュクドリーンが出迎えた。そして、ミレティアが辛そうにしていることにすぐ気が付いた。正直ミレティアは立っているのもつらい状態だった。
「その、風邪をひいてしまいまして。
ですから、今日はなるべく早く帰らせていただければと」
《無理をさせてすまなかった。
少し魔力を分けてもらえれば、今日はもう大丈夫だ。
次は体力が回復したら来てくれ》
ミレティアは、リュクドリーンの腹に手を当て昨日と同じように魔力を移す。ミレティアが少しこつをつかんだことと、リュクドリーンが昨日ほど魔力をとろうとしなかったため、今日は気を失うようなことはなかった。
《では、また今度な》
リュクドリーンの言葉にミレティアは礼を言うと、外に出た。
「ミレティア様!?
もうよろしいのですか?」
驚いた皆の言葉にミレティアは微笑みながら、帰りましょうと言った。
ミレティアはマリアンナに支えられながら、何とか屋敷へとたどり着いた。自室へと帰ると、ミレティアはすぐにベッドにもぐりこむ。もともと無理をしていたあり、ミレティアはすぐに眠りへと落ちていった。
***************
「お母様、この文字はなに?」
「これはね、古代文字といって今は使われていないものなの。
母様、ティアにはこの文字を覚えてもらえたいな」
「覚える!
教えて?」
これは、夢?
お母様がまだ元気でおられるし、私も小さい。懐かしいな、三歳くらいかしら。
「まずは、このペンダントに彫られているものから、教えてあげるわね」
そういうと、お母様は紙にペンダントの文字を移すと、その上に現代の文字を振っていく。そう、お母様はこうやって丁寧に古代文字を教えてくださったんだ。
まだ、文字を覚えたての私には難しくて、何度も分からなくなったけど、あきらめずにお母様は教えてくださった。そして、いつも最後にこれは母様とティアだけの秘密の文字よ、というのだ。
その響きが幼い私にはとても楽しかった。
本当に懐かしいな。
ねえ、お母様、私いろいろ聞きたいことがあるのよ?
試しに大きな声で母を呼んでみても、こちらを振り向くことはない。
ねえ、お母様が覚えてほしいと言ったのは、いつか私があの扉を開こうとする日が来るとわかっていたからなの?
どんなに問いかけても、答えてくれることはなかった。




