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「ねえ、マリアンナ。
当主の役目ってどのようなことをするの?」
「それは、明日わかることです。
当主以外誰も知らないというのはご存じでしょう」
マリアンナはミレティアが正式な当主となった後、少しずつ気を許してくれるようになった。使用人にも声をかけると、以前と言葉は同じでも、伝わってくる感情は変わってきていた。その変化がミレティアには、ようやく認められたようで一番嬉しかった。
マリアンナの答えにミレティアが少しむっとしていると、ため息をつきながら、仕方ないとばかりに口を開く。
「あくまで、噂ですよ。
噂で、当主しか入れないところに龍神様をお奉りした祠があり、そこで神と対話する。
その後、神の許しがでるまでお祈りを捧げるというのを、聞いたことがあります」
それを聞いたミレティアがお祈り、とつぶやく。少しすると、ミレティアがそれなら出来そうだわ、と微笑んだ。
翌日、ミレティアは王宮へと向かっていた。役目を果たす場所というのは、王宮に存在する。
今日は身を清めた後、いつもとは少し違ったドレスを着せられた。なんでも、役目を果たすときは決まった服があるといわれたのだ。慣れない服に、ミレティアは落ち着かない気持ちになっていた。
王宮につくと、フィカルトが玄関にいた。
「陛、下?
なぜこのようなところに、いらっしゃるのですか?」
「本日から、ミレティア殿が役目を果たすため王宮に来ると聞いてな。
様子を見に参ったのだ。
すまないが、よろしく頼む」
フィカルトにまっすぐ見られ、ミレティアはうなずいた。
「当主様、こちらでございます」
今日は初日とあり、フランシアの際に付き添っていた衛兵が特別についてきた。そのものの案内で、王宮を進んでいく。
途中、すれ違ったものは年配の者は、ミレティアに丁寧に頭を下げるが、年若いものは興味深そうに見てきた。
着いた先にあったのは身長の数倍はあろうかという巨大な扉。
「扉の中央にあるくぼみに、当主様の血を数滴垂らしてください」
そういうと、すっとナイフが差し出される。ミレティアは恐る恐るそれで指先を切ると、言われた通りくぼみに数滴垂らした。
すると、すぐにゴゴゴゴゴゴゴという音がしだした。
「我々はこちらでお待ちしております。
どうぞ、立派にお役目を果たしますよう、お祈り申し上げます」
一人中に踏み入れると扉がもう一枚現れた。どうやって開けるのかと、周りを探っていると、扉の横にある机に丁度ペンダントがはまりそうなくぼみと、パズルがあった。
パズルのピースを一つ一つ見てみると、見覚えがある古代文字が書かれていた。
文字を文章へと並び替え、くぼみにペンダントをはめると、扉が開いた。
心臓がばくばくとうるさい中、ペンダントを回収したミレティアはゆっくりと中にふみ入れた。
扉の中に足を踏み入れた瞬間、ミレティアは固まった。そこは王宮の一角とは思えないほど巨大な空間で、緑豊かなところだった。
陽が入らないはずなのに明るく、川もあり、ミレティアは混乱している。
《おや、人の子のにおいがする。
もしや……、フランシアか?》
ミレティアの頭に直接、人ではない何かの声がした。ミレティアは驚き、あたりを見回す。すると、川があった方から巨大な何かがこちらへと向かってきたのがわかった。
「な、なに?」
《我のことを知らぬ?
フランシアではないのか。
いやまてよ、この匂い……。
もしや、フランシアの子か!?》
目の前に現れたのは、巨大な、龍。
頭が理解するより先にミレティアは叫んでいた。
《待て待て、襲いはしない。
落ち着いて、我の話を聞いてはくれないか。
その様子だと、フランシアから何も聞いていないのだろう》
龍の言葉にミレティアはゆっくりとうなずいた。
《こちらに参れ》
そう言うと龍はのしのしと歩き出した。向かう先には、一軒の家がある。家の横には、龍が入れるスペースと人が座る場所があり、龍はそこへまっすぐに向かった。
《まずは自己紹介だな。
我が名はリュクドリーン、当代の神龍である。
そなたの名は何という》
「わ、私の名はミレティアです。
ミレティア・サンタリアと申します」
《ふむ、ミレティアか。
フランシアも良い名を付けたの》
そう言うと、リュクドリーンはにっこりとした。ミレティアはリュクドリーンからは安心できる空気を感じていた。
《しかし、そうか。
フランシアの子がここに来てしまったということは……。
まあ、過ぎたことは仕方ない。
何か聞きたいことはあるか?》
「あの、母を知っているのですか」
《もちろん。
フランシアが先代の当主であったからな》
「あの、私、ここで当主がなにをしているのか知らないのです。
私は何をしたらよいのですか?」
《我にそなたの魔力をくれればよいのだ。
我は空気から多少の魔力を得ることはできるが、この地を覆うのにそれでは足りない。
そのため、サンタリア家当主から極上の魔力を直接もらっておるのだ》
「魔力?
でも、私魔力など……」
《持っているよ、ミレティアは。
それはその髪を見ればわかるし、何よりこの地に入ってくれたのが何よりの証だ》
ミレティアがふしぎそうな顔をしていると、リュクドリーンが補足をしてくれた。
《髪は最も魔力を貯めやすい。
体にとどめきれない魔力を放出するための媒体として、髪を使っているんだ。
そのため、ミレティアの髪は輝いている。
それに、ここに入ってくるときに扉に血を垂らしただろう。
あれは、サンタリア家当主ほどの魔力を持たなくては開かないのだ》
その言葉にミレティアが驚いていると、リュクドリーンが笑った。
《まあ、ゆっくり理解していけばよい》
「あの、どのように魔力を渡せばよいのですか?」
《魔力の譲渡法、か。
我はもらっていただけだからな、正直よくわからない。
ただ、フランシアはいつも、我に手を当てて魔力を移していた。
わからないなら、確か家の中に本がいくつかあったはずだ》
ミレティアはとりあえず、とリュクドリーンの腹に手を当ててみる。周りは堅そうなのだが、腹は柔らかくあたたかい。
(魔力よ~、移れ~)
始めは何も起こらなかったのだが、少し経つと木の時と同じように暖かいものが自分から流れていくのを感じた。
《おお、久しぶりの魔力だ!
おいしいぞ、ミレティア。
ああ、生き返るようだ》
リュクドリーンは泣きながら喜んだ。
どうやら、自分の魔力をリュクドリーンに渡すことができたようだと安心すると、ミレティアは急に体が重くなるのを感じた。
《す、すまないミレティア……》
リュクドリーンのそんな声を聴きながらミレティアは意識を失った。




