第5話、『ガラガラになったお店で靴を発見。とりあえず辺りを見渡してみる』
「うわぁ…」
「──?」
販売店舗だと思われる建物に踏み入れた。
その中は当然の如くボロボロであり、
「靴は……っ!?…原形をとどめてない…だと…」
崩れ崩れの布屑となった何か…いや、靴だ。
それはもう腐敗によって、既に履ける形をしていない。
「他を……ん?」
そして目に入ったのは、薄く書き込まれた製造年。
「2850年…………2850年!?」
「──!?」
「あ、悪い」
肩をビクつかせた少女に一言謝りながらも、目を疑う文字に混乱する。
自分が冷却睡眠保存を希望した年から数百年が経過している。
その事実は簡単に受け止め切れず、証拠が記された布屑を落としてしまう。
「2850年…でも、この靴が2850年に製造されたとして腐敗が酷過ぎる……つまりそれは……」
もっと言えば、追加で100年以上が経っていてもおかしくない。
ついに膝から崩れ落ちて……しまわなかった。
身体を支えてくれた少女のおかげで、
「すまん…」
「────?」
「いや、もう色々と混乱してな……ちょっと理解に時間がいりそうだ」
何かを問う少女に通じない返答を伝えて、自分の力で立ち上がる。
「とにかく靴だ。1つくらい履けるやつが残っているはず」
倉庫らしき部屋を開け、山積みとなった段ボールの山を見つけた。
その中の一番奥底。
空気や雨に触れてなさそうな底から、適当に箱を取り出す。
「ギリ履けるな。でもサイズが」
ハズレを捨てて、次の箱を開ける。
そして自分に合うサイズ。見つけた黒い運動靴を履く。
「これでひとまずよし…じゃないな」
「──?」
「『どうしたの?』か? ちょっと逃げられない現実に精神を病んでいるだけだ」
生きてきた時代から大幅にタイムスリップ。
人類が消えた大都市。
緑に覆われた世界。
ああ なんだろう この状況。
映画の世界に迷い込んだ気分だ。
「なぁ、君以外に誰か人はいるのか?」
「──?」
「伝わるわけないか。この質問のジェスチャーも思い浮かばないし…」
でも、目の前の少女が生きているということは、他にも生きた人類がいるということだ。
その可能性が ギリギリのところで精神を保たせてくれた。
「上から周りを見たいな。大きなビルの屋上から」
少女にやりたいことを伝えて、建物から出る。
当然 何も知らずに少女はついてきた。
「あれだな。これから あの建物に行くぞ」
視界に映った 一番高い建物を指差して 少女に自分の考えを伝える。
「歩いてどれくらいだろうなッッと!?」
「──」
「また、女の子にお姫様抱っことか 男として泣きそうだ」
いきなり背後から持ち上げられて、少女の腕の中に身体が収まる。
そして少女は走り出した。
「──♪」
「ああ楽だな。楽だけど男としてのメンタルがズタボロになっていく。そして早過ぎて怖い」
少女の足だというのに、バイク並みの速さで走っている。
時には大穴を飛び越えて、ビルの上をひとっ飛びしたり、
忍者と呼ばれても不思議じゃない運動能力に、色々と理解が追いつかない。
「なあ?どうしてそんなに早く走れたり、高く飛べたりできるんだ?」
「──────」
「なるほど なるほど……さっぱり分からん」
そう会話している間に、目的地だった建物の前に辿り着いた。
「じゃあ上がるか」
壊れたガラス扉を潜り抜けて、エレベーターを……
押しても動くはずがなかった。
そして頭によぎったのは、
「……いやいや 絶対に登れない 何十階あると思ってるんだ俺」
自問自答にツッコミを入れる。
そして次に考えたのは 少女の運動能力を使った……
「ジェットコースターよりも怖いよな……ああ絶対に怖い」
「──?」
「だが外の壁を登るわけではなし 非常階段を登ってもらうわけだから……それでも女の子に抱っこされるのは色々と辛い」
足元に落ちていた鉄パイプを拾い上げ、考えを絵に描いて伝える。
「なあ お願いがあるんだ ちょっと見てくれ」
建物?
2人の人?
矢印?
『自分を抱えて、屋上まで連れて行って欲しい』
そんな絵を描くと、少女は自信のこもった顔で首を縦に振る。
そして、
「ああ やっぱりお姫様抱っこか……でも ちょっと待て」
「──♪」
「ねぇ?なんで外に出ようとしてるの?非常階段は あっちに」
「──♪」
「この流れってアレだよな?ちょっと待って!それはマズイ!本当にマズイ!」
大声を上げながら暴れるが、少女の腕力に手も足も出ない。
そして少女の顔には、
『余裕♪余裕♪』と、通じずとも分かった。
「ちょっと待って!」
「──っ!!」
「チョォォォォ──!?」
強力な重力に襲われながら、少女は小さな足場を踏み抜いて跳躍する。
連続で、休む暇もなく、少女は余裕の表情で上で登る。
そして1分もしないうちに屋上に到着した。
「もうっ…死ぬぅ…お姫様抱っこジェットコースターは嫌だぁ…」
「──♪」
「『どうだった?』か?いや、頼んでおいて ほんと悪いけど もう乗りたくないと思ったよ」
少女に降ろしてもらい、砕けたコンクリートを踏む。
そして外に広がる光景だが、
「ああ やっぱり現実なんだよな…」
「──」
廃墟となった大都市。
人類の手から離れた、
錆びた建物、砕けた道路、統一性のない生え伸びた樹々。
やはり とは予想していて、膝をつくほどのショックはなかった。




