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部屋に戻っても、ミレティアの気は晴れないでいた
(せっかくの親族なのだから、叔母様とも叔父様とも仲良くしたいと思うのに、うまくいかないわ。
……先ほどの叔母様の反応からして、木にエネルギーを流すのは当主にしかできないことのよう。
市場でフルーツを売っていると、いつも他よりおいしそうだとよく売れたのと関係があるのかしら。
ああ、本当にうまくいかないわ)
ふかふかのベッドに転がり、枕に顔をうずめながらミレティアは考えていた。
「失礼いたします、ミレティア様」
入室してきたのは、マリアンナ。家用とはいえ高価には変わりないドレスを着たまま、ベッドに転がるミレティアを見ると、すぐに眉尻を吊り上げた。
「ミレティア様、はしたないですよ。
もう、外に出ることがありませんでしたら、部屋着に着替えてはいかがですか」
食事を別にとっている現在、昼とはいえ今日はもう外には出ないだろう、そう思ったミレティアはおとなしく部屋着に着替えることにした。今日はもう家庭教師も来ない。
「そうですわね、着替えてしまいましょう。
手伝ってくださる、マリアンナ?」
マリアンナは、何も言わずクローゼットから部屋着を取り出す。本当なら一人で着たいのだが、なぜかここにある服は一人で着替えるのが困難なものばかりで、ミレティアは自由に着替えることもできないでいた。
ミレティアも無言で着替えをはじめる。着替え終わると、ようやくマリアンナが口を開いた。
「当主交代の儀の日程が決まりました」
その言葉に、とうとうその日が来るのか、とミレティアは緊張した。
「一週間後に執り行います。
またその前日には国王陛下に挨拶に伺います。
何か不明な点はございますか?」
「あの、あの、どうして一公爵家が当主を交換するからと言って、陛下にお目見えしなくてはならないのですか?」
「サンタリア家は特別なのです。
それはご存知でしょう?」
不思議そうにマリアンナはミレティアの方を見た。緊張からか不安からか、顔色を悪くしたミレティアを見て、少々お待ちください、と言って下がる。
マリアンナが部屋からいなくなった後も、ミレティアは動けなかった。実はサンタリア家に来たと言っても、ミレティアは教育を受けるぐらいしかしていない。
それは、現在の当主がカトレアだからであり、本来ならすぐに役目をはたしてほしいと周囲は考えていた。そのため、異例の速さで、儀式を執り行う日が決まった。
ミレティアはまだ役目を果たさなくてもいいという安心感から、役目の重みについて考えるのをやめていた。しかし、それは唐突に再びミレティアの前に現れたのだ。
「失礼いたします、ミレティア様」
戻ってきたマリアンナの手には銀のトレーがあった。そこには紅茶と茶菓子が乗っている。
「これを、どうぞ」
それは、見覚えがあるものだった。まえに隠れ家でリレイアンが入れてくれた紅茶に、用意してくれたクッキー。
ばっとマリアンナを見ると、苦笑していた。
「フランシア様が好きだったとお聞きしたので。
ミレティア様のお口に合うかはわかりませんが……」
そう言い、下を向いたマリアンナをまじまじとミレティアは見てしまった。
「あなたは、何者?
どなたにそれを聞いたの?」
マリアンは諦めたように一つ息をついた。
「私の母は、フランシア様にお仕えしておりました。
母はフランシア様の侍女になれたことが、大変うれしかったようで、なんでも私に話してきました。
ですから、存じ上げているのです」
マリアンナは、そこまで言うとミレティアの方をまっすぐに見た。
「カトレア様の命で、ミレティア様と親しくできるものはおりません。
ですが、皆あなた様と話してみたいと思っているのです。
当主となった後は、使用人の方から話しかけるのは無礼となっております。
とうぞ、ミレティア様から話しかけてあげてくださいませ。
ここには、長年サンタリア家に勤めているものばかりです。
フランシア様が家を出られたことで、ショックを受けたものもおりますが、何か理由があったのだろうと、フランシア様がお戻りになるのをお待ちしておりました。
しかし、ミレティア様という後継者を育て、お亡くなりになったと知ったとき、使用人たちは悲しみました。
それほど、フランシア様というお方は愛されておいでだったのです。
そして、フランシア様に注がれていた期待や希望を、今度はすべてミレティア様に注いでおります。
どうぞ、それを覚えていてください。
ミレティア様がご当主として使用人たちに接する方法によって、使用人たちが抱く思いもまた違ってくるということを」
最後に一礼すると、後ほどまた参ります、と言ってマリアンナは下がった。今まで、何もわからないと思っていたマリアンナやほかの者の気持ちを聞いて、ミレティアは嬉しくなった。
抗うことができずやってきたこの家で、これからもこのように肩身の狭い生活を送らなくてはいけないと思っていたミレティアにとってそれは願っていたことだったのだ。当主となることへの思いをまた新たにして、ミレティアは勉学にいそしむことにした。




