1-8.台風、夏、俺、あの丘
前書き
1-7と1-8の誤字修正。毛の回転追加しました。
いつの間にか、あの丘に到着していた。
小高い丘の上に、お社の両側から参拝できる一社両拝式の小さな小さな神社と、小さな灯台があるいつもの場所。
親父と母さん、俺と妹、それに“あいつら”との想い出が詰まった、大切な場所だ。
親父は転がり落ちるように車から降りると、後ろに積んである観測用の機材を急いで運び始めた。
相変わらず訳のわからん機器を並べて、次々と起動させてはデータを見る親父。
「《大気エアロゾル粒子(空気中の粒子)》に夜光虫を確認した! やはり、台風で巻き上げられているのか!」
何を言ってんのかわからんが、親父大興奮だな。
「夏雄くん! 今日はあの時に近い! 必ず“何か”変わったことが起きるはずだよ!」
「ですね。わかります」
ああ、“何か”は起きてるだろうよ。
親父の後ろでクソ雑な相槌を打ってる女が、まさにその何か変わったことの塊だろ。
「それなのに、なぜ光らない! お社にも灯台にも変化はない! なぜだ!」
「なぜでしょうね」
親父。それは、親父の言ってることが、ただのオカルトだからだよ……。
そう、俺の親父は――
「頼む、光ってくれ! そして、あの時のように導いてくれ! 粉雪ちゃんと母さんを生き返らせるためにッ! “異世界”へッ!!!!」
俺の親父は、心が、壊れていた―――。
「異世界なんか糞ですよ、お父さん」
あと銀髪女、お前は黙れ。