第4話、『少女にお姫様抱っこされて、無事に生還』
「なんか…その、ありがとう」
「──。────」
隙間から漏れる光を頼りに、必死に通気口を潜り駆け抜けた。
だが途中で力尽きて、それに気づいた少女は、狭い場所で自分を引っ張って進んでくれている。
「名前も思い出せない。そして何が起こっているのかも分からない」
「────」
「最初に見たのが白衣を着た大人達じゃなくて、制服っぽい服を着た少女と、でっかい恐竜……なにこれ?」
「──。──」
「なぁ。君の名前は?なんて言うんだ?」
「──?────」
「分からないか……英語でもないないよな……何語なんだ一体?」
「────」
少女も声を発して、自分に何か語りかけてくれているが、お互いにまったく通じ合えていない。
そんな中、少女は動きを止めて、トントンと壁を叩いて音を鳴らした。
そして何かを確かめてから…
ドォン!ドォン!ドォン!と、
壁板を粉砕し、自分を抱えて外に出る。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「──」
「降ろしても大丈夫だぞ。あとは自分で歩けるから」
「────────」
何を言っているか分からないが、少女は自分を気遣っているみたいで、身体を両手でガシッと固定される。
その親切心は嬉しかったが、少女に抱えられている恥ずかしさから、顔に熱がこもる。
「……とにかく外に行こう。大人がいれば事情を説明して─」
「────」
少女は動き出し、風を感じる方向に歩き始めた。
やがて空気の匂いが変わり、ホコリっぽい異臭から解放される。
そして苔と草が生えた扉を、
ドォンと少女はひと蹴りし、
太陽の眩しい光が身体を照らした。
「んっ!!……だがこれで」
目が光に慣れて、ゆっくりと前を見上げる。
そして最初に見えたのは、
「っっ!?何なんだ……これは……」
半壊したビル。
砕けた道路。
あたり一面中に生い茂る草花。
無人の廃墟。
それはまるで人類が長く手を加えてこなかった世界。
緑一色の背景がそこに広がっていた。
「誰も…人間が1人もいない」
「──?」
「なぁ…どうしてっ…ここは…」
聞くべき質問が定まらない。
だが、どうせ通じないのだ。
だったらと、俺は少女の手を小突き、降ろすように頼む。
「……はは、痛いな……そういえば裸足だったな」
冷却睡眠に適した専用着。
その薄生地の白い服と白いズボンだけで、靴は履いていなかった。
「──?」
「とにかく大人を探しながら、何か履ける物も探すか」
「──」
「それで……どうすればいいのだろうか?」
背後で立っている少女を見て迷う。
一緒に行動して欲しいが、少女には何か目的があるかもしれない。
ただ理由もなく あの場所にいたとは思えない。
この現状について色々と聞きたいこともある。
だが言葉がまったく通じない。
「…………心細いけど」
諦めた顔を作りながら片手を上げる。
それを見た少女はその片手に視線を向けた。
そして瞳が左右に揺れる。
「さよならだ。何か色々あったけど、君がいなかったらヤバかった。ここまでありがとうな」
バイバイと手を振りながら、少女にお礼を伝える。
それ真似したのか、少女も同じように手を振り返した。
「じゃあ、また会えたらな」
ゆっくり振り向き、少女を背にして1歩踏み出す。
目的は大人を見つけることと、靴を履くこと。
それを行動の主軸にして、とにかく進もうと決めた。
────────コツコツッ
ん?背後から足音が…って、
「なんでついてきてるの?」
「……──。────」
「ごめん。やっぱり分からない」
少女の紡いだ言葉は相変わらず分からない。
そして何を理由についてきたのかも知ることはできなかった。
「…………えっと…ついてくるか」
ちょいちょいと、歩く先を指差すと、
少女は首を縦に振った。
「……ジェスチャーが必須、と」
少女とのコミュニケーション方法を考えながら、一緒に砕けた道を歩き始める。