第2話、『少女は走って逃げる。暗い暗い研究施設の中で。そして見つけたのは──』
「嫌ぁああ!お願いだから見逃してぇえ!」
黒い服を揺らす1人の少女は、ボロボロの刃物を振りながら全力で走っていた。
『GARRRRRRッッ!!』
「なんでそこまで必死なの!お腹空いてるなら適当に壁でも食べればいいじゃない!アナタ達は無機物も食べられるんでしょ!」
『GARRRRRRッッ!!』
「私なんかよりも絶対に美味しいから!だから私よりも壁を食べて!そして私を見逃してぇええ!」
『GARRRRRRッッ!!』
「嫌ァァアアアアア!」
廃墟と化した崩れた廊下を全力疾走。
響き渡る命乞いの声は、背後から追いかけてくる4足歩行の怪物の覇気に消し去られてしまう。
「ヒィィイ!?掠ったよ今!?私の髪の毛がぁあ!!」
明るい夕陽色の髪を切り飛ばしたのは、怪物の両手に備わった鋭い爪。
生々しい赤色の爪は、周囲にある柱や壁を次々と両断していく。
「その爪を1本だけでもでいいので頂けませんかぁあ!きっとすごい武器になりますからぁあ!!」
『GARRRRRRッッ!!』
「ですよねぇええ!?分かってました冗談言ってすいませんでしたぁああ!!」
ヒィイイと悲鳴を叫びながら、少女は脇目も振らずに跳躍。
壊れたエスカレーターの上までひとっ飛びして、疾走を再開する。
ドカァアン!と背後から崩壊音が鳴り響く。
そして立て続けに響いてきたのは、地鳴りと呼べる足音だった。
「ここまで追いかけてくるの!?もう止まってよぉお!只でさえ知らない場所を走り回っているというのに!」
『GARRRRRRッッ!!』
「もう出口が分からない!地面が崩れ落ちて変な道に入っちゃう私って本当についてないよ!どうして私がこんな目に!」
『GARRRRRRッッ!!』
「もう駄目ぇえ。もう限界ぃい。もう私死ぬぅうう」
足の動きが段々と下がり、怪物との距離が狭まっていく。
足に限界を感じ、隠れなければと物陰を探す。
そして見つけたのは中途半端に隙間が開いた扉だった。
「とにかく助かればぁああとりゃああ!!」
隙間が開いていた扉にひと蹴りして、頑丈な板が跳ね飛んだ。
怪物の図体では入れない扉跡?を潜り抜けて、少女は辺りを見渡した。
「ハァハァハァって!?ここ 行き止まりじゃない!!」
絶望に叫ぶ少女の後ろで、ドォン!と振動音が鳴った。
『GAR!GARRッッ!!』
「ヒィィイ!?で、でもその身体じゃあ入れないでしょう!!分かったら諦めてどこか行ってよぉお!!」
ドォン!ドォン!ドォン!
ピシッ、ピシッ、ピシッ。
「壊れるぅう!?ちょっとやめて!」
怪物が身体を扉跡?に打ち付けて、その周囲の壁にヒビが入り始める。
破片が飛び散り、やがては壁は崩壊するだろうと、少女の顔は真っ青に染まった。
「と、とにかく何か!!何か!!」
タイムリミットに追い詰められる少女は、周囲を見回して脱出する手段を探す。
だが、初めて訪れた場所であって、視界に映るものが何なのか1つも分からなかった。
「も、もぉおおヤケだぁあああああ!!」
バンバンと辺りを破壊する。
拳と蹴りを使って、形ある物を破壊しながら、扉跡?に向かって投擲。
だが、怪物には効果はなく、益々と勢いづいた動きで突進を繰り返していた。
とにかく何でもいい。今できることは全てしてやる。
そんな気持ちで少女は、広い白色の板を叩いた。
バチバチ!パン!!
「ウェッ!?」
すると火花が散り、空間が光に満ちた。
叩いた白い板の底には、数え切れない数のコードがびっしり詰まっている。
そこから火花が大量に散り、少女はすぐに突き刺していた拳を引き抜いた。
「な、何が起こってるの!?これって私が原因!?」
少女が戸惑う中、部屋の中央に穴が開く。
暗い影の底からシュ〜〜と冷たい煙を吐き出しながら、丸みを持った突起物が姿を現した。
汚れのない真っ白な卵状の人工物。
その登場に少女は何なのか分からず、
「コイツで!」
ガシッと、その人工物を両手で抱え、引っ張り上げようとする。
だが、
「くっ!?抜ぅけないぃいい!?」
少女の何倍もの大きさをした人工物だったが、少女にとってそれは楽々と持ち上げられると思っていたらしく、驚愕が顔に浮かんでいた。
「引っかかってるの!?これじゃあ投げられないじゃない!!」
『GAR!GAR!GARRッ!!』
「こんのぉお!抜けろォオオ!」
ミシミシと、人工物ではなく少女の足場に亀裂が入り始める。
「ぉおおおおおおお!!」
────『All Clear』
「へ?」
突然と響いた機械声に、少女は瞠目した。
────『Open』
ゴゴゴッと、少女が抱えていた人工物が振動を帯びる。
そしてゆっくりと開き始めた隙間から、湯気らしき熱い煙が放出。
そして、
「…………ここは?」
「誰!?」
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