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ついに、儀式の日がやってきた。前日も十分忙しかったが、今日はその比ではない。式では毎回、前当主が紫のドレスを、新当主が銀のドレスを着ることとなっている。
それにのっとり、冷水で身を清めた後、ミレティアは輝くような、シンプルな銀のドレスを着せられた。そして、きれいにメイクをされると、昨日と同じように髪をセットされる。
侍女たちの素早い手技に、ミレティアは何も言えなかった。
準備が終わると、会場となるホールの上座につながる扉の前に案内された。途中でちらりと見た外に、たくさんの着飾った人が見えた。
全員、今日の儀式のために来たんだ、そう意識すると緊張が何倍も増してしまった。ミレティアが何度も深呼吸していると、ふいに頭を撫でられる。
見ると、そこにフィカルトがいた。驚いて何も言えないでいると、証明人で来たんだ、といった。
ミレティアは、驚いたことで緊張を忘れてことに気が付いて、ありがとうございます、と小さくいった。それに小さくうなずくとフィカルトは先に扉の中へと入っていった。
「これより、サンタリア家、当主交代の儀を執り行う。
証明人は、当家の法に則り、国王陛下にお願いしている」
会場全体に響くような、カトレアの声に会場にいるすべての人が、上座にいるフィカルトへと視線を移した。視線を感じたフィカルトは、すっと立って一礼した。
「では、新たに当主となるミレティアに入ってきてもらおうか。
ミレティア、入ってまいれ」
ミレティアは一歩一歩、慎重に足をすすめる。一度に見られたことのない量の視線にさらされ、ミレティアは再び緊張したが、何とかカトレアの前に来た。そして、優雅にカトレアの前に跪いて、首にペンダントをかけてもらった。
ミレティアの所作と美しい銀髪に、見ているものはうっとりとしていたが、ペンダントをかけてもらったミレティアが正面を向くと一様にざわついた。
(おい、あの瞳!)
(どうなっているんだ!?)
そんな言葉が、ミレティアにも聞こえてきた。それにミレティアは少しぐっと何かを我慢するような表情をして、一度深呼吸した。
「初めまして、皆さま。
本日は、この儀に足をお運びいただきまして誠にありがとうございます。
新たにサンタリア家当主となる、ミレティア・サンタリアと申します。
どうぞよろしくお願い申し上げます」
ミレティアが丁寧に挨拶をすると、儀式の参加者は皆、手を胸に当て、深く礼をし、忠誠を誓った。まだ、サンタレア家の当主交代の儀とあっているのは基本的に身内のみ。そのため、混乱はしていても、明らかに当主の力を持っている少女に逆らえるわけがなかった。
その様子にミレティアは微笑みを返すと、カトレアと共に去っていった。
問題はこの次にある、他の貴族たちを招いた当主のお披露目会だった。先ほどは何もつけていなかった首に、先ほど受け継いだペンダントをつける。久しぶりの重みに、ミレティアの心は少し落ち着いた。
「どうぞ、お入りください」
扉にいるものの合図にあわせ、ミレティアが会場に足を踏み入れる。すぐに人々の視線はミレティアへと集まり、そして固まった。先ほどと同じで、ミレティアの瞳の色に気が付いた瞬間、皆驚き、困惑していた。
「今宵は、ようこそおいでいただきました。
新たにサンタリア家の当主となりました、ミレティア・サンタリアと申します。
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます
本日は心行くまでお楽しみください」
ミレティアの言葉に合わせて、ホール担当の使用人が飲み物を運んでくる。ふつうなら、そこからいたるところで乾杯の音が聞こえるのだが、今日は違った。
人々はいまだざわめいている。
少し経つと、正気に戻った人からぽつぽつと下座に降りたミレティアに挨拶に来た。
「初めまして、ミレティア様。
私はチェリスカ公爵家当主、フクルアと申します。
こちらは息子のフーズアイ、どうぞお見知りおきを」
フクルアに合わせて、ミレティアに見とれていたフーズアイも慌てて礼をする。この人を筆頭にその後も人は絶えなかった。
次から次へとあいさつに来る人の中には、同じように息子を紹介する人も、ミレティアに探るような眼を向けてくる人もいた。少し居心地が悪かったが、ミレティアは何とか我慢した。人の列が途切れると、ミレティアは早々に場を後にした。
それはもともとカトレアに言われていたことで、あとはカトレアが引き受けてくれるという。多少ありがたく感じながら、ミレティアはさっさと部屋に戻った。
部屋に着き、一息つくと急にお腹がすいてきた。朝からバタバタとしていたため、ろくに食事をとっていなかったことに気が付くと余計にお腹がすいた。
「失礼いたします」
その声と共に入ってきたのは、サンドウィッチと紅茶を持ったマリアンナだった。机にそれらを置くと、手早くミレティアの着替えを手伝う。
銀のドレスから部屋着に着替えると、肩が軽くなった。
「どうぞ、お召し上がりください。
本日はあまり食べている暇もありませんでしたから、お腹がお空きでしょう?」
ミレティアはその言葉にうなずくと、すぐにサンドウィッチを口に入れる。久しぶりにゆっくり食べた食事はとてもおいしかった。
マリアンナが入れてくれた紅茶を飲むと、長く息を吐きだした。
「とてもおいしいわ。
ありがとう、マリアンナ」
「お礼は不要です。
ご満足いただけたなら、よろしいのです」
そう言って、マリアンナはすぐに片付けをしだした。いつもと変わらない様子に、ミレティアは思わずほっとする。
「今日は疲れましたので、もう寝ますわ」
ミレティアはそういうと、さっさと支度を済ませて寝てしまった。その様子にマリアンナは思わず微笑み、お休みなさいませ、と言って部屋を後にした。




