1-7.台風、夏、俺、転生サイケデリック
「《私、転生っ!! 許嫁っ!!》」
「は?」
残響音がかかったように、車内に銀髪女の声が響き渡る。
奇行すぎて意味がわからんし、マイクも何も見当たらないしどうなってんだ?
「……ウィ~ン」
「……んっ?」
俯き、小さく呻く銀髪女。
どうした? 体の調子が悪いのか? それともまた電波か?
柳幽霊のように銀髪が垂れ下がり、小刻みに震えている姿が少し不気味だ。
「だ、大丈夫か?」
致命傷か? 頭が、頭が致命傷なのか?
「……ウィ~ンっ!!」
!?
「ピーッ! ガガガガガッ」
!!!?
「おま、いや冬華さん、いきなりなにを……?」
「ウィ~ンっ! ウィ~ンっ!」
突如上を向くと、頭を揺らしながら謎の奇声を垂れ流し始めた銀髪女。
ヤバイっ! こいつはヤバイぞっ!
「おっ、親父っ! 聞こえてんだろっ? こいつヤバイって!」
もう頼みの綱は親父だけだ!
「台風フゥーッ! あははははっ、今会いに行くよ粉雪ちゃんと母さーんッ!」
駄目だっ。前も後ろもヤバイ!
親父は母さんと妹と台風のことで頭の中が一杯かよっ。もうどうしたらいいのか俺にはわからん!
「クルクルクルクル」
銀髪女は壊れたパソコンのような奇声を垂れ流すだけでは飽き足らず、指と目もクルクルと回し始めている。
こいつは電波女ってレベルじゃない。サイケ女だ!
「おい親父って! 後ろがヤバイんだって!」
「あははははっ!」
駄目だ聞いてねえ!
俺は、『親父親父、後ろの奴がヤバイよ』と子供が話しかけても無視される、かの有名な詩『ゲーテの魔王』を思い出していた。
あれって最後は子供が死んだような……。
「クルクルクルクル」
更に銀髪女は目と指だけでなく、狭い後部座席でクルクルと踊るように回り始め、奇行に奇行を重ねていく。
これは何かいけない物を摂取しているとしか思えない行動だ。
どういう仕組みか、赤いアホ毛も激しく回転している。
「あわわわわ」
「クルクルクルク……んっ」
俺が恐れおののいていると、女は急に奇行を止めて椅子に座り直した。
「……入りました」
「な、なにがだよ」
電波がか? 電波が入ったのか?
「第3426の角度から修正を確認。“局地的世界変革”を終了します」
急に真顔になった銀髪女。
まるで、何事もなかったかのようなその佇まいと落差に、俺は変な脂汗が止まらない。
「お、お前さ、さっきの奇行はなんだったの?」
奇行扱いされたからか、ムスッと不満げな顔を向ける女。
「遥か昔から続く伝統舞踊ですが、それが何か?」
「そ、そうなのか」
どこの伝統なんだよ。
秘境の電波村とか何かか?
「見ていてください。……お父さん、私と夏雄の関係はなんでしょう?」
急に何を言っているんだコイツは。
そんなもん親父にわかるはずな……
「台風フゥーッ!! んっ? 急にどうしたんだい冬華ちゃん? 君は夏雄の幼なじみで、“許嫁”じゃないかっ!」
んっ? 親父こそ急にどうしたんだい?
「ですよねお父さん。“今日も”お家に泊めさせて貰いますね」
「もちろんさっ! でも成功したら僕と夏雄は少しだけ留守にするから、帰りは僕のチームに送ってもらってね!」
「わかりました。……どうです夏雄。ちゃんとした設定でしょう?」
は? 状況がさっぱり飲み込めないのだが?
親父とこいつは知り合いで、俺をドッキリにはめているということか?
「親父、許嫁ってどういうことだよっ? 俺の幼なじみにこいつは居ないんだが、ちゃんと説明してくれよっ?」
「着いたよ夏雄くんっ!」