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1-4.台風、夏、俺、スケベ


「はい。私はあなたの父親の愛人です」


 あの親父ィイーッ!!


「いやいや、そんな話、信じるわけないだろっ。親父は母ちゃん一筋の一途男なんだぜ!」


 親父、俺は信じてるぞ。信じてるからなっ!

 銀髪女はやれやれと溜め息をつくと、泥だらけの足で部屋の奥へと進み、ノラ猫が占拠している晩飯ゾーンに……って、強風に煽られて足の小指をぶつけやがった。

 こいつは何がしたいんだ?


「だ、大丈夫か?」

「致命傷です」

「大丈夫そうだな。よし帰れ」


 銀髪女はノラ猫どもと同じく俺の命令を無視すると、晩飯ゾーンに腰を下ろした。まさか。


「いただきます」

「うんバカなの?」


 猫どもに混じって至極当然のように俺の晩飯にがっつこうとしたので、首根っこを掴んで引き剥がす。


「なにをするのです」

「それは俺の台詞なんだが?」


 アレか?

 新手の居直り強盗か何かか?


「凄く美味しそうなご飯があるので、食べようとしたのです。このままでは猫に全部食べられてしまいます」

「いや帰れよ」

「お腹が空いたのですが?」


 知らんがなっ。


「許可なく人の晩飯を食うなよ。やはり居直り強盗じゃないだろうな?」


 銀髪女は人差し指を口に当てると、赤いアホ毛を摘まみながら首を傾げた。

 指先からしたたる雨水が、薄桜色の唇に零れては、糸のように谷間へと流れていく。

 もちろん悟られないよう、仏のごとき穏やかな顔で脳内をREC(録画)モードにするのも忘れない。


「居直り強盗……? まあ、そうとも言いますね」


 サラリと白状する銀髪女。

 ちくしょうっ! やっぱり強盗じゃねえかっ!

 堂々と居直りやがって!


「お、お巡りさんを呼ばれたくなかったら帰れよ! もう二度とこんなことすんなよ!」

「嬉しいくせに」

「はあっ? う、う、嬉しくなんかねーし!」


 お前なんか見たくもねーし! やめろ! 谷間を見せるな!

 ……REC、RECっと。


「うるさいコブタ種ですね。客人をもてなす、それが人間というものでは?」


 いやさっき居直り強盗白状しただろ! 客人じゃねーだろ!

 コブタ種とか人間とかわけわかんねぇよっ。

 それにその赤いアホ毛を摘まむのは癖か? 癖なのか?

 腹立つからそのアホ毛を引っこ抜いてやろうか!


 俺が銀髪女のアホ毛を大根のように引き抜こうとしたその時、外から『キィィィィイッ!!!!』とドリフトレースのような凄まじいブレーキ音が響いてきた。

 この迷惑なブレーキ音と、騒々しい足音から伝わるテンションは、間違いなく親父だな。

 ビチャビチャと泥水を巻き上げるような音を響かせて、こっちに向かってくる気配がする。

 程なくして、窓と呼ぶ気もなくなるほどにぶっ壊れた俺の部屋の窓から、銀髪女と同じくらいビショ濡れになった親父が土足で飛び込んできた。


「夏雄くんっ!!!! 台風だよっ!!!!!!」


 いや玄関から入れよ親父ィイッ!!




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