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ミレティアが部屋へと戻り、しばらくすると再びノックの音が聞こえてきた
「どうぞ」
どのみち自分に拒否権はないのだろうと、すぐに返事を返すと一人の男性が入ってきた。見た瞬間、リレイアンの父だ、と分かった。顔も雰囲気もどことなく似ているのだ
「お休みのところ失礼するよ、ミレティア。
私も姪の顔を見てみたくてね。
私は、ソラトレン・サンタリア、リレアインの父だ。
君の叔父にあたる。
リレイアンが随分と世話になったようだね」
その言葉にミレティアは体を硬くした。にこやかなソラトレンの表情からは、心の中でどのような感情を抱えているのか見えてこない。リレイアンに対する罪悪感と、感情の見えないソラトレンに対する恐怖からミレティアは何も言えなくなった。
「ああ、決して責めているわけではないよ。
あれは愚息が自分の意志で、自己満足のためにやったことだ。
その結果、何が起きても自分の責任、ミレティアが気に病む必要はない
むしろ、命を落とさなかっただけまし、ともいえるな」
一人納得したようなソラトレンの言葉に、ミレティアは唖然とする。ミレティアは先ほどのカトレアの件があったせいで、この兄妹に対して必要以上に警戒していた。このにこやかな様子が、ソラトレンの本心でいいのか、ミレティアはひそかに悩んでいた。
「そのように、割り切ることは……」
「ふむ、まあミレティアがどうとらえるかは自由だ。
……君は、姉上とよく似ている、先ほどはそう思っていた。
でも、少し違うようだ。
君の方がよっぽど純粋で、性質が悪い」
性質が悪い、と言われたのは初めてだった。再びミレティアが唖然としていると、ソラトレンは急に表情を暗くした。
「カトレアも、決して悪い子ではないんだ。
ただ、少し姉上に対する感情が制御できなくなってしまっただけで。
……つい、長居してしまったようだ。
これからよろしく頼むよ、ミレティア」
では失礼する、と言ってソラトレンは帰っていった。結局何がしたかったのか分からなかったが、ミレティアは少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
次の日にやってきたのは、ソシラン・バレインという家庭教師を名乗る女性だった。ミレティアを当主交代の儀までに、当主にふさわしい淑女に育てると息巻いていた彼女だったが、思っていたよりもミレティアは手のかからない生徒だった。
一方、ミレティアは徹底的に周りの者から隔離され、監視される生活に辟易していた。サンタリア家での暮らしは全てが高級品でそろえられ、何不自由ない生活ではある。しかし、下町での自由な暮らし、木や町の人たちのふれあいがない生活は退屈、というよりも苦痛だった。
外に見える木が、自宅の庭にあった木よりも元気がないように見えるのも気がかりだった。
「あの、庭に出てみたいのですが」
ミレティアが朝食の席で、マリアンナにそうお願いすると、マリアンナは少し考えるようにした後、許可を出した。ただし、マリアンナが同行するという条件付ではあったが。
久しぶりの外の空気に、ミレティアはわくわくしていた。手を広げ、空気を一杯に吸い込むと自然の香りが混じっていて、心地よい。そして、近くの木に手をかけると、やはり自宅のものと比べ元気がなかった。
それはただの感覚なのだが、木に流れるエネルギーのようなものがあまり活発に動いていないように感じる。
(どうか、元気になって)
ミレティアが、木に手を当てそう願うと、何か暖かいものが自分から流れるのを感じた後、木に流れるエネルギーが急に活発になった。ニョキニョキと伸びた木は、先ほどまでは一つもなかった実をつけていた。
「きゃあ!」
近くで聞こえたマリアンナの声に、ミレティアが驚いて振り返ると木の成長は止まった。何が起きたのか、いまいちわかっていないミレティアは自分の手と木を何度も見比べる。
「何事じゃ!」
動けないままのミレティアのもとに来たのは、カトレアだった。しまった、とっさにミレティアはそう思った。
「これは、どういうことじゃ!?
ミレティア、そなたがやったのか」
ぎろりとこちらを睨まれては、ミレティアはうなずくしかなかった。まだ、納得はできていないが状況的に考えるとそれしかない。
「そなた、そんなにも私を愚弄したいのか!
私にはできぬことを見せつけ、楽しいか!?」
激高したカトレアはそうミレティアを責める。カトレアを愚弄したつもりなど一切ないミレティアは、否定しようとするが、そんな言葉は耳に入っていないようだった。
マリアンナも固まったまま動かない。
「まあまあ、それくらいにしたまえ。
ミレティアは、まだ力を自覚してすらいないのではないか。
少し冷静になりなさい、カトレア」
場に似合わない、のんびりとした声で入ってきたのはソラトレンだった。ソラトレンの言葉に正気を取り戻したのか、カトレアはミレティアを睨むと去っていった。
「不用意に、カトレアを刺激してはいけないよ。
私がいつもいるとは限らないからね」
真剣な声色でそういうと、ソラトレンも去っていった。ミレティアは、怒涛の出来事に一気に疲れてしまったが、微かに聞こえた気がした「ありがとう」という言葉に、間違ったことはしていないと思った。




