1-1.台風、夏、俺、猫
前書き
フィクションです。
……暑い。そして暗い。
どうしようもないくらいに真夏の熱帯夜である。
さらにエアコンは壊れ、家は停電。窓は台風のせいでぶっ壊れた。
窓という名の窓の機能を果たしていない穴からは、雨と風が吹きっさらしで寝そべる俺にブチ当たってくる。
そのクソッタレな穴からは、この台風から逃れようと避難しにきたノラ猫たちが、ニャーニャーと絶え間なく侵入していた。
家主である俺を、道端に生えるペンペン草のように踏みつけては、泥だらけの肉球スタンプを俺の顔や服に刻み付けていくノラ猫たち。
その内の一匹をムニュっと掴むと、顔をうらめしそうにじっと見る。
「家賃も払わんとなにしに来とんじゃおまえら……」
なんともアホそうな顔をした猫だ。
猫の方も、“こいつアホそうだな”という顔をしてなくもないが、俺の気のせいだろう。
『ニャファァ~』
臭い欠伸を俺に吹きかけた猫は、俺の拘束から逃れると、テーブルに置いてある俺の晩飯にがっつき始めた。
他のノラ猫どもは俺が楽しみにしていたスイカとお菓子を漁っている。
「……もうどうでもいいわ」
諦めた。なにもかも諦め、精も根も尽きた。そんな感じだ。
俺の部屋は台風と見知らぬノラ猫に蹂躙されて、泥だらけのビショビショだ。
穴を塞いでいた段ボールや布も吹き飛んだ。今さら努力したって同じだろう。
台風が過ぎるまでは寝て待とう。俺の座右の銘は『果報は寝て待て』である。
窓という名の穴からは、未だ続々とノラ猫が侵入しているが、もう知らん。
ノラ猫でもノラ犬でもノラタヌキでもなんでも来い。驚く気も抵抗する気も失せた。
親父が帰ってきたら丸投げにすればいいだけだしな。
ふてくされて死んだ魚のような目になっていると、ふと、窓の穴から、薄明かりと共に人影のようなものが差し込んだ。
「おじゃまします」
いや誰だよ。