1-9.台風、夏、俺、アホ毛チェンジリング
「……」
「……」
「……」
帰りの車内で、お通夜状態となっている俺と親父と銀髪女。
親父の実験は当然のように失敗し、異世界の「い」の字すら現れずに台風は過ぎ去った。
そんな曇り模様の心に当て付けるように、晴れた空には満天の星空が輝いている。
星明かりと月明かりが窓から差し込むと、照らされてない部分がより暗く、深い影になっていくような気がした。
「はぁ……」
俺が吐いた溜め息が、冷えきった窓ガラスを曇らせる。
月明かりという光害があっても満天の星空が見えるのは、台風が余分な物を吹き飛ばしたからだろうか。
ついでにこの陰鬱な空気も吹き飛ばしてくれたらな。このままだと、罪悪感と隣の女のサイケっぷりに耐えられそうもない。
「……」
「……」
「……」
空気が重い。
俺と親父はわかるが、赤の他人である銀髪女までもが悲痛な顔をしているのは何故なのか。
少しイラっとくるので、コイツの赤いアホ毛を人参のように引っこ抜いてやろうと視線を向けると――
!?
そこには、とんでもない変化が起きていた。
「(あ、アホ毛が、赤いアホ毛が、黄色のアホ毛に変わっている……だと?)」
なんと、本来そこにあったはずの、ピンっと伸びた赤いアホ毛は既になく、代わりに黄色いアホ毛が力なくしなだれていたのだ。
一体何が起きたというのか。やはり付け替え式の付け毛なのか。
「……気付きましたね?」
銀髪女がこっちを軽く睨んだ。
一瞬、その目が猫のように爛々と光った気がしたが、気のせいだと思いたい。
「!? な、なにも気付いてないし、見てないぞ! 暗いしっ。あー、暗くて何も見えないなーっ」
「……そうですか」
こ、こいつには極力関わらないでおこう。なんかもう色んな意味でヤバそうだし、それに俺は疲れた。
今は早く、この短くも長い家路を進んで、布団の中で何もかも忘れて眠りたいのだ。
……そういや、俺の部屋の窓、ぶっ壊れてたな。